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中小出版社はKindle Unlimitedを利用すべきか

弊社は2013年に創業。電子書籍専業出版社から始めて、2017年から紙の書籍に中心を移しました。紙書籍の刊行は、語学書・ビジネス書を中心に、2019年9月に刊行した『TOEIC L&Rテスト 絶対攻略リーディング』で8点目となります。

前回の版元日誌では、「電子専業出版社が紙出版を始めた理由」について書かせていただきました。電子書籍の動向について関心のある版元さんに読んでいただけたらと思って書いた記事でした。今回も、気になっている版元さんがありそうなテーマを選んでみました。

Amazonの電子書籍読み放題サービス、Kindle Unlimitedについては、ご存知の方が多いと思います。Kindle Unlimited対象の電子書籍は随時変わりますが、本原稿執筆時点では、「文学・評論」ジャンルで3万以上、「人文・思想」ジャンルで3万以上、「ビジネス・経済」ジャンルで1万以上等、多数の書籍がUnlimited対象になっています。中には刊行されたばかりのベストセラーもあります。端末にダウンロードできるのは10冊のみですが、もちろん入れ替えが可能ですので、Kindle Unlimitedを契約している間は、本当に月額980円で「読み放題」の感覚です。中身を試し読みしてみるのにも、便利なサービスです。

さて、そんな、読者にとっては美味しいKindle Unlimitedですが、版元にとってはどうなのでしょうか。

弊社の既刊本で検証してみたところ、結論としては「Kindle Unlimited対象にするメリットはかなり限定的」だということがわかりました。

検証した対象は、弊社の既刊本のうち、Kindle Unlimited対象にする前と後とで、各種売上を比較できる7点の書籍です。Unlimited対象にする前の2018/7-2019/2の8ヶ月と、Unlimited対象にした後の2019/3-2019/10の8ヶ月の月平均売上高を比較しました。

まず、電子書籍(販売分)の売上はどうなったでしょうか?

これは、予想通りではありますが、全部下がりました。顕著なものは92%減、つまり10分の1以下になりました。一番緩やかなものでも46%減、ほぼ半減です。そして、その減少分をKindle Unlimitedからの収入がカバーしたものは、3点のみでした。ただしその3点はどれもUnlimited開始前の売上が1000円から3000円程度と少なく、増額分もそれが1.5倍から倍になった程度で、絶対額としては低く、他の書籍の売上減を埋めることはできていません。

Unlimitedを開始したことによって電子書籍の売上が低下した原因として、Amazonのストア上での表記が、Unlimited会員の場合「読み放題で読む」のみ、Unlimited会員以外でもまずは「読み放題で読む」ボタンが表示され、その下に購入ボタンが配置されるため、購入されにくくなることが大きな要因では無いかと思われます。そうした物理的な問題に加え、「無料でも読める本に対してお金を買ってまで読みたくない」という心理的な面も影響していると思います。さらに売上低下の原因として、セールでの効果が弱まったこともあります。売上が一番落ちた書籍は、年に数回程度実施するAmazonでのセールに参加しており(通常は50%引き)、その際に売上を大きく伸ばしていましたが、Unlimited適用後はセールに参加しても売上の伸びが小さくなりました。

電子書籍の売上の低下自体は想定していましたが、Unlimitedによる収入が低かったのも電子書籍トータルの売上低下の要因です。Unlimited適用後1ヶ月程度は、販売売上の減少以上にUnlimited分の収入が入ってきた本もありますが、2ヶ月目以降読み放題の利用は低下していき、売上は低下していきました。おそらくUnlimited開始時は、ストアでの露出(新着での表示)などがあるため利用がありますが、時間の経過によってその効果も落ちていくのでしょう。

では、Amazon上の紙書籍の販売にはどのような影響があったのでしょうか?
残念ながら紙書籍も、1点を除いて、Kindle Unlimited対象にした後、売上減少してしまいました。電子書籍の売上減と同様に、無料でも読める本として見られてしまい、購入意欲低下につながってしまったようです。

Amazon内での電子と紙のトータル売上の推移を見ると、7点中4点が月平均売上ダウン、3点がアップなのですが、ダウンした4点の売上が大きいため(アップした3点の売上平均と比較すると約20倍)、7点全体で見ると、41%減という大きな売上減になっています。

というわけで、少ないサンプル数ではありますが、弊社刊行書籍に関してKindle Unlimitedの検証をした結果は、このような痛い結果となりました。

では、Kindle Unlimitedはどのような場面で利用すると良いのでしょうか。

考えられるのは、業歴が長く、既刊本であまり動きのよくないもの、ほぼ動かないものがある場合のKindle Unlimited利用です。特に、既に電子書籍化している場合には、Kindle Unlimitedに載せるのに追加コストはかかりませんので、載せるのがよいと思います。またマンガや小説などシリーズで巻数の多い書籍などは、まず1巻をUnlimitedで読んでもらうことで続刊の購読に結びつけることもできます。

また、Kindle Unlimitedに載せた初月はUnlimited利用が多くなる傾向にありますので、時々載せて、すぐにやめて、また少し間を置いてから載せる、という使い方も手かもしれません。少し手続きが面倒ではありますが。

弊社の方針としては、今後は基本的に現在Kindle Unlimitedの対象としている書籍の利用を取りやめ、プロモーションなど限定的な利用をしていこうと思っております。

本原稿を書くにあたり、あらためて精緻な検証をして、反省から始まった2020年でした。皆さま、どうぞ良い一年をお過ごしください。

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