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作りたい本のほうへ

版元ドットコムの会員社のみなさま、全国の書店や読者のみなさま、はじめまして。自己紹介もかねて当社の出版事情について一筆書かせていただきます。少しばかりお付き合いいただれければ幸いです。

マイブックサービスは東京で美術洋書の輸入販売を営んでいる会社です。創業1970年と、この分野では「老舗」です。それから、全国各地のミュージアムショップの運営事業を行っています(1995年~)。美術館の中で展覧会に関係する書籍やグッズ、あるいは来館者の方に喜んでいただけそうな商品を仕入れて販売しているわけです。そんな会社がなぜ出版を始めたのか? 出版物を仕入れて販売するという過程を見ているうちに、自分たちでも本を作れると良いなと思うようになったからです。売る部門と作る部門の両立は強みになりえます。書籍でも、ファッションでも、あるいは他の分野でも、同様の形態をとっている会社さんはけっこうあるでしょう。

ジャンルは展覧会カタログや美術書です。2013年から少しずつ刊行を始めました。

出版部門の人員は私ひとりです。始めるにあたって、編集にかんしてまったくの素人でした。最初はプロの編集者さんの下で何冊か展覧会カタログの制作現場にご一緒して学ばせていただきました。それからひとりでやらせてもらうようになりましたが、あらためて実務の知識や基礎を身につけたいと思い、後になって日本エディタースクールに通って編集と校正を学びました。そこで教わった大切な心得は「こんな本を作りたいと思い続けていれば自然とそのほうへ足が向いていく」ということでした。

紙面の編集・校正はやるたびに新たな課題に出くわします。前の本と同じやり方ではうまくいかないことがあり、そのつどの解決が必要になります。とりわけ手がけているのがアートブックなので、紙面レイアウトも造本も前と同じということがまずありません。幸いこれまでに刊行したどの本も優れたデザイナーさんや印刷会社さん、それに学芸員さんや翻訳者さんがご一緒してくださったので非常に助けられてきました。

では作った本をどうやって販売しているか。展覧会カタログの場合は当然ですが美術館内のショップで売ることがメインになります。そして書店への流通については、アマゾンへは直取引で納品しています。アマゾンを除く国内の書店(実店舗/オンライン書店)への販売はトランスビューさんに委託しています。自社以外のミュージアムショップへの流通はオフィスアイイケガミさんにお願いしています。本によってはヨーロッパへも展開します。アムステルダムに拠点を置くIdea Booksさんにお世話になっています。それ以外にも日頃お付き合いいただいているディストリビューターさんや書店さんに直接本を卸販売させていただくことがあります。

刊行ペースは年1〜2冊ほどです。ひとりですし無理をせず、1冊、1冊という感じで来ました。

2022年に刊行したのは1点、『シラーの美学思想』という本です。

長年フリードリヒ・シラーの美学を研究してこられた利光功先生の著作です。利光先生のお宅に何度も通って教えを受けながら完成させました。先生とのやり取りは、電子メールを介することなく、聞き取りおよび紙原稿のデータ化、原稿照合(引き合わせ)、校正刷りをお持ちして赤を入れる、というふうな仕方で進められました。昔ながらの編集者の仕事の一端を初めて体験したといえるかもしれません。この本は私にとって、自分の関心がひろがる、読むたびに教えられる本です。自分の仕事でなくても買って読んだと思います。装幀や帯文もうまくいきました。

2021年の刊行も1点でした。展覧会カタログ『ボイス+パレルモ』です。

この本は編集・レイアウト・造本にデザイナーさんや学芸員さんのアイデアがあって、取り組みがいのある仕事でした。具体的には、作品、記録写真、テキストという、展覧会がテーマとする作家に対する三様のアプローチを、紙やレイアウトを変えて各々自立させつつ、記録写真のパートを折の単位ごとに章立ての中に差しはさんでいくという複雑なプランになっています。そのため台割や造本面でのトライアル・アンド・エラーが繰り返され、学芸員さん、デザイナーさん、印刷製本会社の担当者さんとの密接な協働体制が築けなければうまくいかなかったと思います。本書は刊行後、全国カタログ展の審査員特別賞を受賞したり、ブックデザインの雑誌で紹介されたりと評価を得ています。ぜひ実物を見てみてください。

私はもともと学生の頃にドイツの現代芸術や美学に関心を持ち、研究テーマとしていました。学生の頃に参加し始めた美学の読書会には、仕事を始めてからも個人的な活動として現在も参加しつづけています。ボイスやパレルモ、そしてシラー美学という、自分の関心領域と重なるような企画に出合い、編集と出版に携わることができたのは僥倖でした。「作りたい本を作り、売りたい本を売ることができる」というのがシンプルですが本の業界のいちばんの面白みであり、自由で開かれたところではないかと思っています。

初めての投稿なのでこのあたりで筆をおきたいと思います。最後までお読みくださってありがとうございました。

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