南方書局プロローグ これまでとこれから
房総の産湯に浸かった坂東の道楽御殿に身を潜むあっちらホイホイ横道逸れ太です。また、土地土地のオア兄さんオア姐さん御厄介かけがちなる道草取る蔵でもございますが、今日こう万端引き立って御たのもうします。
という訳で、みなさまお初にお目にかかります南方書局の富澤大輔と申します。
南方書局は2021年の暮れに設立した新参でございまして、一言で言いますと「印刷物」好きが高じた結果誕生した版元でございます。
何事も「好き」が度をこし「ばか」になるとどうしても市販品に物足りないとか、自分でもやってみたいという気が湧いてくるもので、どうせ恥をかくなら20代のうちにかいとこうと後先考えずに始めました。しかるに富澤は出版業界勤務の経験が全くないずぶの素人でございます。そんな世間知らずの若造ですが、みなさまどうぞ生暖かく見守って頂けましたら幸いです。
南方書局名義での活動はまだ始まったばかりで、逐次刊行物《時代》の発行と富澤の写真集一冊を発行したに止まっております。
ですのでほぼほぼ無名かと存じますので、自己紹介をこの場をお借りしてさせて頂こうかと思います。以後お見知り頂ければ有り難き幸せでございます。
私富澤は母の里帰り出産で房総の産湯には浸かりましたが、台湾出身で、中学卒業まで椰子の木が繁る南の島で呑気に育ちました。毎日道に落ちているマンゴーを蹴飛ばして遊んでいた少年が本好きになる切っ掛けが小学校高学年の夏休みに母の実家がある日本へ遊びに行った時訪れます。少年富澤が漫画を買いたいと騒いでいると聞きつけ近所のおじさんに神保町へ遊びに連れてってもらったのです。駅を降りてすずらん通りと靖国通りの交差点に差し掛かった時、なんなんだこのヤバい町は!と思ったのが運の尽き。寝ても覚めても神保町。高校進学を気にとうとう一人で渡日を決めてしまいました。それからは毎週総武線に乗り、お茶の水でおり、ハイパーミラクルタウン神保町に入り浸るようになってしまいます。本の沼にハマってしまった富澤は段々と自分でもなんか作りたくなってしまいました。しかし本は好きだが、文章は書けない。ならば同じくらい好きなカメラで写真でも撮って写真集を、ということで大学時代より身の回りにあるダンボールなどの素材や裁縫道具を駆使して手製本で作っては友人に見せるなどを繰り返しておりました。そうこうしているうちに、光陰矢のごとしで、大学を卒業。すかさず延命措置として大学院に進学です。しかしまあ4年かけてどうにもならなかった人間がもう2年ばかりでどうにかなるはずもなく、富澤は芸術大学の大学院を修了後、御多分に洩れず定職にはつかず商業施設で警備員をする傍で子供達にお絵描きを教えながら額縁を作って売るなんぞという、生活をすることにしたのです。(まるで過去の話のようだが、現在でもほぼ同じような生活である)しかし、まあ自分でいうのもなんなんですが呑気な奴でございますので、これもなんだか浪人みたいでいいやとあまり気に求めずに日々を過ごしている訳です。
そして南方書局の構想もこんな生活の中で生まれました。少し遡って大学院生のころ、たまたま富澤の写真に目をつけた浅田農さん(明津設計)という歳の近いデザイナーが現れます。これが転機でした。彼も何か面白い事をしようと考えていたのかもしれません。私がデザインをするから私家版で写真集を出さないかと持ちかけてくれたのです。まあこれに乗らない手はないとすかさず承諾をし、あれまあれまという内に700部刷られた写真集が家に天高く積み上げられてしまったのでした。当時東京の千住に住んでいた富澤は神保町に出かける以外は北は北千住、南は南千住までしか行かないという出不精極まりない目処くさがりでしたが、流石に山高く積まれた段ボールを見てこれをなんとしても売って金に変えねばと、大学浪人時代に台湾でテキヤをやっていた容量でとりあえず本をザックに詰めて飛び込み営業という名の行商に出ます。そう言えば小学校の卒業文集で将来の夢「あきんど」と書いたなと思い出しながら、「おい!夢が叶ったぞ!」と12歳の富澤に富澤は呼びかけつつ一路西へ西へと向かった訳でございました。
しかしこれがこの上なく楽しい、というか快感で、あっという間にハマってしまい。年に1、2冊のペースで自分の写真集を刷っては行商へ行くというのを繰り返し、とうとう就職を逃してしまった訳でした。
しかし飽き性の富澤は自分の作品だけというのはなんだか味気ないと思い、発刊することにしたのが富澤大輔が責任編集の逐次刊行物の《時代》です。《時代》は日本、台湾、中国に拠点を置く6人よる新聞型ビジュアル紙です。これを契機に自分以外の方の作品を扱うようになったのでした。まあこれも思った通りにめちゃくちゃ楽しい訳です。そして自分の作品ではないのに富澤名義の自費出版もどうかと思い、設立したのが南方書局という訳でございました。
ざっといいかげんいですが、振り返ってみました。先に述べたように、富澤は業界未経験です。今必死で勉強しながら手探りで本を作っております。作りたい本は沢山あります。日本に紹介したい、台湾や中国の過去の名著もたくさんあります。
それを何年かかるかわかりませんが、一冊一冊丁寧に編んでいこうと考えておりますのでどうぞ皆様引き続きよろしくお願い致します。繰り返しになりますが南方書局という発展途上な版元をなんか変な版元が一社増えたなと思いながら暖かく見守って頂けましたら幸いです。
※《時代》を詳しく知りたい方、The Graphic Design Reviewに掲載されたインタビュー記事をご参照頂けましたら幸いです。