Uターンして「ナベヅルの里」で出版社をやっています
2018年、東京から生まれ故郷である山口県周南市八代(やしろ)に出版社を移転しました。一人暮らしをしていた高齢の母が背骨を圧迫骨折し、日常生活が不自由になってしまったため、思い切って会社ごとUターンしたのです。(母は、その後回復し、元気になりました)
八代は、本州唯一のナベヅルの渡来地で、緑豊かな(緑しかない?)山里です。スーパーに買い物に行くにも、車に乗って山一つ越えなければなりません。子どもの頃は、「早くこの田舎から脱出して都会に出たい」と熱望していたのですが、30年ぶりに帰った田舎は、なかなか快適です。インターネットのおかげで、著者やデザイナー、印刷会社などとのやりとりにも、あまり支障がありません。
山口県に帰って最初に出した書籍は、『大腸がん 最新標準治療とセカンドオピニオン』
という本です。本の完成直前に、医師用の「大腸癌治療ガイドライン」が改訂されたため、急遽その内容を盛り込むことになりました。はからずも、山口県の山里からどこよりも新しい医療情報を発信することができたのです。奥付に掲載された「山口県周南市八代…」という住所を見ると、「こんな山奥でも出版社を続けられたんだ」と、妙にしみじみしてしまいました。いい時代になったものです。
山口県にはあまり出版社がないので、「本を出したい」という人のサポートとして、自費出版事業も始めることにしました。熱い思いを持った、個性あふれる著者たちには、教えられることも多くあります。
自費出版第1号として発行したのは、『パワフルばあばは元いじめられっ子』
という本です。中学時代にいじめられっ子だった著者は、「つらいことの後には、いいことがある」と自らの波瀾万丈の人生を綴った本を制作し、今いじめで苦しんでいる子ども達に読んでもらいたいと、周南市の小中学校44校に本を寄贈しました。その話が地元の新聞各紙に取り上げられ、残っていた本は、あっという間に売り切れに。最初はネットだけの販売でしたが、こんなに評判がいいなら…と、今度は弊社負担で増刷し、地元の書店に置いてみることにしました。
80代の著者は、「とにかく文字を大きくしてほしい」というのが希望で、自社の通常の発行物ならありえない、大きな活字で印刷しました。これが著者と同世代の人には「これなら自分にも読める」と大好評。中学生ぐらいを対象に考えていた本でしたが、ふたを開けてみると、高齢者のニーズに合っていたのです。
いま出版準備を進めているのは、サメを長年研究してきた人の本です。この本の原稿を読んで、卵ではなく赤ちゃんを産む種類のサメがいることを知りました。自費出版だと、まったく畑違いの本も手掛けることになるので、勉強になります。
自費出版以外にweb上で、「山口出版チャレンジ」という企画もやっています。これは、購読予約が1000冊集まったら本を発行するという企画です。ハードルは高いのですが、自分もチャレンジしたいと、何本も原稿が寄せられています。中には、かなりの力作もあります。
山口県の著者を発掘し、いつかは山口県からベストセラー…。そんなことを夢みて頑張っている今日この頃です。