「思いをかたちに」
はじめまして、白天堂の吉川です。白天堂は2024年末に開設した出版社で、法人格を持たない、いわゆるひとり出版社です。
私はこれまで出版業とは無縁の人生を送ってきました。そのため開業当初は右も左も分からず、数々の失敗を重ねながら、体で覚えていくほかありませんでした。
そうした中で、創業の経緯を辿ると、私は人文系の研究会に所属しており、地域の郷土史家や研究者の方々と交流がありました。そこでは長年にわたり調査・研究を続けてこられた方々が多く、その成果を本として残したいという思いを持ちながらも、高額な自費出版費用やデジタル入稿への敷居が高いといった点で、実現が難しい状況にあることを目の当たりにしてきました。
各自、原稿はすでにある。内容も長年の蓄積から得たもので、多くの人に目を通してもらいたい。それでも書籍化できない。その状況に、どこか割り切れない悔しさのようなものを感じている姿を、私はこの目で見てきました。言葉には出さなくても「このまま誰の目にも触れずに埋もれてしまうのではないか」という危機感を肌で感じて取っていました。
そんな折、2018年頃から広く認知され始めたのが、POD(プリント・オン・デマンド)サービスです。PODは著者がクラウド上に直接原稿を入稿でき、一般的な商業流通とは異なる独自のISBNが付与され、製本費やロイヤリティを差し引いた売上が著者に還元される仕組みで、在庫を抱えずに出版できる点が大きな特徴です。
一方で、商業出版で主流となるオフセット印刷とは異なりオンデマンド印刷であるため仕様面での制約がまだまだ強く、また取次を介さないため書店流通にはほぼ乗らないといった側面もあります。それでも当時の私には、それが史家の方々の夢を叶える現実的な手段に思えました。少なくとも「形にする」ことはできる。そう思ったとき、自分がやるしかないのではないか、という気持ちが自然と生まれてきました。
そこでPODサービスを活用し、著者に代わって原稿の体裁を整え、書籍として形にする手伝いを始めました。そうしていくつかのアマチュア書籍を世に送り出す中で、著者や関係者から温かい言葉をいただき、「次は取次や印刷会社を通した出版に挑戦したい」と考えるようになったことが、白天堂開設のきっかけです。
もっとも、実際の出版業はズブの素人が気軽に参入できるほど簡単なものではなく、(業界に馴染みのない私にとっては)想像以上に専門用語や予備知識が必要で、当初はISBNやJANコードといった基本的な事項から戸惑うことばかりでした。それでもなんとか取次と契約し、印刷会社ともお付き合いができ、昨年3月に白天堂として初めての一冊を刊行したことで、ようやく最低限の流れを掴むことができました。
現在は二冊目の刊行に向けて、著者から上がってきた原稿の校正や表紙レイアウトの作業を進めています。一冊目は手探りで思うように進まないことも多くありましたが、二冊目では工程を見通しながら進められており、仕上がりの質も着実に向上していると感じています。
まだ開業してから1年ちょっとしか経っておらず、版元としては、ようやくスタートラインに立ったばかりではありますが、ここまでの失敗の積み重ねがあったからこそ、今のわずかな余裕につながっているとも感じています。
白天堂のキャッチコピーは――郷土の歴史をあなたのもとへ。――です。
今後とも白天堂の本をどうぞよろしくお願いいたします。