西の端から
はじめまして。長周新聞社の森谷と申します。わたしたちは、この4月に創刊から64年目を迎える山口県下関市にある新聞社です。「版元日誌に何か書かれませんか?」と依頼を頂いた時、出版点数も僅かな新参者がおこがましいのではないか…と躊躇したのですが、お世話になるばかりでは申し訳ないと思い、版元ドットコムの端くれとして筆をとってみました。
さて、ようやく春が到来しました。先日、我が社では仕事が落ち着いた頃合いを見計らって、鰆(サワラ)を美味しく食す会をもちました。会社内でのただの飲み会といわれればそれまでですが、水産都市でもありますし、地元で水揚げされる旬の魚を楽しまないのはもったいないと思い、盆過ぎにはのどぐろを七輪で焼いたり、冬はあんこう鍋やその唐揚げといった具合に、調理方法も工夫しながら結構頻繁にやるんです。原稿を書いたり、新聞作成で睨めっこしている分、別の脳が活性化するといいましょうか、気分転換にもなって丁度いいのです。
鰆はその名の通り春を告げる魚といわれ、春先に旬を迎える魚です。下関では北浦海域に群れがやってくることから、この時期になると漁師さんたちは朝から晩まで一本釣りに精を出しています。とくに力を入れているのが観光地としても有名になった角島の漁師さんたちです。群れを見つけると無線で仲間に連絡を入れてみなで追いかけ、たくさん水揚げしています。絞め方や血抜きの方法についても研究を重ね、浜の漁師みなで統一していることから品質にばらつきが少なく、身の保ちが良い角島の鰆は水産市場でも他のそれより高値で取引されているほどです。こうした産地市場が身近にあり、築地(豊洲)で取引されている価格よりも半値から三分の一ほどで魚を仕入れることができるのは、わたしたち地方暮らしをしている者の強みかもしれませんね。
今年の鰆を食す会では、原稿を上げた釣り好きの20代記者がちゃっちゃと三枚におろし始めました。柵にした状態から少し焦げ目がつくくらい皮をバーナーで炙り、刺身包丁でひいていくと刺身は完成です。身が崩れやすい魚でもありますが、絞め方によってこれほど変わるのかと思うほど角島の鰆は弾力を備えています。刺身醤油でいただくのも結構ですが、さらににんにくスライスを少量のせていただくのもお薦めです。おろしポン酢もさわやかな味わいです。天ぷらをミディアムレアに仕上げて、塩でいただくのもありですね。調理方法は様々です。
季節柄、鰆、鰆と書き連ねてしまいました。版元日誌にそぐわないかもしれないな…と思いつつ…。ただ、そんな下関の水産業のいまを記録しようと、私たちは一昨年に『海に生きる』という書籍を出版しました。記者が角島の鰆漁に密着し、生産者がどのような工夫や努力を重ねて魚を獲ってくるのか、協同組合の強みとは何かを追ったものです。さらにEEZ近くまで出て行く以東底引き漁にも数日間にわたって乗船取材し、のどぐろやあんこうを獲ってくる生産者にも密着してみました。日頃は食べるばかりで、消費者である自分たちは生産現場の苦労を知らないよね、という会話がきっかけで始まった取材でした。
新聞で扱うテーマは政治や経済、原発や基地問題、国際的な問題まで多岐にわたりますが、20代~40代の記者たちを中心にワイワイ、ガヤガヤと本州最西端の地でやっています。今後とも西の端から地方色溢れる出版ができればと思っています。何卒よろしくお願い致します。