「アドビで俺、有名人らしいよ」
版元ドットコムの会員のみなさま、お久しぶりです。
草風館として版元日誌に掲載させていただくのは実に約20年ぶりとなります。
…ということは、初めましての方のほうが多いかもしれませんね。
改めましてのご挨拶となりますが、1979年に創業した小さな出版社「草風館(そうふうかん)」と申します。
創業主の故内川千裕代表は、1970年代に出版された『近代民衆の記録』(全10巻、新人物往来社)の編纂に関わったのち、独立して草風館を起ち上げ、『聞書水俣民衆史』、『アイヌ語千歳方言辞典』、『浅川巧 日記と書簡』、『台湾原住民文学選』
など、主にマイナリティに関係する書籍を世に問うてきました。

このように硬派な作品を刊行する一方、新しいことにも積極的に取り組み、当時のデジタル化の波に対応するべく版元ドットコムさんにも初期の頃から参加させてもらっています。
さて、今回のタイトル「アドビで俺、有名人らしいよ」は、その内川の約30年ほど前の言葉です。
当時の内川社長は、DTPソフトのPageMakerをほぼ独学で覚え(InDesignはまだなかった)、わからないことがあれば何度もAdobeに電話していたため、サポートスタッフには常連ユーザとして覚えられていたようです。パソコン自体もまだ初心者で、スタッフの皆さんも対応に苦慮されたことと思います。特に外字作成はかなり手こずっていたようです。このあたりのことは金田理恵さんの著書『そこに文字が』(筑摩書房)でも記されています。
実は内川社長にDTPの導入を勧めたのは当時まだ学生だった筆者なのですが、旧来の活版印刷に比べて自分の思いどおりに組版できることがよほど楽しかったらしく、荒削りながら驚異的なスピードでノウハウをものにしていました。そして、パソコンの操作でどうしてもわからないないことがあれば、大学卒業後に別の会社に勤めていた筆者にお呼びがかかり、どうにか解決できたあとは、すぐ近くにある神保町の咸亨酒店で上澄み紹興酒をご馳走してもらうのがお決まりのコースでした。そのときに苦笑交じりに語っていたのが今回のタイトルです。
そんな思い出のある内川社長が闘病の末に亡くなったのが2008年です。
その後は妻の内川喜美子が代表を継ぎ、筆者も外部スタッフとしてお手伝いして参りましたが、残念ながら喜美子代表も持病の悪化のため2023年に急逝しました。
そして現在は、内川夫妻の長女である高橋あづさが代表を務めています。筆者も喜美子前代表より後を頼まれていたため、草風館の一員として業務に携わっております。
ただ、前代表の急逝により業務の引き継ぎが充分ではなかったため、この2年あまりは旧知の関係者の皆さまにお力添えを賜りながら手探りで事業を継続して参りました。版元ドットコムさんにも改めて新規会員向けの勉強会に参加させていただいたり、営業の基礎から学んでいます。
ありがたいことに、既刊本の著者や関係者の方々にご挨拶した際には、草風館の火を消してはいけない!と叱咤激励されることも多いです。つい先日は『聞書水俣民衆史』の編著者で御年90歳を越える岡本達朗氏よりお電話をいただき励ましのお言葉をいただきました。(つい先日の石風社さんの版元日誌でも岡本達朗氏について触れられていて驚きました。)
今後も草風館は、これまでに刊行してきた貴重な書籍をできる限り後世に残すべく事業を継続していく所存です。また、既刊の電子書籍化や新刊書籍についても取り組んで参ります。
版元ドットコム会員の皆さま方にもこれまで同様お世話になることと思います。
どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。
P.S. 故内川社長についての想い出話などありましたら、ぜひメールやお電話などでお知らせいただければありがたいです。