読書の作法
日々、枕元や書棚にあふれかえる大量の積ん読と過ごす――そんな愛書家の死角となっているのが、読書を苦手とする人々です。
本が好きだという前提で生きている出版業界の人間にとって、考えの埒外にある存在ですが、読書人口を増やすためには「読書」の作法というものをもっと積極的に発信していく必要があるのではないか、ということを今さらながら考えています。
というのも先日、北海道苫小牧市で開催された本にまつわるトークイベントに参加した際、参加者から「学校の図書室が苦手」とか「本を読むのが遅くて困っている」といった発言があり、本を読むことに抵抗を感じている人の苦手意識をどうやったら和らげられるのか――ということについて考える機会を得たからです。
イベントのコーディネーターを務められたブック・コーディネーターで「本屋B&B」を営む内沼晋太郎さんからは、「本は買った時点ですでに3割は読んだことになっている」というアドバイスがありました。その意味を自分流に解釈すると、「書名や内容に興味を抱いて購入したことで、その内容の3割方はすでに本を買った人の糧になっている」といったことになるでしょうか。
ですから、本を買って読まなくても心配はないのです。傍らに積んでいるだけで、実は読書したことになっているわけですから。また、「毎日、それらの本の背に見える書名を眺めていることが、すでに読書の一部になっている」という内沼さんの言葉にも、強く共感させられました(これで家族にも言い訳ができますし)。
また、読書が苦手という人に限って「買った本はすべて読み切らなければいけない」という古くからの考え方に縛られているようです。「最初の数ページを読んで面白くないと思ったら、読むのをやめて積んでおけばいい」という多くの本好きが実践している読み方を、もっと広く知ってもらう必要性を感じました。
さらに「本はどこから読んでもいい」ことも、知ってほしいポイントです。おそらく多くの人々が「本は始めから順序良く読まなければならない」と思い込んでいます。でも、どこから読み始めてもいいわけで、パラパラとページをめくりながら興味の赴くままに目を通せばよいことを知ってほしいのです。
このトークイベントのおかげで、これまで読書をするという行為に、きちんと向き合ってこなかったことに気づかされました。本を読むことをもっと自由気ままで解放的なものにしていく――出版に携わるものとして、こうした自由な読書の作法を発信していくことが、引いては読書人口の増加にもつながっていくのではないかと愚考する次第です。
愛書家であるみなさんにも、「読書」の自由な作法を周囲の方々に伝え、広めてほしいと思います。