含羞の人の初めての本
7年前に『ソーシャルワークマインド』という本を出しました。
著者の山下香さんが、ソーシャルワーカーとして様々なケースに向き合い、得たことを次世代につなぎたいという思いで著した本でした。
その本の中に、知的障害者施設で働いていた時の先輩のことが出てきます。その先輩は、施設での作業はお菓子の箱折りや紙袋作成などが当たり前だった当時、地主と掛け合って畑を借り、ハーブ栽培をすることを作業の中に入れました。なぜかと聞くと「手先が器用ではない人もいれば、室内で一日同じ作業をするのが苦手な人もいるのに、なんでみんなに同じことばかりさせるのか。作業は多様化したほうがいい」と即答されたと書かれています。
この先輩、山下孝光さんは後に著者の夫となります。
孝光さんは、触法障害者の方々を支援する中で弁護士の泉房穂氏に出会い、その後市長となった泉氏に請われて社会福祉協議会の事実上のトップである副理事長となり、明石市を福祉の街へと変えていきます。
多忙を極める中で病に倒れますが、闘病中も自身が作ってきた社会資源を使って次々と希望をかなえ、最期まで自分らしく生き抜きました。
その軌跡が『明石の福祉を変えた社協マンの実践と闘病の記録』という形になりました。
孝光さんの福祉に対するマインドの中心にあるのは「権利擁護」でした。「誰もが尊い命を自分らしく生きること」「一人の人間として尊重されること」を守ることを貫いた人生だったと香さんは述懐しています。
「地域共生社会」を目指して稀有な仕事をやり遂げたにもかかわらず、含羞の人だった孝光さんには著書がありません。そのマインドを誰よりも共有してきた香さんの手によって世に出た本書が、福祉の現場で広く読まれることを願っています。