仮説社は50年,どうやって生き延びてきたのだろうか
仮説社は、2023年12月で50年目を迎えました。50年続く会社ってそんなにはないのではないでしょううか。私はその全期間に社員だったわけではないのですが、自分の会社ながら、すごいことだなあと思わざるを得ません。
とくにこの20年ほどの、本,ならびに月刊誌『たのしい授業』の売れ行きがどんどん下がっているときをよくぞ乗り切ってこれて,今なおなんとか営業できているなあと、感慨深いものがあります。
本が売れない影響は版元にももちろん厳しいけれど、書店にとってはもっと厳しいのでしょう。わたしの周りでもほんとにたくさんの書店が消えてゆきました。版元も、書店も、いま、どうしたら生き延びられるのだろうかとまだまだ試行錯誤の中だと思います。少なくとも仮説社はそうです。
さてそんな状況で大きな書店までもが閉店する中で、どうやら小さな書店は増えているらしいではないですか。一体どうして?
と思っていたのですが、一つの対策は「本が売れないのなら、それ以外のもので売上を確保すればいいじゃないか」ということのように見えます。わたしが知れる範囲でのことですけど。古本の販売や文房具、おもちゃや絵本の登場人物や動物などのぬいぐるみなどの販売もそうですが、品物だけじゃなく、カフェだったり、トークイベントだったり。
「うーむ、みなさんほんとに色々な知恵を働かせて工夫していて、ほんとに偉いなあ」などと感心していたのですが、ふと自分の足元を見てみると、「あれ、それって、自分の会社でもやってることじゃないかひょっとして」と気づきました。
仮説社はいま巣鴨にあるビルの3階にあるのですが、社内の三分の一くらいのスペースが店なのです。自社の本はもちろんですが、古本や個人出版の本(「ガリ本」と呼んでます)から、実験器具やおもちゃ、手品からミジンコなども並んでいます。同じビルの上階に耳鼻咽喉科の医院があって、そこで痛い目にあって(治療でしょうけど)わんわん泣きながらひとつ下の仮説社でエレベータを降りてくると、お母さんが4歳位の子どもに「痛かった?よくがんばったわね。ほらここで楽しいおもちゃを買ってあげるから泣き止んでね。でも、300円までよ」などと言いながら、おもちゃを手にとったりしてます。ガチャもあります。この売り場の一隅に机と椅子をおいて,夏休み自由研究講座や煮干しの解剖講座,そして近所の子どもたちを集めて仮説実験授業などを教える科学教室まで始めています。
出版社で社内に店があるって珍しいのではないでしょうか?
でもこれは最初から売上のために店を始めたというわけではないのです。仮説社は「仮説実験授業」という、学校の授業の方法のための理論書や実際に授業をするときに使うためのプリントなどを中心に作って販売しているのですが、その授業をするために必要な実験器具というものがあるのです。それがどこにでも売っているものではないこともあります。なので、読者のためにそういう実験器具の通信販売をせざるを得なくて、まあ仕方なくはじめたというわけです。そんなわけで、東京にお住まいの読者は仮説社に直接買いに来たりするので、なんとなくお店のような感じになっていったという訳です。そんなふうにほそぼそと始めた本以外の商品の販売ですが,なんと50年後のいまでは,売上の半分くらいにまでなっています。そうしてこの売上が書籍販売の減少を少し補ってくれています。
というわけで,いまや出版社なのかおもちゃ屋なのかわけのわからない会社になっていますが,まあたのしくやってます。
しかしなんといっても本が売れるのが一番ですから,他の出版社の方々には参考にはならないかも知れませんが,一つの生き残りの方法としてご参考になればうれしいです。
最後にひとつ宣伝させてください。こども家庭庁の本年度児童福祉文化財 推薦作品に,『うに――とげとげ いきもの きた むらさきうにのひみつ』(文:吾妻行雄/青木優 和,絵:畑中富美子)が選ばれました。