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校正しながら古傷が疼いた“800ページ超え9ポ2段組”の本

 1月某日
 昨年12月、パキスタン・アフガニスタンで、医療から農業用水路建設まで長年にわたって活動を続けてきた医師の中村哲さんがアフガニスタンで何者かに銃撃され、命を落とすという辛い出来事があった。

私がこの道に入ったのも、中村医師の著作(特に初期の『ダラエ・ヌールへの道』という本。石風社刊)を読み、支援母体であるNGO「ペシャワール会」のお手伝いを続けるうち、石風社に拾ってもらったのがきっかけである。そういう意味でも、中村医師には計り知れない恩義がある。
 この間、ペシャワール会の会報誌の臨時号の制作や葬儀・お別れ会の裏方など、まったく現実感のないままにめまぐるしく時が過ぎてしまった(そして、本当はこのリレー連載は1月にはお渡しすべきだったのに、わがままを言って延ばしていただきました)。
 賀状もろくに出せぬまま過ぎてしまった1月。不義理をしたみなさまにはこの場を借りてお詫び申し上げます。

 1月末日
 1月末、ようやく昨年秋の「ブックオカ」の事後処理がひと段落。もう10年以上つづけてきたことだが、夏ごろから準備を始め、年明けまで細々と雑務が続くのはしんどい。
 とはいえ最近は業界以外からボランティアの若い衆がたくさん参加してくれて運営を担ってくれているから、メインイベントである「のきさき古本市」の日(昨年は11月3日・祝)などは半分お客気分で散策しながら古本を買い漁ってしまった。毎年、この日が来るのが楽しみだ。今年は15年めの節目の年だから、もうひと踏ん張りせねば。
 また期間中の恒例企画「書店員ナイトin福岡」では新刊『橙書店にて』を刊行した橙書店の田尻久子さんをお招きすることができた。やはり現場の書店が元気でないとわれわれの業界は成り立たない。橙書店は独特の存在感を放ちながら地域の中で粘り強く営みを続ける小規模のお店だが、今年の6月には再開発によってジュンク堂福岡店が撤退を余儀なくされることになっている。今後はその穴をどこが埋めるのだろう。日常的にジュンク堂を利用していた読者の多くがネットに流れてしまうような気がして怖い。
 
 2月某日
 ひさびさに文芸書(小説)を手がけることになった。
 そもそも小説というのは地方をふくめ中小版元が手を出しにくいジャンルだと思う。あっても復刊などの例が多いはずだ。
 ということで、手がけたのは〈九州芸術祭文学賞〉という地方文学賞の歴代受賞作品集

すでに内容は固まっているから、やることはテキストの入力・底本との照合・修正…といった比較的地道な作業が大半だったのだが、今年で50周年という歴史ある文学賞だけあって、2段組/9ポ/832ページとなるとさすがに骨が折れた。届いた束見本は、ほとんど鈍器のようである。
 一方で、普段ノンフィクションや歴史ものばかり手がけているせいもあって、仕事とはいえ久しぶりに小説ばかりを読みまくる時間というのがとても贅沢な気がして、とにかく楽しかった。
 何せ第1回めの受賞作は1970年(昭和45年)の作品。私が生まれる以前に書かれたものである。フィクションとは言え、それなりに時代や世相を反映しているから、1年1作ずつ読み進んでいくうちに、昭和40年代から50年代へ、さらにバブル〜平成〜世紀末〜ゼロ年代へと、作者もテーマもバラバラの作品がまるで壮大な大河小説のようにひと連なりになって読む側を圧倒し始めるのだ。
 加えてこちらも年を食い、家族もできて、失敗を含めそれなりに経験してきたものだから、作品それぞれにどこか一つは自分の人生と「クロス」する要素があって、身につまされるわ古傷は疼き出すわで、思わず校正を忘れて前のめりに読みふけってしまった(本当は校正は読んじゃダメなんだが)。
 ちなみにこの文芸賞は九州・沖縄在住の人にしか応募資格がなく、なおかつほとんどの作者が同人誌などでしか発表の機会がなかった人である。現在文壇で活躍する帚木蓬生さんや村田喜代子さん、又吉栄喜さん、目取真俊さん、大道珠貴さんなども受賞しており、もちろんその作品も収録されているのだが、当時はまだ無名なので何と言っても作品が初々しい。いきおい、作者が背負っている背景や、さらには「どうしてもこれを書く!」「この作品で勝負(受賞)する!」といった切実なものまで垣間見えてくる。やはり人生の元手を賭けたところで書いている作品は、テーマによらず作者の地金に触れるようなインパクトがあり、読みながらじんじんと胸が熱くなるばかりだった。

忘羊社の本の一覧
 

 
 

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