うた
万葉集の歌には、多くの草木が詠まれていますが、それらの草木を集めたいわゆる「万葉植物園」が全国に存在し、そのひとつが武蔵国分寺にあります。園内にある植物には、その草木が詠まれた万葉の歌が添えられており、勉強不足の私でも植物と歌を眺めながら詠み人の思いを感じることができます。
古今和歌集・仮名序の冒頭には、「やまとうたは人の心を種として万の言の葉とぞなれりける」とあります。これは歌がどのようにして生まれて来たのかということを示したものです。生み出された歌が、時代を超えて読み手の心を揺り動かす不思議な力を持っているからこそ、万葉、いや神代の時代から歌は何千年も詠み続けられているのでしょう。「人の心を種として」とは本当に心に響きます。
下町育ちの私としては、庶民感覚の歌にひかれるものがあります。寄席や美術館など芸術の香りが漂う上野に、樽の上に立つ金色のアヒルの像が数年前に設置されました。これは、江戸時代に生まれて一大ブームとなった川柳の原点である誹風柳多留(はいふうやなぎだる)発祥の地が上野であることを示した記念碑です。江戸時代の粋は、社会風刺やサラリーマンの悲哀を表現した川柳として人気を博し、しっかりと現代に継承されているようです。
令和時代、万葉から江戸、現代と、季節を感じながら、うたをしみじみ味わってみたいと思っています。