このまちの、あれこれかれこれ
古小烏舎(ふるこがらすしゃ)と申します。この9月に法政大学の陣内秀信研究室での長年の研究成果を書籍化した『トスカーナ・オルチャ渓谷のテリトーリオ〈都市と田園の風景を読む〉』を刊行しました。コロナ禍の猛暑の夏、大著の校了が差し迫る中、事務所移転の引越し作業も重なり、いろんな汗が入り交じる慌ただしい日々でしたが、本が無事に完成し、ほっとしました。
あらためまして、古小烏舎と申します。社名は、小社がある福岡市内の地名(町名)でとくに好きな古小烏町(ふるこがらすちょう)から拝借しました。音の響や字面の不思議な感じが子どものころから気に入っていて、社名に使わせてもらうことにしました。ちなみに、「小烏神社(こがらすじんじゃ)がもともとあったところ」という意味だそうですが、小烏社神社も小社もいまの古小烏町にはありません。
小社は2019年に創業し、福岡の出版コミュニティの中では新しい(つまりペーペー)書籍出版社です。創業までのことは「版元ドットコム九州」のサイトのコラムで触れていますので、もしよろしければご笑覧ください。
小社がある福岡市の中心街・天神は、今、街一帯で大規模な再開発が進んでいます(「天神ビッグバン」と言います)。すっかり様変わりした近未来の姿を想像すると楽しみでもあり、一方で「あれ? ココ何があったっけ?」と、馴染みのある建物が姿を消し、慣れ親しんだ場所が記憶の彼方に消えていくさみしさもあります。2021年に刊行した『都市のルネサンス〈増補新装版〉』の著者・陣内秀信先生によると、このように都市というのは常に変化していくのですが、そんな中でも、変わらない「核心」があるというのです。それはずっと過去から受け継がれ、それこそがそれぞれの都市の特徴であり魅力となってあらわれる、というのです。今まさに、福岡・天神の変わらない核心が受け継がれようとしている貴重な機会に立ち会っているのかもしれないと思いながら、一時だけ空が大きく見える風景を眺める今日この頃です。
福岡の秋といえば、本のお祭り「ブックオカ」の季節です(10/20〜11/20)。「福岡を本の街に」のキャッチフレーズではじまったブックオカは、17年目の今年もイベント盛り沢山で皆様をお迎えします。小社と事務所をシェアしている忘羊社の藤村さんは、ブックオカの立ち上げから番頭として切り盛りしていて、背中越しにもその大変さが伝わってくるので、背中越しではありますが応援しています。
今年の催しの中で特に楽しみにしているのが、梓書院の創業50周年記念の催し、創業者の田村明美会長を囲んでのトークイベントです。50年前の1970年代前半といえば、福岡の出版業界にとっては、それ以前とそれ以後に分かれるターニングポイントと言えます。福岡では現在約20社の書籍出版社が活動し、数はそう多いとは言えないかもしれませんが、地方出版でありながらいわゆる郷土出版とはやや異なり、テーマも本づくりも読者もベクトルを全国にも向けて発信しています。その起源を辿ると1970年代初めに行き着きます。1970年代というのは、福岡に限らず全国の地方出版にとっても重要な年代のようで、例えば、地方・小出版流通センターの創業が1976年で、地方そして小出版ブームが巻き起こった時代でもあります。それより以前の創業ということは、一地方の出版物が全国に流通することが現在よりもっともっと難しかったころであり、想像もできません。そんな当時のことをうかがえる貴重な機会で、福岡の出版コミュニティに関心がある身としてはとても楽しみです。