本の地産地消、始めました
「あんまり売らない」などと青臭いことを前回の版元日誌で書いたのは4年前ですか。しみったれた文章に小突き倒したくなるから過去なんて振り返ってもいいことないっすね……。誠に申し訳ありません、前言撤回します。売りたいです。めっちゃ売りたいです。ただし、適切な規模で。
適切な規模とは何か?
こんにちは、八燿堂の岡澤浩太郎と申します。
長野県の標高1000メートルにある小さな集落で出版活動をしております。
4年前の青臭い時期、移住初心者の私は周囲の大自然に歓喜して、庭仕事に精を出し、午後はゲラをチェックする日々を過ごしていました。大いなる自然! 本をつくることと土を耕すことは等しいのだ!と(いまもたいして変わりませんが)。
それはそれで幸せだったんですけど、
ただ、毎日毎日、家の周りの森を見ていると、さすがに気づくわけです。
あれれ、
森が荒れている?と。
移住後に知己を得たガーデナーや林業事業者、有機農家などから話を聞くと、次のようなことがわかりました。
確かに森は、かつては富の象徴でした。自然の循環システムと共存する「里山」というあり方は国外からも注目を集めていますが、そればかりでなく、特に戦後の復興期には、住宅の需要とともに経済的な意味でも森の価値が高かった。
私の住む長野県小海町は、JR小海線という1~3両編成のディーゼル車両が運行してますが、現在は閑古鳥状態となった駅前商店街は林業で栄え、映画館があり、芸者さんたちが歩いていたほどの賑わいが、かつてはあったそうです。
しかし海外からの輸入材との価格競争に負けて国内の林業は一気に衰退。「孫の代も林業で食えるように」と願いを込めてつくられた人工林は人の手が入らなくなり環境悪化。その結果、地すべりなどの危険性が増し生物多様性も低下、木材の質も下がり、さらに森から人が遠ざかるという負のスパイラルに。
その結果、県土の約8割が森を占めるという国内有数の森林県・長野に限らず、国内の中山間地域の森は現在、とても疲弊しているのです。
つまり、この豊かな自然は、実は豊かではないのではないか。
ならば、自分の出版活動を通して、森の環境改善に何か貢献できないだろうか……?
そこで八燿堂が現在一生懸命取り組んでいるのが、「本の地産地消」です。
野菜はともかく本はどうやって地産地消するのか。これには3つの側面があります。
①コンテンツ
ローカルで活動する人を紹介する
②制作
編集、執筆、デザイン、印刷会社など、制作体制もローカルで
③用紙
ローカルの森から紙をつくり、本にする
①②は普通ですが、ポイントは③です。つまり、【地域の荒廃森林の間伐材などを紙の原料とすることで、本をつくればつくるほど森の環境が豊かに改善される】ということです。
確かに、FSC森林認証紙をはじめ、現在さまざまな企業や団体が持続可能性を追求するべくさまざまな取り組みをされています。ただし、その目先の多くは海外の木材。グローバルに見れば非常に有意義な取り組みですが、私が住む家のまわりで荒れたまま放置されている森や、地元の林業者の苦労とは、私にはうまくつながりません。
では、古紙リサイクルは? 確かに、日本の古紙リサイクル技術は世界的に見てもトップレベル。ヴァージンパルプを乱獲しないためには古紙の利用は超重要です。ただし、荒廃森林の環境を改善するためには、定期的に人の手を入れて維持する必要があります。【森を適切に使うこと】が、森の豊かさにつながるのです。
つまり、コンテンツだけでなく原材料や仕組みからも、「この本って、あの森からできてるんだって」という【顔の見える距離】を実現することを通して、ローカルと自然と人間をつないで循環させていく。適切な規模でめぐればめぐるほど、ローカルにも自然にも人間にも、豊かさが広がる。
本にはそういう役割があるのではないか。
それが、紙の本という商材の新しい付加価値になるのではないか。
むしろ、そもそも本とは、そういう存在だったのではないか。
そんな思いで2024年に『sprout!』

というムックを創刊しました。ひと言でいえば、【長野本】です(ついでに宣伝するとポッドキャストもやってます)。上記①②はもちろん、③については2号目から、中越パルプ工業さんの里山物語※という仕組みを利用させていただくことで、【リジェネラティブな出版活動】としての具体的な一歩を踏み出しました。
※里山物語 ①森林保全:富山県と鹿児島県にある同社工場の周辺県の森林組合などが適切に間伐した旨の証明書を発行した木材を使用して紙をつくり(間伐材の入荷量に応じて当該の紙に間伐材が使用されていると見なすクレジット方式を採用)、②里山保全:里山を拠点に活動する長野県内を含む全国の団体に売上の一部を寄付するという二つの柱からなるプロジェクト
その3号目となる『sprout! ISSUE 3』を、つい先日、6月21日の夏至の日に刊行しました。特集「信州・美食のルーツ」は、蕎麦、小麦、塩、水、醤油など、美食王国・長野の食材を切り口に、食文化や歴史、魅力を紹介する内容です。
また『sprout!』に限らず、昨年から刊行した書籍はすべて、できるだけ「本の地産地消」の観点で原材料を決めることにしました。そして里山物語だけでなく、さまざまな企業や団体が持続可能な取り組みをしていると思います。そうしたところとも、どんどん手を取り合っていきたいと思っています。
さらについでながら、このような姿勢を明確にするため、FOREST BOOKSという屋号を用いることにしました(ISBNは変更できないので八燿堂のままですが)。
もちろん、たった一社でどれだけ頑張っても、環境改善に対するインパクトは微々たるものでしょう。「だけど姿勢を示すのは大事だ!」という精神論も大事ですが、それに加えて……
今後は、出版活動と並行して、
本をつくる仲間を増やす活動を推進していきたい、と思っています。
一社だけでなく、たくさんの作り手が力を合わせれば、大きなインパクトになるはず、という皮算用はもちろんですが、本の作り手がいなくなる=後継者不足が紙の本の斜陽に拍車をかけているという危機感がある、というのも理由です。
現時点でのアイデアは、①ZINEづくりのワークショップ、②執筆や編集のためのマニュアル提供・スクールの開催、③出版関係者や林業事業者を招いたトークイベント、④③から派生して印刷工場や木材の伐採現場などへの社会科見学、というto Cから始まり、
中長期的にはto Bとして、⑤上記で得られた持続可能な出版に関するノウハウや技術、情報のポータルをつくり、⑥それらをパッケージ/カスタムして提供、コンサルなどを行う、というところまで考えています。
これらを包括して「forest book cub」という名称を付けました。
この夏から活動を開始していく予定です(詳しくはSNSで!)。
まあ、正直、どこまで実現できるかわかりません。4年後にまた版元日誌がまわってきて、「青臭い」と鼻で笑う未来がすでに見えますが、むしろ鼻で笑えるほど圧倒的に進んだ未来を実現したい。
もちろん、自分の一生だけでこのビジョンを実現するのは多分無理です。だからもし、ここまで読んでくださってピンと来た方がいらっしゃったら、ご一報ください、ぜひご一緒しましょう!