書店員の眼力
私が書店営業を担当して間もないころ。弊社が年4回刊行している「季刊のぼろ」という登山専門誌の新刊案内(8号)で、ある大型書店を訪問した。
地図・ガイドの当時の担当だったTさんは、飄々とした雰囲気の女性。案内書とゲラを持って提案したところ、「前号と同じ〇〇〇部で」とあっさり番線印を押して終了。不慣れな私の話がイマイチだったかなと反省しつつ、お礼を述べ、店を後にした。
同店へは、慣例として新刊を直納していた(大口であること、場所が弊社と目と鼻の先だったことなどが理由だと思う)。私はのぼろ8号を台車に乗せ、納品へ。ちょうどバックヤードで作業中だったTさんは、ダンボールを開けて表紙を見た瞬間に「あっ、これ売れる」とつぶやいた。小声だったが、確かに聞こえた。直後にTさんは「追加で〇〇〇冊、お願いします」と、さらっと追加の注文を出した。まだ棚に並べてもないのに。
後日、私は追加分を持って行った。売場を見ると、のぼろ8号は3~4面展開されていてテンションが上がった。Tさんに声を掛けると「すごく動いていますよ~」としたり顔。以降も補充をかけていただき、同店の売上数は伸長した。結果、前号より約1.7倍、前年号より約1.5倍となった。ちなみに、同号は他の書店でもよく売れ、私がこれまで携わった「季刊のぼろ」のなかで最高の売上数を記録した。※のぼろ8号は品切・重版未定。
同店でこのようなケースは、他の書籍でもあった。「ラーメン記者、九州をすする!」
は、担当のHさんがフロアをまたいだ展開で約1カ月の間、ジャンル別(実用)の売れ行き1位を維持した。日々、膨大な量の本に触れている書店員の眼力に舌を巻いた。
「書店員が売りたい、売ると決めた本は動く」というような話は、出版、書店業界関連の記事などで読んだことがあった。もちろん、これらの本が同店で売れた要因は、都市部の大型書店で集客力があり、豊富な在庫量が他店を圧倒していたことなど、複数考えられる。しかし、このような分析よりも、個人的に嬉しかったことは“私たちが手がけた本を売りたい、売る”という書店員の意志を感じられたことだ。“この本は売れる”と思ってもらえたことも喜ばしかった。他店でも同様のケースはあり、感謝しかない。むろん、好例ばかりではないのだが。
4月から私は営業に加え、書籍編集なども担う予定だ。著者とともに、一人でも多くの書店員に“売りたい、売る、売れる”と思わせる本を作りたい。そうなれば、多くの読者に本を届けてくれるのだから。