あるまじろ書房という名しかなかった出版社の名前
出版社を創業して15年たちました。
皆さんは、出版社の名前をどう決めているのでしょうか。
ポリシーを形にする場合が多いのでしょうね。
弊社は、私個人の思い入れだけで、名を決めました。
「あるまじろ書房という名は、ふざけているんじゃない? 出版社というのは、文化を発信するのだから、漢字三文字とかで、ポリシーを表すものだ」と、さるキャラクターを扱う会社の偉い方に言われました。
その時、ふと立ち止まって考えてみました。ですが、これしか思いつくことができませんでした。
「あるまじろ」を自分の活動に最初に冠したのは大学1年生の時、大学の音楽サークルに所属していた時でした。時代から取り残されたようなフォークディオを組みました。そのバンド名が「あるまじろ」でした。その時は特別なポリシーはなく、『広辞苑』をめくり、自分の雰囲気に合うかな?という言葉を4、50ピックアップしてみました。中でも、精密な絵が描かれていた「アルマジロ」に目がとまりました。絵には「ミツユビアルマジロ」とキャプションがついていましたが、この絵に惹かれ、自分の小太りな体型にも合っているように思い、ひらがなで「あるまじろ」としました。ソロで活動する時には「有馬二郎」としてみたりもしたり、もう一度グループにする時には、大阪のザ・デュランⅡ(セカンド)を真似て「あるまじろⅡ」とつけたりもしました。
愛着はありましたが、大学を卒業したら、そんな名を使うことはないだろうなと思っていました。
以下は、拙著『聖飢魔II激闘録 ひとでなし』(現在は電子書籍)からの抜粋です。
「聖飢魔Ⅱが地球デビューした翌年。著者山田は、立東社という出版社へ就職。『PLUM』という雑誌に仮配属。入社が四月一日。その数日後に、先輩に『デーモンの悪魔語講座』(付録のシートレコードがあり、生声で閣下が出演)の収録があるからと同行し、初参拝。すると閣下が〝あれ、山田、PLUM? そうか、山田も出してやろう〟と〝悪魔語講座〟の脚本の中に私の登場シーンも作ってくれた。」
上記大学の音楽サークルからは聖飢魔IIが地球デビューしたのでした。デーモン閣下は同期でした。ソノシートには「あるまじろ山田」という名で登場させていただきました。以降、聖飢魔IIに関して書く時に、写真を撮らせていただく時には、「あるまじろ」を使用しています。
大学時代の思い出になるはずの「あるまじろ」は、閣下のおかげで生き残ったのでした。
それより20年ほど後のお話。当時、フリーのカメラマン、編集者として活動しており、ある都内の家を借りて家族で住んでおりました。庭付きの一軒家でしたが、2階は数部屋分のワンルームアパートとなっていて大学生が4、5人住み、私たちは1階部分を借りておりました。時代はついておりましたが、出窓になっていたり、建具もちょっとしゃれたものを使っていたり、建主さんのこだわりが伝わってくるモダンなお家でした。
建主さんはすでに亡くなられていて、遠方にお住まいに甥ごさんが管理されていました。ある時その方がお越しになり、建主さんは画家だったこと、庭の倉庫に絵が保管されていること、さらに「回顧展をやるので、絵を持っていきます。よかったら来てくださいね」と、お話され、大量の絵を持ちだされていかれました。
新宿の伊勢丹美術館だとのことでしたが、どのような絵を描かれていたのかも知らずに訪れました。その画家は牧野四子吉さん。出版関係の方の中にはご存知の方もいらっしゃることでしょう。精密な動植物の絵を数多く描かれていた方でした。その原画が伊勢丹美術館に、所狭しと飾られていました。自分が子供の頃にみていた図鑑の絵の数々もそこにはありました。
展示の中に、小さな1色の絵が、数百点、ガラスケースに収められたコーナーがありました。そうです。『広辞苑』に収められていた数々の精密画でした。ありました。「ミツユビアルマジロ」の絵が。その中に。
原色の素晴らしい絵がたくさん飾られている中で、小さな1色の絵に、一人涙していました。
記念に展覧会の図版を買って帰り、ページをめくり再びびっくり。図版の巻末に、アトリエの写真が掲載されていました。図版から顔を上げるとその写真と同じ風景が目の前にありました。机こそ違いますが、窓はそのままです。
「ミツユビアルマジロ」もここで描かれたのかもしれないと思うと、言葉も出ませんでした。
一人感動していたちょうどその頃、出版社を立ち上げることを勧めてくれる方が複数いて、会社にすることに。単純な頭なもので、自分の活動につける名前は「あるまじろ」以外、考えられなくなっていました。そうして、「あるまじろ書房」が誕生しました。
つたない文章なので、自分が受けた感動の何パーセントかしか伝わっていないかと思いますが、「あるまじろ」と私の縁について書かせていただきました。
出版社のみなさんは、なにかしらの縁を紡いで本を出版されるのでしょうが、あるまじろ書房も縁の上に出版しています。
立ち上げを勧めてくれた方からの紹介で当時出版した本の中に、童話作家の縄野静江さんの絵本『ポストくんどこへいくの』があります。この8月に、弊社からその縄野静江さんの作品集『14の小さなお話ボックス』を出版させていただきました。
前述の聖飢魔IIの『ひとでなし』に続き、『真・聖魔伝』(こちら、発売はシンコー・ミュージックです)も出版させていただいています。
今後も縁を大切に出版業に携わっていきたいと思っています。