フリーランス・パブリッシャー
田園都市出版社を設立したのが2018年。設立といっても屋号を届け出ただけで、いまだ法人化もしていない。その年の秋に『鉄道旅行手帳』、それから2年後に『7日間世界一周』を公刊した。
ひとり版元というタイトルを返上するつもりはないが、出版活動、つまり本を出して、その売り上げで版元を運営するサイクルを回していきたいものである。とはいえ、なかなかそうならない。今もってフリーランス・パブリッシャーのままというのはいかがなものなのだろう。
フリーランス・パブリッシャー以外に、当方の活動にはひとり編プロというのがある。これまたフリーライターであってフリーエディター、取材して写真も撮って、でもひとり、なのであった。
フリーランサーの団体、いわゆるユニオンで、委員長というお役目が回ってきて、これが結構忙しめである。版元代表なら社長ではないのかと問われれば、フリーランス・パブリッシャーなのだから労働者なんである、と答えざるを得ない。委員長は専従でもなんでもないので、やればやるほど生業から遠ざかるのだが、お役目だと思って、やりすぎないようにやっている。社長のいない出版社の、ひとり労働者であった。
このユニオンでこの春、フリーランスの報酬を10パーセントアップしてください、というのを言ったら、フリーランスの春闘宣言というので反響があった。渋谷の放送局からTVカメラが来て取材して行ったら、行きつけの喫茶店でも飲み屋でも「見たよ」という人がいて、世間を狭めている。さすが、見られているんだなと思う。今世紀に入ってからでさえ、フリーランスの報酬は上がっていないどころか、引き下げられてすらいる。よく生きてきたものだと思う。1970年代後半、雑誌の先割編集方式の登場によって大量に生み出された出版フリーランスは、いわば出版産業の申し子であることを、私たちは伝えたい。
来年からはインボイス制度が実施されるというので、今更ながら実施の中止を求める陣も張っている。フリーランスの大半は売り上げ1千万円以下であり、免税事業者となることを消費税法第9条で定めているにもかかわらず、その特例を発注者との関係からなきものにしようとしているのである。課税事業者を選択しても、免税事業者のままでいても、フリーランスはさらに追い込まれようとしているのである。
実行委員会の事務局長を務めている第48回出版研究集会(2021年12月〜’22年1月)は、無事に終えることができた。全体会で三島邦弘さん(ミシマ社・カランタ)に「2020年代の出版を語ろう―これからの出版産業に起こること、起こすこと」を、また分科会では、「小規模出版社でも☆彡電子書籍を作れる・売れる」(株式会社eNEXT Japan・堀静さん)、「デジタル社会におけるプライバシー権―個人情報はなぜ守られるべきか」(中央大学総合政策学部・宮下紘さん)、「図書館における性的少数者への人権的配慮と情報サービス」(日本図書館協会図書館の自由委員会・西河内靖泰さん)、「デジタル教科書をめぐる状況」(北多摩東教育センター・科学教育研究協議会・中山和人さん)、「DX時代の出版と流通~出版大手、取次の流通改革、何が変わるか」(新文化通信社・丸島基和さん)を、主としてオンラインで語って頂いた。出版産業の課題と到達を明らかにするという一連の催しの役割は果たせたように思うのと、当方自身面白かったと思うが、みなさんは?(出版研究集会については、出版労連のサイトからの申込で時限的にアーカイブ視聴が可能なタイトルもあります〈https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScAV7Bxj8EYnewL80M2MLU3uPQZLB2Hw02SHG0cocMq6zWLJQ/viewform〉)
春には久しぶりに『食エネ自給のまちづくり』という、社会起業家の小山田大和さんがソーラーシェアリングについて著した新刊を送り出せるので、たいへんに嬉しい。この一文がなければ、本稿は版元日誌とはとても言えなかったな。次回、当欄の順番が回ってくる頃には、もう少し版元らしくなっていたいと思っている。本当です。