コロナ禍での「読みきかせ活動」と「著作物使用許諾申請」
今回は、コロナ禍が「読みきかせ活動」にどんな影響を及ぼしたのか、弊社に入ってくる「著作物使用許諾申請」を通して見えてきたことなどを書かせていただきました。読みきかせ活動は、小学校や地域で子どもたちに向けて絵本を読む活動で、児童書界では読書推進のための、有効な方法の一つとして位置づけされています。
コロナ禍によって、2020年2月から小学校が休校となり、その後、弊社に様々な著作物使用許諾申請(以下、申請)が入ってくるようになりました。在宅学習の子どもたちに向けて、小学校教師やグループが絵本の読みきかせ動画を制作して、ネットで配信したいというのもの、Zoomを使って読みきかせをしたい、テレビ局が番組で読みきかせをして放映したい、ラジオ局が絵本を朗読したいというものなど、申請の数はコロナ前の3倍以上になりました。
読みきかせ現場では、コロナ禍によって対面読みができなくなり、一斉に画面読みを試し始めたのです。
それぞれの申請に対しては、作者に可否を確認して、可ならその使用方法に合わせた注意事項(絵本の内容、構造を一切変えないで制作すること、無断で使用することを禁じる旨の掲載など)を記載して返信していきます。
<様々な読みきかせ動画>
作者の許諾が得られた場合の話ですが、絵本の読みきかせ動画は、いろんな方法で制作されています。絵本だけを撮影しているもの、読み手も共に映しているもの、時々絵の一部をアップにするもの、音楽を入れているものなどと多種多様です。
これらの動画を見ると、対面読みを画面上で表現することの難しさが伝わってきます。それでも、中には絵本の世界観を上手に表現して、上質な作品になったと思える動画も見られました。
<読みきかせ動画の無断配信と削除要請>
ある作者から、自分の著作物の読みきかせ動画が無断配信されているので、中止させる手続きをしてほしいという連絡が入りました。周知のとおり、絵本などの著作物は作者が精魂こめて制作したものであり、それぞれの世界観があります。それを異質なものにしてしまっている動画が多く見られたのです。それらは、著作権の侵害にあたるので、配信者に動画を削除するよう連絡しました。
このように、作者の許諾を得ずに読みきかせ動画を配信することは「違法」になります。
<コロナ後の申請内容の変化>
コロナ禍初期に申請で急増したのは、前述のように小学校やグループが、読みきかせ動画を配信したい、またZoomを使って読み聞かせをしたいという申請でした。それが、今年(2023年)になってコロナが終息すると、小学校からの申請は激減し、ユーチューブに読みきかせ動画を配信したいという申請も減少しました。コロナ禍前の対面による読みきかせ活動が復活してきたのでしょう。
一方、申請でコロナ禍に発生して、終息後も残ったのは、Zoomを使用した読みきかせです。Zoomは、その利便性から一気に広がったようです。現在も読みきかせの講習会などでよく利用されています。
<作者の意向と読みきかせの原点>
絵本の読みきかせを画面上で行うことについて、各作者の意向は異なります。ある作者が「絵本は、画面上では伝わらない」と言われました。絵本のタイプにもよることですが、作者は、「紙」を「手」でめくることを前提に創作しています。そして読みきかせをするときは、「肉声」で話を進めて、子どもの反応を見て、ときには止めたり戻ったりする。このライブ&アドリブ感(即興)こそ読みきかせの「原点」と言えます。ゆえ、画面上で表現することは、近いけど別ものになるということです。このような絵本観をお持ちの作者は、画面上での読みきかせ申請に対してNG返答になります。一方、画面上でも絵本の世界観を自由に表現してOKという作者もおられます。
今回のコロナ禍で、動画やZoomでの読みきかせが発生し、申請に対する作者のいろんな意向を聞いて、絵本の「特質」や読みきかせの「原点」、そして画面表現での「可能性」というものを改めて考察する機会となりました。
★参考資料<授業目的公衆送信補償金制度>
著作権を管理する文化庁では、「授業目的公衆送信補償金制度」を2020年4月28日から開始しました。この制度は、小学校などの非営利の教育機関が授業として、ネットを利用して著作物を使用する場合、ある条件のもとなら著作権者の許諾をとらなくてよいというものです。オンライン教育における著作物利用の円滑化が目的で、使用できるのは「小部分」としています。(=教育用著作物ネット配信円滑化制度、チラシ参照 )
絵本の全文を読みきかせた動画を、生徒がいつでも何度でも見られるようにアップすることは、対象外なので許諾が必要です。一方、初等教育(幼児保育を含む)の場合、ウエブを用いたストリーミング授業で、クラスの児童生徒にだけ同時配信して、絵本の全文を読みきかせすることは制度の対象となっていますが、著作権者の利益を害する利用はできないので著作権者に確認してほしいとのことです。(協会のサイト内FAQの「その他」参照補償金制度利用に関するFAQ | 一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会 )
これらのことは、ネットで「サートラス」で検索すると、現時点での制度の内容や指針、運用方法、FAQが掲載されておりメールでの質問もできます。