人様の本を150冊作った編集者が、自分で書くことにした ――新シリーズ「パブリブックレット」創刊
パブリブという出版社を始めて11年になる。会社を始める前に担当した本まで含めれば、編集した本は150冊ほどになる。
パブリブそのものの創刊第1号は、『デスメタルアフリカ』という本であった。出版社を立ち上げて最初に出した本が、アフリカ各国のデスメタルを紹介するガイドブックである。創業当初から類書・先行書がないニッチトップを狙っていた。

この『デスメタルアフリカ』を始め、『ベスト珍書』などを著者として書いてはいた。ただ、出版社を始めてからは基本的に著者を探し、企画を立て、原稿を編集し、組版して本にする仕事を続けてきた。
出版社とは、出版社の社長や従業員ではなく、研究者や専門家、マニアなどが書いた原稿を出版するのが大前提にある。今でもその仕事は面白いとは思う。しかしこのキャリアも20年以上続けていると、他人に書いてもらう出版の限界が見えてきた。
面白い企画を思いついても、書ける人が全く見つからない。思いついた企画のうち著者が見つかるのは100分の1にも満たない。アイデアは無限に湧き出てくるのに、書ける人がいないのである。そしてやっと著者が見つかっても、うまくいかない。
詳しいと思った人に書いてもらっても、本として成立する水準に届かないことは少なくない。専門知識があることと、読者に面白いと思ってもらえる内容を書く能力は全く別である。
こちらが依頼した趣旨をなかなか理解せず、好き勝手な方向に脱線する人もいる。問題点を指摘しても、その指摘だけを局所的に直し、なぜそうした指摘を受けたのか、ほかにも同じ問題がないのかまで考えが及ばない。読者には伝わりにくい独りよがりな文章を書く。専門知識はあっても、誤字脱字やスペルミス、表記揺れ、事実誤認が大量に残っていることもある。
また、書名やカバーについて頓珍漢な提案をして、それに固執する人もいる。こちらの長年の編集経験による知見を軽視し、アドバイスや校正の指摘に反発したり、過剰にショックを受けたりすることもある。いい加減でルーズだったり、何年たっても完成せず、途中で連絡が途絶え、そのまま企画が消える例も珍しくない。
中には私が原稿を大幅にリライトし、事実上の共著、それどころかゴーストライターのように代筆した本もある。本音をいうと、出版社を10年以上経営する中で、書く力や進行管理能力に乏しい著者とのやりとりに、かなり疲弊していた。
そうした経験を重ねるうちに、時折思うようになった。
「これなら、自分で書いた方がましなのではないか?」
あるとき、自分が最近、何にモヤモヤし、イライラしているのかを考えてみた。世の中に対する違和感やフラストレーションは無限にあるのだが、その中の一つにNISAをやらない人たちがいた。
私は金融関係者ではない。しかし、出版社を経営していると、老後資金や資産運用について嫌でも考えざるを得ない。打ち合わせの雑談で「NISAやっていますか」と聞くと、そんな制度を聞いたこともない人、面倒くさがる人、投資はすべて詐欺だと考える人、「そんな金はない」と言う人、そもそも資本主義に反発する人など、実にさまざまな反応が返ってきた。
そのことをメモに書き始めると、次々に事例や論点が浮かんできた。やらない人たちが繰り出す必死の言い訳を聞いているうちに、その一つ一つが滑稽に思えてきた。これは本にできるのではないかと思った。
しかし、何百ページもの大著にするような題材ではない。短いブックレット形式にすればよいのではないか。そこで、「パブリブ」と「ブックレット」を組み合わせた「パブリブックレット」という、ほとんど駄洒落のようなシリーズ名を思いついた。
そこから一気に書き進め、『NISAは社会人のリトマス試験紙』というタイトルで一週間で書き上げた。

長年、他人の原稿を読み、見出しを立て、順番を入れ替え、文字数とページ数を調整してきた経験が、そのまま自分の執筆に使えた。何を書くかだけでなく、どこで区切り、何を削り、どの順番なら読者を飽きさせないかまで、書きながら判断できる。
私の場合、普段から自分自身で人の原稿をInDesignで組んでいるため、別のソフトで原稿を書いてから流し込む必要もない。最初からInDesign上へ直接文章を書き、執筆と同時にページを組んでいくことができる。
パブリブックレットは、基本的に上限を112ページとする。
ページ数を最初に区切ることで、過剰な加筆、不安感による終わりのない情報収集、資料の積み上げを避けられる。何でも入れることはできないため、思い切って圧縮し、本当に必要なものだけを残さなければならない。短いからこそ、内容の密度は高くなる。
制作期間が短いため、途中で挫折したり、企画そのものが頓挫したりする危険も減る。印刷費を抑えられ、投入した資金も早く回収できる。円安とインフレによって本の定価が上がり続ける中でも、相対的に安い価格に設定し、読者に手に取ってもらいやすくできる。
当面は自分で書くシリーズとして始めるが、この形式に合う企画であれば、将来はほかの著者に参加してもらうことも考えていなくはない。前言と矛盾するようだが、112ページという明確な枠があれば、原稿の長大化や企画の停滞を防ぎながら、他人の知識を本にすることもできるはずである。
このシリーズを継続するためには、時間の使い方も変えなければならない。
自分で執筆する時間が増えたため、これを機にX(旧Twitter)との付き合い方も大幅に変えた。既刊点数が増えるにつれて著者の数も増え、全員の投稿を見守り、援護リポストし続けるのも難しくなってしまった。既にしばらく前から日常的な閲覧や投稿を大幅に減らし、新刊やイベントなど、必要最低限の告知を中心とした運用へ切り替えている。その時間を、執筆と本作りへ振り向けたい。
パブリブックレットの創刊第1弾は、『NISAは社会人のリトマス試験紙』である。実は既に第2弾も執筆済みだ。
大部で資料性を追求する、これまでの「大著・マニアック主義」のパブリブとはかなり違う。しかし、ニッチなテーマや、他では企画になりにくい題材を本にするという点では、出版社創刊第1号の『デスメタルアフリカ』以来、何も変わっていない。