10月5日開催、Books&Something 2024にお越しください
久しぶりの版元日誌への投稿となります。過去何回書いたのかなと調べてみると、
本屋にきびしい国で、本屋が増えるはずがない。 (2015年8月26日)
「本の解放区」:オルタナティブに本を売る(2017年4月12日)
生活のまちにひらいた不思議な本屋のはなし (2021年7月14日)
3回も書いています。ちゃんと働いてきたなぁと関心していたのですが、読み直してみると出版社の話というより本屋とかブックイベントのことしか書いていない。さすが10年で11冊しか本を作ってこなかった出版社だけあります。ぼくはどちらかというと、本をつくることよりも売ることに興味があるようです。
前回の記事にも書いたとおり、三輪舎は2019年から、横浜・妙蓮寺のまちの本屋「石堂書店」の再建に取り組んでいます。支店として開業した本屋・生活綴方は、本店では応えきれない読者のために詩歌・エッセイなどを中心とした品揃えをしつつ、レーベル「生活綴方出版部」を立ち上げ、お店にかかわるひとたちに企画を持ちかけて店内併設のリソグラフをつかって人力で本をつくったりと、いろいろな取組をしています。その結果、直近の決算ではしっかり黒字を計上することができました。ひとまずは目標をクリアしましたが、まったくもって経営危機から脱しているわけではありません。東急東横線沿線の各駅にはまだ本屋が残っている、なんて一時期は言われていましたが、大倉山の天一書房さんは昨年閉店し、やや元住吉にある住吉書房さんも閉じられるとのことで、状況はより厳しいほうへ向かっています。9年前の記事にも書いていますが、まちの本屋スタイルの石堂書店と独立系書店スタイルの本屋・生活綴方を両方経営してますます思うのは、正味78%ってまったく時代に合ってないぞ!と声を大にして言いたい。なかには8掛とか、それ以上の掛率で本を卸すところがあります。それって、書店員をボランティア扱いしているのと一緒ですよね。5%でもいい、最初は3%でもいいから条件を改善してくれと切に願います。それだけでも、書店は息を吹き返すためのチャンスが生まれるんですよ。
書店の減少について、よく“構造のせい”って言われるじゃないですか。もちろんわかります。でも、どうして江戸幕府が潰れたのか、どうして日本は戦争に突き進んだのか、どうして原発が爆発したのか、どうして金権政治がはびこるのか、そのときだってきっと、“構造のせい”って気づいているひとはいた。そこでだいたいは「構造改革が必要だ」って話になっていたはず。それで少しずつは改革は進む。けど、気づいたのも遅いし、動くのも遅い、改革のスピードも遅い。それで破局を迎える。破局しないと変わらない、ってそろそろ歴史から学ぼうよって思う。構造とか、時代の流れとか、頭良さそうなことばかり言ってないで、いまこの業界で特権をもっている人間が動かないといけない。女性に不都合な社会を是正するために、男性がその特権を自覚して動かなければいけないのと同じ。例えば家事労働とか、クオータ制やパリテ。ぜんぶやらなきゃいけない。もう破局目前ってなってやっと動こうとしているのは遅いんだけど、破局してないなら遅すぎることではない。出版社と書店と、もちろん個別具体で見ればそれぞれいっしょくたにはできないけど、どう客観的に見てもその両者の間には不平等条約がある。書店は価格を決められない、原価率も決められない(もちろん多少の工夫はできるが)。もっというと数量すら決められない場合もある。書店の現場にいると、書店は結局、出版社=取次の下請けなんじゃないかとしばしば錯覚する。製本会社も書店と似た状況で下請け的に買い叩かれているって話をよく聞く。制作の末端が製本所。流通そして業界全体の末端は書店。特権を持っている人間は、末端のことを考えて仕事をしてほしいと切に願う。こないだ経産省のお役人さんがヒアリングに来ていろいろ話をしたときに書店員のお給料の話をした。具体的な数字は差し控えるとして、十年以上働いても、正社員はふつうの企業の大卒初任給程度だし、パートは最低時給に文字通り毛が生えた程度です、と言ったらお役人さん驚いて「えっ!たいへん文化的な仕事をされているのになんということでしょう!」って。
さて、そういう話はここまでにしておくとして、イベントのお知らせをしたいと思います。
Books&Something、通称「ブクサム」が10/5土曜日に開催されます。ブクサムは、2018年から開催し、コロナ禍での中止を挟んで今年で6回目を迎えるブックマーケットです。タバブックスの宮川さんの呼びかけにより始まって、最初の3回はタバブックスが、今回までの3回は三輪舎がそれぞれ幹事社として主催しています。本の販売(BOOK)だけでなく、雑貨やフードのお店(SOMETHING)も出店します。本の出店者は主に東京とその近辺に拠点を置く独立系出版社やレーベルで、今回は以下の12社です。
百万年書房 / タバブックス/ Troublemakers / 七月堂 / TISSUE PAPERS / NUMABOOKS / 信陽堂 / 三輪舎 / 本屋・生活綴方 / palmbooks / twililight / SUNNY BOY BOOKS
会場は新代田駅徒歩30秒、下北沢からもほど近いライブハウス「FEVER」です。曽我部恵一さん、有馬和樹さん、牛尾健太さん(おとぎ話)によるスペシャルライブも開催します。
詳細はウェブサイト(bukusamu.com)をご確認ください。
こんなイベントの告知をすると、ころからの木瀬さんが先月版元日誌に書かれた「祝祭から日常へーー「本の産直市」を考える」の主張に反抗しているにも見えます。いち書店の立場(もちろん書店を代表しているわけではありません)からすると、浅草ブックマーケットにしろ、文学フリマにしろ、本の作り手によるイベントは、後ろめたい気持ちにならずに大いにやったほうがいいと思います。祝祭がきっかけで本と出会い、本屋に通うようになったひとを、ぼくは何人も知っているからです。できれば、書店が企画してそういうイベントをできるのがいちばんいいと思います。今度12月中旬に発売になる『仕事文脈 vol.25』(タバブックス)にぼくが寄稿した拙文があります。横浜・妙蓮寺で石堂書店=本屋・生活綴方が企画・主催した「本や街」というイベントについて書いていますが、これは本屋がある街で祝祭したらその後、平時の売上も上がった、という話です。こちらもぜひご笑覧ください。