印刷会社、出版事業に挑む
はじめまして。
東京・豊島区にあります日本印刷株式会社の小田尾剛と申します。
社内でsoyogo booksという小さな出版レーベルを運営しております。
レーベル発足のきっかけは5年ほど前、弊社社長の何気ない一言でした。当時、漫画原作の医療系お仕事ドラマが地上波で放送されていたのですが、作品の舞台が弊社のお客様と縁の深い業界だった関係で、社内にこのドラマのポスターが置いてあったのです。
「せっかくいろんなお客様がいるのに、こういう企画をうちから仕掛けられないのか?」
ポスターを見た社長がある日の新規事業会議でこんな発言をし、そのときはみんな(また社長が突拍子もないこと言い始めたぞ、と)苦笑いしてその場は終わってしまったのですが、ちょっと本気でそんなこと、つまり、自分たちで作品を作って発信する、ということに挑んでみるのも面白いのでは、と私自身が考えたことがきっかけで、出版事業が本格的に動き始めたのです。印刷会社として紙の文化を継承していこう、という社長の強い思いもこの企画を後押しすることになりました。
とはいえ実績も何もない状態ですので、まずはウェブメディアを作ることに。弊社はさまざまな業界誌や学術誌を制作・印刷しておりますので、「仕事・学問・研究をたのしむ」というコンセプトをかかげて無料の読み物サイトを作ることにしました。少しとっつきにくい専門的なことを、小説やエッセイなどの形にして一般の人向けに発信し、いずれはそれらを本にまとめてみたい、と考えたのです。
「soyogo」の由来は、庭木の「ソヨゴ(冬青)」にあります。 激しい風にもしなやかに耐え、歳月をかけて成長し、やがて鮮やかな赤い実を結ぶ。そんなソヨゴの姿に想いを託し、このサイトに作品をひとつずつ、大切に実らせていきたいと考えました。
メインビジュアルは、漫画家のガオ・イェンさんに描き下ろしていただいたものです。トップページを彩るこの絵は、現在、弊社の分室の壁画にもなっております。

ウェブサイトの影も形もない状態のとき、この手探りの企画にご参加いただいた作家・イラストレーターの皆様には、本当に感謝しております。
ウェブメディアsoyogo が公開されたのは2022年9月。
そして、soyogo booksとして本の出版がスタートできたのは2025年3月でした。
最初の本は『猫にご用心 知られざる猫文学の世界』です。
本書の企画は、「翻訳の魅力を伝える面白いネタはありませんか」、と翻訳家・大久保ゆうさんへ無茶な相談をしたことが始まりです。幅広いジャンルに知見のある大久保さんからいくつも面白いアイデアを出していただき、「小説の起源を探る」というテーマが決まりました。
翻訳に選ばれた『猫にご用心』は、「初めて英語で書かれた小説」とされる1553年の作品です。歴史の彼方に眠っていたこの奇書が、約470年の時を超えて日本語で現代に蘇りました。本作は第12回日本翻訳大賞の二次選考(16作品)に選出いただいており、選考委員の皆様、そして読者の皆様に厚く御礼申し上げます。
2作目は『感じる人びと』。著者は小説家の二宮敦人さんです。
二宮さんは『最後の秘境 東京藝大 -天才たちのカオスな日常-』をはじめとして数々のベストセラーを書かれています。『東京藝大』のようなノンフィクションを<仕事>をテーマにしてつくることができないかと考えて、二宮さんに企画を持ちかけたことが本書の始まりです。お互いに案を出し合い、「五感」をテーマとすることが決まり、さまざまな分野の感覚のプロフェッショナルたちへの取材を約3年にわたり続けました。AIによって仕事に革命が起きているこの時代に、人間の感性の大切さを感じることができる一冊になっていると思います。
3作目は歌人・雪舟えまさんの長編小説『辺境恋愛詩』です。
雪舟さんが10年ほど前に刊行した小説集『凍土二人行黒スープ付き』に<家読み>のシガとクローン人間ナガノというふたりのカップルが登場するのですが、『辺境恋愛詩』はこのふたりがとある惑星を旅する物語です。雪舟さんならではの美しい言葉でつづられたこの恋愛小説は、<家読み>という架空の仕事がテーマにもなっています・・・、と強引に「仕事」に結びつけたのですが、そこはあまりお気になさいませんよう、ぜひ幸福感に満ちた物語をお楽しみください。
そして現在、乗代雄介さんの短編小説集『飛ばない小説家』を準備中です。
乗代さんと一緒にさまざまな仕事を取材する、というコンセプトで始まったこの企画。九十九里浜や博物館へ赴き、映画『ベイビーわるきゅーれ』で主演を務めるスタントパフォーマー・伊澤沙織さんに取材し、生き物のスペシャリストの方のお話をうかがい、と楽しい体験をすることができました。こちらも近日刊行されますので、ぜひご期待ください。
長く読まれ続ける本を作りたい、という思いで始めたsoyogo books。まずは多くの方に知ってもらうことが大切ですが、まだまだこれからという状況です。新参者の小さなレーベルですので本屋さんで見つけるのも一苦労かとは思いますが、もし弊社の本を見かけた際はぜひお手に取ってみてください。気に入っていただけましたら、「この本、面白いよ」とどなたかに教えていただけると嬉しいです。
今後もし刊行本が映像化されるようなことがあったら、「社長、なんでも言ってみるもんですねえ」とあの日の放言を笑い話にできるかも・・・と、そんな能天気な妄想ができるのも出版の仕事の面白いところですね。今は本を売ることに四苦八苦しておりますが、どうぞみなさま、こんなsoyogo booksをよろしくお願い申し上げます。



