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共著で注意すべき10のポイント

執筆依頼を送ると「一人じゃ書けないけど、知り合いにも一緒に書いてもらったらできるかも」という返事を頂く事があります。要するに「単著」ではなく、「共著」という事です。しかし共著は単著に比べてデメリットが多く、完成に至らないまま中止・自然消滅に至ることがかなり多く、基本的にはお断りしています。

もちろん世の中には執筆者それぞれの、当人にしか知り得ない専門性を活かした、論文を集めた本もあります。良い論文でも短いと、複数集めて本にする以外にないという事もあります。しかしこの様な論文集も完成に至るまでには、編者や編集者が多大な苦労を強いられている事はあまり知られていません。

そこで今回はなぜ共著が単著より難しく、デメリットが多いのかを説明したいと思います。安易な気持ちで共著にはしない方が良いと思いますが、もしどうしてもそうなってしまった場合、以下に述べる点を前もって気に留めて頂ければ幸いです。

・当事者意識の欠如
単著ではなく、共著を提案される場合、そのほとんどの理由が一人当たりの執筆負担が減ると思っているからです。確かに一人あたりの文字数は減るかもしれませんが、それと共に一人当りの責任感や覚悟も減ります。執筆者の当事者意識が薄まり、プロジェクトを貫徹させようとする担い手が不在のまま、編者や編集者がより苦労する事になります。

・連絡が増える
人が増えるほど連絡事項や意思確認が増えます。単著の場合、一人の人に説明すれば済みますが、共著の場合、関わっている人全員に伝えないといけなくなります。一人ひとりの関わりが薄くなってきているので、メーリングリストやCCなどでの情報共有がうまくいかず、きちんと読まない人が出てきます。その結果、同じことを何度も個別に説明しないといけなくなります。

・共著者間の不和
企画に対する温度差や意識のズレがあると、揉めやすいです。一世一代の巨大プロジェクトと思っている人もいれば、コメントを寄稿する程度と認識している人もいます。メーリングリストでは長文を連投する人もいれば、見ているのだか見ていないのだかよく分からない、幽霊会員の様な人が現れます。そして「裏メーリングリスト」の様なものができ、邪魔者や積極的に関わろうとしない人を叩いたり、排除しようとする事すら起きます。当事者意識が欠落すると述べた一方で、主導権争いが発生する事もあります。3人以上人が集まれば派閥ができると言う通りです。また被害者意識が強い不満分子が複数いた場合、結託して編者や編集者を敵視、攻撃するという事態が発生しやすくなります。

・多数決が正しいとは言えない
独創的な企画の場合、必ずしも多数の意見が正しい訳ではありません。共著者の数が3人いる場合、2対1、4人いる場合は2:2等の割合で意見が割れる事がありますが、このぐらいのメンバーだと分母が少な過ぎてどちらが正しいとは一概に言えません。一方、人が増えれば増えるほど尖った意見やセンスは却下されやすくなります。その結果、平均的で常識的な結論に至り、凡庸な本になってしまいがちです。著者一人と編集者一人が直接向き合う形であれば、意見の相違が発生したとしても、多数決で解決するという事はなく、お互い納得行くまでとことん話し合います。

・統一感の欠如、重複、矛盾
共著者が多いほど、意見の摺り合わせに苦労するので、異質な原稿や出来の悪い内容が届いたとしても、それをダメ出ししたり、書き直して貰ったりするのが億劫になってきて、そのまま載せることになります。その結果、原稿によって内容や質がバラバラになりやすく、本全体の統一感が失われます。それどころか別の共著者の原稿をきちんと読まない人が多く出てくるので、内容が重複していたとしても気が付かない事が出てきます。逆に別の共著者と相反する話や矛盾した内容があっても知らない事すらあります。それを一々指摘するのも編者や編集者の仕事となり、手間が増えます。表記揺れや語句の統一なども共著体制で発生する手間です。最初に表記のガイドラインを作ったとしても、人それぞれ無自覚の表記や綴の癖があるので、最後にまとめる手間はあまり変わりません。

・執筆スピードの差
人が増えれば増えるほど、一人当りの文字数が減るので、早く完成に至ると思いがちです。しかし共著のメンバーの中にいい加減でルーズな人がいると、その人一人の原稿が遅れた結果、全員が巻き添えを喰らい、出版自体が遅れるという事がよくあります。締切通りに書いた人、早く書き終えた人は割を食う事になります。

・自然消滅のリスク
原稿提出の期限が一度ではなく、定期的に積み上げていくタイプの企画があります。書かないといけない内容が多く、共著と言えど少人数の場合、原稿提出の期日を複数回に別けて書き上げていくものです。ある段階で誰かがその締め切りを破ると、一気に緊張感がなくなり、翌月には複数の人が守らず、そうすると真面目に書いていた人も書くだけ損なので徐々に馬鹿らしくなり、誰も定期的な締切を守らなくなり、自然消滅という展開を遂げます。Dropboxには最初は意気投合しつつも、いつの間にか誰も更新しなくなった共有フォルダの残骸が複数あります。しかし勝手に削除する訳にもいかないので、邪魔で仕方ありません。

・情報漏洩のリスク
出版企画は独創性が求められるもの、他社の機先を制する必要があるものなど、守秘義務が課せられたものが多いですが、共著の場合、発足の時点で複数人が関わっている為、秘密を守ろうという意識が低くなりがちです。

・配分の不平等感
共著の場合、多かれ少なかれ、貢献度や役割分担に差が発生せざるを得ません。しかし印税や原稿料を最初に決める際、共著者の頭数で均等に割るという事が多いです。その結果、人一倍売上に貢献している人、他の執筆者の尻拭いをさせられた、取りまとめ役を担った編者の様な立場の人が後になって不満を抱きやすいです。誰がどれだけ貢献し、誰が足手まといになったかは、最後になって分かってくるものですが、企画が発足した時点ではあまり分からないし、気にもしないので、契約条件は関係者一律同じという事が多く、最後になって不満が残ります。

・執筆者名の掲載順
執筆者名は無難にあいうえお順で載せる事が多いですが、必ずしも貢献度と一致しません。Amazonなどで検索すると、その本の詳細ページに至る前の検索結果では執筆者名が3人までしか表示されず、それ以上の場合は「他」と表示されます。結局、最初に名前が記載されている人がメディアやネット、読者などの窓口になりやすく、その人の手柄や業績みたいに思われる事もあり、他の執筆者の間で不公平感が発生します。また実際に関わった割合が少ないにも関わらず、Twitterなどでフォロワーが多く目立っている人がいる場合、その人物がその本の著者と誤認される事があり、存在感の薄い共著者が冷や飯を食うことになります。

以上、共著企画における10の注意点を列挙しました。

しかし結局の所、共著に参加する一人ひとりの執筆者はこういった事には予め無自覚で、責任を担う事も少ないので、ただただ編者や編集者が疲弊していくだけです。

苦労の挙げ句に完成に至らないどころか、元々の人間関係にヒビが入る危険性すらあり、できたとしても統一感のないコンセプト不明瞭でバラバラな論文集やスクラップブックみたいなものになりやすので、共著は極力避けたいという意思が働きます。

複数の執筆者をうまく取りまとめるのが編集者の役割だと言われそうですが、現在、編集者一人当りのノルマが以前よりも増しています。既に単著企画でも数十人相手に進めていて、その人間関係を維持するのにも精一杯な中で、更に一冊の本の中に複数人執筆者がいる共著企画は自ずと避けたくなります。

一人で書く単著が大変だからという理由で、こういったデメリットを予め認識しないまま安易に共著を提案してくる人が多く、この様な説明を度々した事があったので、この場を借りてまとめることにしました。実のところ「共著を避けるべき10の理由」と考えて貰った方がいいかもしれません。

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