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書くことから見えてくるもの――ちとせプレスの日誌

■「読まれる/読まれる」文章って何だろう?
おかげさまで2025年6月に創業10周年を迎えました。

10周年を迎えたものの、日々の仕事や活動に変化があるかというととくになかったのですが、何か新しいことでもしてみようかなあ、という気持ちがもち上がり、仕事するうえで感じたことや出版のことなどをnoteに書き始めました(個人名でやっています)。普段の仕事では帯の文言や書籍紹介くらいしか「文章を書く」ことはないので、「読まれる/読ませる」文章がどんなものかよくわからず(編集者としてそれでいいのか?)、手探りではありますが、ぼちぼちとやっていこうと考えています。よろしければ一度のぞいてみてください。

さくらいたかおのnote

noteに2回ほど記事をアップした頃に、記事を読んだKさんが版元ドットコムのメーリングリストで紹介してくれたのですが、その数日後に事務局から「版元日誌を書いてみませんか」というお声がけをいただきました。noteの記事を見てというわけではなく、たまたまタイミングが重なったのだと思います。
前回の版元日誌は2021年に書いたもので「「ひとり出版社」ではなくなる日」というタイトルで,一本のメールをきっかけにいつか人を採用して「ひとり出版社」ではなくなる日のことを夢想しました。

その後の顛末ですが、相変わらずひとりできりもみしています。現実は厳しい。
noteとは別の切り口で書けることはあるだろうかと逡巡したのですが、最近読んだショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー』という、スコットランドの古書店の店主が書いた書籍を思い出しました。古書店で遭遇する人物や出来事をつづったものですが、その描写に皮肉が利いていてユニークで、ベストセラーになったらしい。続編も含めて3まで翻訳されています。
これまでの版元日誌をいくつか見てみたのですが、特定のテーマをもとに記述されているものがほとんどだったので、版元「日誌」として9月の第1週に起こった出来事を書いてみようかなと思いつきました。

■9月1日(月)
朝の8時頃に事務所に着き、パソコンを立ち上げて届いていたメールへの返信。メール自体は週末に確認済みだったが、急ぎでなければ返信は事務所で出すことが多い。
先週金曜日に事務所に届いた新刊の『批判的犯罪学』を執筆者があわせて80冊ほど買上献本をされるので、その「短冊」を作成。「謹呈 ○○」とそれぞれの依頼者の名前(連名もある)を1枚ずつ入力して、断裁機で短冊の形にする。発送のときはOPP袋に書籍を入れて、短冊をはさんでテープで梱包。編集部見本として100冊を取り寄せたが不足したので、トランスビューに連絡して50冊を事務所宛に届けてもらうことに。

先週にエージェンシーに版権が空いているかを確認してもらったのだが、「空いている」とメールが届いた。オファーに向けて具体的な条件を検討することにする。別に相談している案件について、訳者の意向を伝える。
校正を終えた某学会発行の機関誌の校正刷をヤマトから発送しつつ、昼食を買いに行く。午後も梱包の続き。結局16時くらいまでかかる。
『批判的犯罪学』のEPUBの修正が印刷所から届いて確認。問題なさそうなので、これにて校了。
ちょっと前に、企業向け電子書籍読み放題サービスSharelotで『組織と職場の社会心理学』を発売したいとの相談があって契約したのだが、8月の売上報告が届く。とりあえず1冊売れた模様。今後どうなるかな。

シュタイナーの40年ほど前の本を再刊する企画について現在初校中。訳者から校正刷を明日発送予定との連絡。2025年はシュタイナーの没後100年。
今日は教科書採用の注文が多かったようだ。返品が少ないといいが……。

本日の売上 139冊 22万3964円
ネット注文 1冊

■9月2日(火)
5年ほど前に刊行した本の新本が100を切ったものの返本が200以上残っていたので、倉庫に依頼して改装してもらうことに。カバー、オビ、スリップを準備して、倉庫に送る。紙はけっこう重い。
午後にトランスビューから『批判的犯罪学』が50冊届く。短冊をはさんで袋に包む作業の続き。時間はかかったが、一応終了した。献本先を整理して、一部の宛名ラベルを印刷。短冊と宛名を照合しつつ梱包。
3年ほど前の刊行物を読まれた新聞記者の方から、著者に取材したいので連絡先を教えてもらえないか、という問い合わせがあった。著者に確認の連絡をとったらすぐに返信がありOKとのことだったので、連絡先を伝える。近いうちに記事になるかもしれない。
シュタイナーの再刊本について、目次と見出しの入れ方を元の本から変更しようかという話になり、2人の訳者のご意向をうかがいつつ、すり合わせを行う。いい形でまとまった、と思う。
売上はだいたい一桁のことが多く、まあこんなもの。

本日の売上 4冊 6986円

■9月3日(水)
金曜日から出張で仙台に行く予定があるのだが、台風が来そうな予報が出ている。やめて……。
先日から書いているnote用の記事を書き始める。各内容については通勤(徒歩)途中やスキマ時間に検討するのだが、今回は「本が出たときに、広報や販促イベントをどうするか+ブックフェス」について書くことにする。だいたい3時間ほどで4000字。週に1回のペースで継続している。どこまで続けられるか。記事の後半ではブックフェスのことについて書いたのだが、一度前橋とか広島にも行ってどんなものか見てみたい。

午後は献本用の宛名ラベル作成の続き。クリックポストを使っているのだが、1つずつ決済しないといけないのでやや面倒。まとめて決済できる機能をつけてほしい。70冊ほどコツコツと決済してラベルを印刷して梱包する。何回かに分けてポストに投函。とりあえずひと段落。
『批判的犯罪学』電子書籍版の立ち読みファイルを作成する。製品用のEPUBをもとに第1章までを収載したEPUBにする。余計なファイルを削除して、optファイルなどを整理するだけなのでそれほど大変ではない。一発でEPUBチェックを通ったので嬉しい。
『批判的犯罪学』は視覚障害がある人向けにテキストデータ提供を行うことになったので、提供用のテキストデータを作成する。InDesignから抜き出して確認しつつ調整。2時間くらいでできた。
昔に遠見書房の公認心理師テキストシリーズの編集を手伝ったことがあって、その1冊が増刷になったので執筆者の肩書きや訂正の有無を確認してほしい、との連絡。これで自分が請け負ったものはすべて2刷にはなったかな。
今日は教科書採用の注文が2件あったのと、楽天ブックスネットワークから新刊の注文があったので多かった。教科書は数カ月後に返品がたぶんあるだろう。

本日の売上 196冊 37万9994円

■9月4日(木)
『批判的犯罪学』について、新聞や雑誌などのメディアに20冊ほど献本することに。献本先は執筆者からも候補を挙げていただいた。どこかで取り上げてくれるといいのだが。買い上げによる献本をあわせて、今週で合計100冊ほど発送した。
デザイナーさんと印刷所から請求書が届いたので、早々に支払ってしまう。取り決め的にもう少し後でもいいのだが、すぐに支払わないと忘れてしまうのである。
明日から日本心理学会が東北学院大学で開催されるということで、その準備をする。打ち合わせの資料をまとめて、経路などを確認。大宮経由で仙台まで行く。普段使っていない小型のノートPCも充電。台風15号が近づいてきているので心配。今回は展示販売ブースを出さないので、気楽ではある。
とある方から相談されていた企画について、検討したうえで連絡をする。
遠見書房かのテキスト増刷の件で、執筆者の現在の肩書を調べ、確認していただくために執筆者にメールを送る。4年経っていたので異動されている方もそこそこおられた。メールが届かなかった方がおられたが、伝手を頼りつつ連絡はできた(はず)。遠見書房とは増刷の際も編集制作費をいただくことになっている(ので、増刷は大変ありがたい)。
10月に長野で開催される学会に参加する予定なのだが、いつもお世話になっている大日本法令印刷さんの本社が長野にあり、担当の営業の方もそちらに在籍されているので、前日に立ち寄りご挨拶に伺う予定にしていて、その時間などを調整。

本日の売上 4冊 11208円

■9月5日(金)
日本心理学会に参加するため、朝から仙台に向かう。台風で雨が降っているが、たいしたことはなかった。新幹線もほぼ予定どおり運行。新幹線では文化心理学者の北山忍先生(ミシガン大学教授)の『文化が違えば、心も違う?――文化心理学の冒険』(岩波新書)を読み始める。文化心理学研究の勘所や展望とともに、研究を始められた大学院時代のエピソードなども書かれていて面白い。
11時くらいに東北学院大学に到着。けっこうきれいなキャンパス。駅からも近いので立地もいい。

学会会場にあった看板

配布冊子に広告を出していたので、参加費は無償扱いにしてくれてありがたい。展示販売ブースをまわっていたら、前の勤務先のブースがあり、知り合いの編集者の方々がおられたので話をする。
11時半からシンポジウムを聴講。あまり知らない領域だったので面白かった。最後に質問されていた方が、昨日に増刷の連絡した書籍の編者だったので、シンポが終わったタイミングでご挨拶。
会場をうろうろしていたら、以前にご執筆いただいたかたにお目にかかったので少し立ち話。学会はいろいろな方にお目にかかってお話できるので、ありがたい機会である。コロナの頃のようなオンライン開催ではこうはいかない。展示ブースでオートエスノグラフィに関する気になった本を見かけたので購入。
午後は小講演を2つ聞く。どちらも若手の気鋭の研究者だったので、刺激的だった。お一人にお声がけしてご挨拶する。
夕方は10月に他社から刊行予定の大判の翻訳書に関連した「状況」に関するシンポジウム。古くからある領域ではあるが、新しい研究手法の開発に伴って、以前は取得できなかったデータがとれるようになり、盛り上がっているらしい。適切な研究手法があるかどうかは新しい知見や領域の発展に決定的に重要だと感じられる。
終了後は宿泊するホテルまで行き、近くで食事。簡単に済ませ、部屋で過ごす。築年数がやや古めだったが、Wi-fiや設備もちゃんとしていて部屋も広めだったのでよかった。昼間にメールがいろいろと来ていたが急ぎのものはなかったので、返信はまた今度にする。

本日の売上 7冊 12308円

■9月6日(土)
土日は基本的に休むのだが、今週は学会があるのでお仕事。
会場に向かう途中に、有名な和菓子屋さんがあって、朝の9時から10人くらい並んでいた。お土産によさそうだったが時間がないので断念。
朝一のシンポは「隠す」心理について。「隠す」といっても幅広い行動や心理がある。気になった発表者について、経歴とか研究を調べる。
昼のシンポは行動嗜癖(ゲームやギャンブルにはまること)について。プログラムを見て気づいたのだが、発表者の1人が昔からの知人だった。診断基準に入ったり、日本でもカジノができたり、という状況で盛り上がっている領域の1つ。
休憩時間にうろうろとしていたら、いろいろな人に遭遇した。以前にお世話になった、海外の大学に所属されている研究者の方をお見かけしたのでご挨拶する。日本の学会は10年ぶりとのこと。近況などを話す。もうすぐ校了になりそうな本の編者にも出会う。この本はだいぶ長丁場になってしまっているが、ようやく終わりが見えてきた。何冊か書いていただいている方と話をしていて、そのうちの1冊をそろそろ改訂してはどうかと聞いてみたのだが、あまり乗り気ではなさそうだった。
15時からは家族心理に関する書籍の打ち合わせ。各章の内容案を検討していただいたので、それを確認する。1時間ほどお話して、内容案がほぼ固まる。締め切りはだいたい1年後。刊行は2年後くらいか? 16時半頃に会場を後に、東京に戻る。

本日の売上 なし(土曜日のため)
オンライン注文 1冊

■書くことから何か見えてきたか?
今週は学会参加と新刊の発送業務があったので、校正刷やInDesignを触る時間はほとんどなかった。教科書採用で大口がいくつかあったが、トランスビューが差配してくれたので、こちらがする作業はなし。オンライン注文は少なめだった。
並行していろいろな仕事を進めているが、突発的な作業が入ることもあり、その日に何の仕事をどこまでするかはかなり流動的である。締切や期日が決まっているものはカレンダーに書いておかないとすぐに忘れてしまう。
今週は学会で人にたくさん出会って話をしたが、誰とも話をしない日もよくある。もう慣れてしまったのだが、社会的に大丈夫だろうかと時折心配にはなる。
今回日誌を書いてみて、オープンにしない日誌になら何を書いてもいいのだろうが。人の名前や固有名詞を具体的には書きにくく、ある程度ぼかさざるをえなくて、とくにネガティブに捉えられうる表現をすることは難しいことがわかった。書く側のキャラクターや胆力次第かもしれないのだが、『ブックセラーズ・ダイアリー』のバイセル氏は、日々の生活で差し障りが生じなかったのか気になるところである。
ブログや日誌を書いてみて、日々過ぎ去っている出来事や心情が文章化によって整理され、気づきが得られたり、新しい発想につながったり、といったことがあるのを感じた。また単純に、文章を書くことが楽しい、読んでもらうことが嬉しい、ということもある。これまでに編集者として感じていたことでもあるが、経験することであらためて実感できたように思う。

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