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時代が変える本のしるし:ISBN、バーコード、そしてRFIDへ?

版元ドットコムが発行しているメルマガ「ほにゃpress」。その第4号に編集責任者の鈴木さんがRFIDについて書いていました。RFID(無線自動識別)とは、ICチップを内蔵したタグと電波を使って、物品の情報を非接触で読み書きできる技術です。身近なところでは、回転寿司のお皿に装着されているそうです。お皿の山に装置を近づけて、いくらのお皿を何枚食べたかが一発でわかる、あの仕組みもRFIDだそうです。出版業界でも、ずいぶん前から実証実験が行われてきましたが、なかなか実用化には至りませんでした。

それが、昨今、大手版元が書籍に挟み込んだり貼ったりして実際に利用されだしました。

現状では、万引き防止タグ的な使い方しかされていないようですが、倉庫から正規に出庫された商品か、どこの問屋を通して書店に着いたか、古書店で買い取る時に書店で販売済のものかの確認、どこの書店から返品されたか、さらには書店や倉庫での棚卸に活用等々、さまざまな可能性が語られています。

ところが、「ほにゃpress」によると、見慣れぬRFIDが貼付された書籍を汚損品のように感じる読者がいるそうです。この話を聞いて、いまや書籍に当然ついている2段バーコードのことが思い浮かびました。版元ドットコムには、最近出版業界に入られた方も増えているようなので、古株のみなさんには周知のことかもしれませんが、そのことについて書いてみます。

1970年頃、国際規格としてISBNが制定されると、日本でも書籍に10桁のISBNを付けるようになりました(ISBNが13桁になるのは後の話です)。多くは、書籍の下部にOCR-BフォントでISBN、Cコード、価格が書かれていて、最初は、その文字をPOSレジに接続されたスキャナで読み取っていました。

そのうちに、それらの情報をバーコードにしようということで、日本ではすでに国内で普及していたJANコードを使うことになりました。しかし、JANコードは13桁までしか表現できないので、Cコード、価格も入れるために2段バーコードという、当時のJANコードとしては特異な使い方がされました。

書籍のカバー、表4にバーコードが印刷されることには抵抗も多かったようです。特に、デザイン界では、せっかくの美しい書籍カバーデザインが、バーコードで汚される、という声が多くあがったそうです。また「本は文化的な価値のあるもので、商業的なバーコードは相容れない」などという意見や、デザイナーや装丁家の中には「バーコードを入れるような本のデザインはしない」という御方もいたとかいないとか。読者の方々にも同様の声はあったようです。バーコードの設置場所は厳密に決められており、便利さも何も知らなければただただ並んでいる棒の羅列だったので、ことさらそういう声は多かったのかもしれません。

とにかく、当初より評判の悪いバーコードでしたが、取次での流通処理の自動化などで役立つバーコードはどんどんと広がっていきました。そこへ後押しするかのように、「バーコードの無い本は、取次で手作業となるので流通が遅れる」という噂も出たりして、かなりのスピードでバーコードがカバーに付加された本が増えた記憶があります。

(なぜそんな記憶があるのかというと、私は当時書店員でした。なので、さまざまな本を見ましたが、カバーには、デザイナーや装幀家のバーコードに対する工夫がいろいろとあり、いろいろと驚かされました。中でもびっくりしたのが、黒地のカバーにバーコードそのものが白抜きになっているものです。バーコードの白と黒が反転しているわけですから、当然POSで読み取れません。また、バーコードが金色や淡い色合いのインクなどで印刷されたものもありました。これらも当時のPOSでは読み取りができませんでした。こうした今見たらびっくり仰天の、様々な現場からクレームが来そうなバーコードが、大手版元の刊行物についていたりしたものです。(余談ですが、先日スーパーのセルフレジで気づいたことがあります。最近はバーコードと背景色が似たような色でも、モノクロじゃなくても読み込めるようで、少し感動しました。)

バーコードそのものの誤りも結構ありました。雑誌にもバーコードが付くようになってからのこと、とあるスポーツ雑誌を開店直後に買いにこられたお客さまがおられました。レジにピッと読ませて、画面に出た文字を何も考えずに声にだしました。「はい、3万円になります!え?さ、さんまんえん?」と自分でびっくりしてしまいましたが、お客さまもびっくりしたことでしょう。文字で印刷された値段は1300円。その価格を頂戴しましたが、驚きました。数時間後にFAXが送られてきて「バーコードに誤りがありましたので、すぐに修正シールを送ります」とのことでしたが、シールが来る前にその雑誌は売り切れてしまいました。今でも、バーコードの間違いはたまに発生しているようです。みなさん気を付けましょう。

またこんな思い出もあります。老舗出版社の物理学全集を定期予約されていたお客さまがいました。受け取りにお客さまが来店されて、その物理学の本のバーコードを読み取ると、POSレジに現れた文字は「児童書」。多分、Cコードの1桁めが「8」になっていたのだと思いますが、結構適当なCコードのついている本は多かった記憶があります。

まだまだ、バーコードはおろかISBNすらついていない書籍が店頭在庫や常備の中に残っていたりした時代のことなので、今以上に、「美しい書籍」にこだわる人は多かった気がします。

そんなISBNですが、調べてみると、ISBNがスタートしてもう50年以上経っているのですね。隔世の感があります。いまでは、2段バーコードがあるのが当たり前で、それが無いものは市販されている本ではない、と思われてしまうこともあるようです。また、出版社を立ち上げた方にも、2段バーコードを付けた本を出せることを誇りに思う方もおられるようです。時代が変われば感じ方も変わるもの。ISBNやバーコードのように、RFIDもそのうち、RFIDが貼付されてなければ市販書籍じゃない、と思われる日も来るのでしょうね。

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