5年目にして自己紹介
はじめまして。ソウ・スウィート・パブリッシングの加藤と申します。版元ドットコムさんの『版元日誌』、自社を立ち上げる際に大いに参考になりました。なので本来であれば、この回も読んだ方に有意義な情報をお渡しできるものにしたいと思うのですが、「お前らが知ってることなんてもう知ってるわ」だったり、「間違った情報を広めるんじゃねえよ」だったりがあったら逆に害悪だな、いけないな、と思い直し、自社の紹介に止めさせていただくことにします。
小社は2025年3月に4期目を終えました。2人で立ち上げた会社でしたが、いろいろあって現在は、いわゆる1人版元状態で運営しています。これまで世に送り出すことができた本は9冊です。設立時の皮算用では、4期終了時点で30冊ほど出ているはずだったのですが、なかなかそうもいかないところもこの商売の難しさでしょうか。
手掛けるジャンルは不問です。小社としての筋というか芯というか、そういったものが通っていればオッケーとしています。プラス、編集者の偏愛や熱量が感じられるテーマなら◎。なのですが、私が音楽系のメディア出身という出自なものですから、どうしても音楽絡みの企画に偏ってしまっています。この辺りは少人数の強みでもあり(得意ジャンルで突き抜けたいならば)、弱みでもあるところですよね。なので気概のある編集者の力を借りながら、幅広いテーマを扱うレーベルに育っていけばよいなと夢見ています。
と、こんなふうに出版社ヅラして『版元日誌』を書いてはいるものの、実はこれまでずっと、自分の会社を“出版社”だと感じたことがありません。じっさいヨチヨチながらも本は出しているし、トランスビュー様や八木書店様のお力添えで書店やらECやらで販売もできている。スリップも自分で作るし、頼まれれば、返品了解だって(笑顔で)する。つまり業務内容は出版社です。さらに個人的な話を加えると、私の妻は出版社勤務の編集者です。毎月校了で大騒ぎしているし、出版健保に加入しているし、ってことは立派な出版業界人。だとすると、うちのチビの給食費や修学旅行積み立て費は本を作ったり売ったりして戴いているもので、もっと言えば、我が家は出版業界にぶら下がって生きている3人+3匹(猫)の家庭なんですよね。しかしなぜでしょうか。出版業界のニュースなどをスマホで眺めていても、けっこう他所ごとというか、ピンときていないことが多いのです。不真面目なつもりもないのですが。
でも考えてみればそれがそのはず、実はうちの会社、“編集者のスキルを生かしてやれること、やりたいことをやる”がテーマの1つにあるのです。そんな大義に背中を押され、昨日の仕事で1日の大半を使ったのはTシャツ作りの打ち合わせだし、今日の午後からの仕事は他所のメディアから受託したPodcastの音声収録+編集だし、知人から頼まれた盆踊りイベントの検討も進めなければならないし、借金の準備もしなきゃだし、と、1人の分際で本を作る以外のことで悩んだり喜んだりしているんですよね。それに“出版業界”というと、自分が生まれる何十年も前から存在している大手版元をイメージしてしまいます。そういう偉大なる大先輩方と、同じ土俵に立って張り合おうなんて、露ほども思いません。そんな体たらくが祟った結果、小社の出版計画は場当たり的です。だから“そんなにフラフラしていて良いと思っているのか。出版の力で世の中に訴えかけたいことがあって事業を興したのではないのか”などともう1人の自分に説教をされています。そういったものですから、版元ドットコムの会員の皆さまの前で“出版社”などと表明するのは汗顔の至りである、というのが本音です。
要するに丸腰のまま、気が付けば5期目を迎えました。本気っちゃ本気で取り組んできたし、ノリっちゃノリでヘラヘラと邁進してきました。その結果、創業当初の青写真とはまったく違った形での運営になっておりますし、どちらかと言えば“もっとああすれば良かった”と思うことのほうが多い4年間だったと感じます。6年、7年、10年目を迎えられる約束もないレーベルであり、もちろんそんな現状に満足感があるわけではありません。それでもなんとか踏ん張って、またひと回りして『版元日誌』当番が回ってきた頃合いには、文字通りひと回り大きくなっていたいものだな(主に売上と声のデカさが)、その結果、出版業界に貢献できる存在になっているといいな、と思いを強めている次第です。と、こんなふうに書いてはおりますが、それにつけてもこうやって、“誰かにとって最高の1冊”を9タイトルも世に送ることができたのは、自分からすればおおごとなんです。そしてそれができたのは、当然ながら関わってくださったすべての人のお力添えの結果でしかないと実感しています。こちらの日誌で小社のことを知ってくださった皆さま、これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。