土地に根ざした暮らしのための雑誌『大神宮の森へ』
『大神宮の森へ』(安房大神宮の森コモンプロジェクト編)は2025年12月に創刊した、年2回刊行の雑誌です。といっても、いわゆる雑誌コードをもたない羽鳥書店では、雑誌と称して単行本ISBNをつけて刊行しています。創刊号『大神宮の森へ1』のあと、今年7月、無事に2号目『大神宮の森へ2』を刊行しました。
長年、法律・人文・美術の分野を中心に出版してきた当社としては、「土木」のCコードをつけたこの本は異色かもしれません。ですが、ずっと編集を担い、本をつくる仕事をしてきたことと、人としての暮らしの道行きが自然と合流してきて生まれたものでした。これまでの経験がすべてつながり、さらには新たに展開していくような感覚をもって手がけています。
本誌は「土地に根ざした暮らしのための雑誌」と称し、紹介文では次のように説明しています。
「房総半島最南端にある約55haの「安房大神宮の森」を整備再生する活動の紹介を柱とし、さまざまな分野の執筆者による多彩な文章を収録。古の人の営みの知恵を知り、森や海、土や木や水とともに生きる面白さを発掘する。」
執筆者は地元(NPO法人等の活動で地域に関わる方、郷土史家やカフェ店主など)も含め、アーティスト・画家、映像作家、研究者・専門家、エッセイストなど本当に多岐にわたります。
[1号執筆者]高田宏臣/愛沢伸雄/池田恵美子/伊沢正名/鴻池朋子/込山敏郎/小森はるか/佐藤良明/中島岳志/中村桂子/前田宣明
[2号執筆者]高田宏臣/池田恵美子/大平渓子/草野慎一/鴻池朋子/込山敏郎/佐藤良明/竹内聖一/中島岳志/前田宣明/ミロコマチコ/安田陽一/養老孟司
『大神宮の森へ1』

『大神宮の森へ2』

企画の契機となったのは、私自身が5年前に南房総に移住したことと、2年前に高田宏臣さん(一般社団法人 地球守・有機土木協会代表理事、安房大神宮の森コモンプロジェクト主宰)という造園家・自然再生家と出会ったことでした。本誌は、高田さんが提唱している「土中環境」の視点と「有機土木」の活動を核にして、そこから私なりに刺激を受けて自由に広げていっています。土木といった専門的な面も含みますが、「土地に根ざした暮らしのための雑誌」としているように、土や水や木とともに生きる普通の暮らしを営むすべての人に向けたものです。
『大神宮の森へ』は5つの章から成っています。
安房大神宮の森の整備活動のことや古の暮らしの名残や技の発見、森の未来像を長期的に紹介する「安房大神宮の森へ」、森を介してさまざまな人と場所とをつないでいく「焚き火をかこんで」、土中環境の視点と有機土木の活動とそこから広がる多様なテーマを伝える「生きものとしての土木」、土中環境の視点を通して目に留まった書物から文章を紹介する「書を捨てよ森へゆこう」、房総半島南端の人々の声を聞く「半島の海街から」。
「土中環境」は、地中を流れる水と空気(酸素)の循環、生物の連鎖の健全なあり方を見ていく視点で、「有機土木」は伝統的な民間土木を継承しながら現代土木に活かしていこうとする、環境を傷めない土木工法です。関心のある方はぜひ高田さんの著書(『未来が変わる!土中環境と有機土木』『よくわかる土中環境』『土中環境──忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技』)をご覧ください。
高田宏臣 著書
高田宏臣さんが代表を務める地球守・有機土木協会が施工を担っている場所の一つに、世田谷区の等々力渓谷があります。昨年から3年計画で樹林地健全化計画が始まりました。2023年に倒木があったことで公園はずっと閉鎖されていましたが、有機土木による初年度の施工により一般の方が通れる状況になり、今年3月から再開されました。
等々力渓谷は東京23区内唯一の渓谷ですが、川床も側面もほとんどがコンクリートで覆われて斜面地の水捌けが滞っており、土中環境が悪化していました。倒木や幹折れも原因はそこにあります。そこで、滞水による土地の荒廃(土中環境の悪化による植生の変化、地滑り、川への土砂の流入)を改善し、土地を安定させ、次世代の樹々を育てられる環境に変えていくために有機土木が選ばれました。施工が終わった場所は、これまでの景色とまるで異なり、水が循環する清々しい空間に変化していっています。今年度と来年度も秋冬を中心に施工が行われますので、ぜひ訪れてみてください。
世田谷区ホームページより
等々力渓谷公園樹林地再生の取り組み
本誌2号では、等々力渓谷樹林地健全化について、政治学者の中島岳志さんと高田さんとの対談も収録しています。
昨今、豪雨や地震による被害が各地で発生しています。令和8年8月千葉豪雨では都市型水害の状況が広くニュースとして伝わりましたが、田畑や山をかかえる地域での被害の全容は伝わっていません。有機土木は、そういった地域の復旧、さらには二次災害を防ぐためにとても有効な工法で、その土地に一人でも技術をもつ人がいれば復旧具合が異なってきます。
自分が暮らす土地をどう守っていくか。災害級の天候がいつどこでも起こる可能性を考えると、暮らしの環境をよりよくするだけではなく、いかに安全な土地にしていくかということも同時に考えていかなくてはいけません。また、環境へのケアを考えることは、他者ひいては自分も含めた人間、そして社会に対するケアといった思考に連動し、本誌ではそれらを一体的に扱っていきたいと思っています。
次号の『大神宮の森へ3』は今年12月刊行予定です。既刊も含め、ぜひお手に取ってみてください。