会社員をやめて出版社を始めるときにおすすめの7つのサブスクリプションサービスと2冊の本
2018年3月に明幸堂という出版社を始めました。
それまではイースト・プレスという出版社に10年おり、当たり前のように職場があって机があってパソコンがあってコピー機が使えて……みたいな環境だったわけですが、会社員でなくなってみると、社会保険(健康保険と年金)や税金(所得税と住民税)など含め、あらゆるインフラを全部自前でなんとかしなければならなくなります。
働く時間も休日も自由なので、自分でいろんなルールを設定していかないと結構グズグズになりかねません。
そういうわけで、創業してまだ1年半ではありますが、この間いろいろ、仕事や生活のなかで試してみたサービス(主に月々の利用料を支払って利用するもの)でよかったものをご紹介したいと思います。
■シェアオフィス
自転車で10分くらいのところの自治体がやっているシェアオフィスを利用してます。月1万円(ポスト・ロッカー込み)です。会社員を長くやっていた自分のような人間には、とりあえず「職場に行く」という行為がないとスイッチが切り替わらないので職場は必須です。
あと複合機が使えるのがありがたいです。スキャン(ソート)は無料。赤字を入れたゲラをPDFにできるのは助かります(コンビニではソートできないので)。ただしコピー(出力)は1枚10円なので、一冊分のゲラを出すと1000円とか2000円とかかかります。しかしながら、出力するのはほんの数回で、ゲラへの赤入れは基本的にはiPadとApple Pencilでやってます。これがすごい便利で、百万年書房の北尾さんも「創業した時の唯一の初期投資がiPad」と言ってました。
■プール
人によっては、ジョギングだったり筋トレだったりサウナだったりヨガだったり、頭と体をしゃきっとさせる方法はいろいろあると思いますが、自分にとっては水泳がそれです。毎日昼ごろに泳ぐと、その後の集中力が増します。会社員のときも、会社の近くのジム(水道橋のエスフォルタ)に毎日泳ぎに行ってました。
同じように水泳を日課している人が知り合いにも何人かいますが(テリー植田さんとか、さばのゆの須田さんとか)、他にもいないかと思って『天才たちの日課』(フィルムアート)という本で探してみたら、ひとりだけいて、それがオリバー・サックスでした。
「水泳をすると、心身のスイッチが入るんだ。ほかのなによりも効く。だから一日の初めに水泳をする。これを欠かすと、忙しさや怠惰に負けて、集中できなくなってしまうんだ。」
とのこと。
■クラウドの会計ソフト
freeeとMFクラウドの2つが有名ですが、MFクラウドのほうを使ってます。フリーランスの方の大半はどっちか使ってると思いますが、個人用と仕事用の口座とクレカ、あとamazonのアカウントなどを連携させておくだけで、経費清算も確定申告もすごい楽です。こういうのがある時代で本当によかったと思います。
■NetflixとSpotify(映画と音楽)
仕事とは関係ないのですが、こんな低価格(月1000円くらい)でこれだけのコンテンツが視聴し放題なわけで、「なんていい時代なんだ」と思うのですが、時間がないと意味がありません。最近つくづくお金よりも時間の価値が高まっていることを実感します。時間がある人が一番裕福なのではないかと思います。
先日『進撃の巨人』がkindleで29巻まで無料で読める祭がやってましたが、それに参加するのも時間がないと無理です。そもそも時間があっても、モチベーションがないと見たり聞いたり読んだりしないものです。なので、こういう期間限定公開というのは、読む気を起こさせてくれるのでありがたいです。
ほとんど無料に近いコンテンツを味わうには、時間とともにきっかけとかモチベーションが必要で、「重い腰が自然に上がる」ような設計が、今後より重要になってくるなあと思った次第です。
■メルカリ(本)
これも仕事とは関係ないですが、新刊で買ったものの別に持っておかなくてもいいかも、という本が定価の半値以上の値段で売れる、というのはありがたいです。
「メルカリのせいで新刊が売れなくなった」みたいに言う人もいますが、逆ではないでしょうか。気軽に売れるから気軽に買えるようになるんだと思います。少なくとも自分は以前よりも気軽に買えるようになりました。
そして手元に置いておきたい本は売らないので、メルカリにあまり出回らず、出たとしても値段が高いまま(『サピエンス全史』とか)。だったら新刊で買うか、となります。
ゆくゆくは「売りに出されない本を出そう」という出版社の意識改革にも繋がっていくのではないか、とさえ思います。
あとメルカリで電子書籍は売れません。だから「電子でなく紙で買おう」となるため、そういう意味でも書店にはプラスの存在だと思ってます。
*メルカリはサブスクではないですが、本をより多く買う(読む)ようになった、という意味で、Spotifyで音楽をより多く聴くようになったのと近い感覚があるのでここに入れました。
■カーシェア
15分200円。6時間パックだと4000円くらい。
印刷所で本が刷り上がったときは、この6時間パックを使って、埼玉の中央精版まで引き取りに行き、日本橋のトランスビューのオフィス、日吉のトランスビューの倉庫と周って納品しています。
車の必要度は、住んでいる地域や生活状況によりけりですが、「ときどき必要」くらいのときに、アプリでその場で予約してパッと使える今の状況はほんとありがたいです。
■日比谷花壇
月1200円で毎日一本花をもらえるサービスを日比谷花壇がやってます。行くと、お店の人が「今日はこれ」という感じで、100〜350円あたりの花を1本くれます。かなりお得なサービスです。家や職場に花があると和みます。家や職場が平和であることは、仕事をする上でかなり重要です。
最後に、本を2冊紹介します。
■橘玲『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめ』(幻冬舎文庫)
お金を稼ぐ方法はそれぞれがそれぞれのやり方でやるほかないのですが、本書には、その稼いだお金から、国に「持っていかれるお金」をいかに低く抑えるか、という具体策が書かれています。税金と社会保険ってこういう仕組みだったのかと、会社員のときはぜんぜん意識しなかったこの国の制度とその抜け道について、極めて実践的に書かれていて、かなり刺激を受けました。この刺激は、やる気、モチベーションに繋がるものです。
■石橋毅史『真っ直ぐに本を売る ラディカルな出版「直取引」の方法』(苦楽堂)
トランスビューがなかったら(代表の工藤さんがいなかったら)、ひとり出版社のハードルは依然かなり高かったので、自分もはじめようと思わなかったはずです。トランスビューこそ、自分にとってもっとも重要なサブスクサービスと言えます。書店の儲けが3割という思想も素晴らしい。本書『真っ直ぐに本を売る』にその仕組みが詳しく書かれていて、『黄金の羽の拾い方』とともに独立するときの背中を押してくれた1冊です。