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「版元ドットコム九州」の立ち上げによせて

2006年に立ち上げた本のお祭り「ブックオカ 〜福岡を本の街に〜」が今年で16年目を迎えた。新型コロナのため今年もトークイベントなどは中止したが、福岡城址に会場を移して開催した恒例の青空古本市は天候にも恵まれ、どこから客が湧いてきたのかと不思議に思うほどの盛況ぶりで、過去最高の売上となった。人々が外出自粛やリモート生活に飽き飽きしたタイミングでの開催となったことも奏功したのだろうけれど、出店者と来場者が会話を交わしながら本というツールを介してつながっていく光景は見飽きることがない。


↑盛況だった今年の「のきなし古本市in福岡城」

ブックオカを始めてからの16年間でさまざまな出会いがあり、さらにその出会いの中から新たなイベントを企画してきたけれど、その一つが「版元ドットコム」のみなさんとの取り組みである。
それがこの度、「版元ドットコム」のブランチ的なサイト「版元ドットコム九州」の立ち上げに結実した。現在のところ、版元ドットコム加盟社のうち、九州にある19社の書誌情報を転載したホームページと、SNS(Instagram、Twitter、Facebook)での短いリレーコラムの2本柱。立ち上げにあたっては事務局のみなさんの物心両面での支援を受けた(あらためて深謝!)。

↑「版元ドットコム九州」のトップページ

きっかけは小社が版元ドットコムに加盟させていただいた翌年の2017年、事務局の糸日谷智さんから、「ブックオカの期間にあわせ、福岡で版元ドットコムの説明会(勉強会)ができないか」とのお申し出をいただいたことだった。糸日谷さんいわく、「東京の出版社はひんぱんに集まって情報交換をしているけれど、九州の出版社はそういう機会が少ない。事務局からその不利益分を還元させてもらいたいんです」とのこと。せっかくのご提案だったので、その年の秋、「版元ドットコムの使い方」と題して福岡の出版社を集めて勉強会を開いた。
半年後にはポット出版の沢辺均さんも来福され、再び勉強会。2度の勉強会を通じ、デジタルの書誌情報というものが近年、いよいよ重要性を増していること、そして九州ゆえの物流上の不利をみなが痛感したように思う。沢辺さんを招いた際は、終了後、風邪でガラガラ声の沢辺さんを囲み、箱崎のロックバーで延々と飲んだのだが、コロナ前だったこともあり隔世の感を禁じえない。
余談ついでの寄り道になるけれど、そもそも福岡の出版社は00年から09年まで『はかた版元新聞』なる合同のフリーペーパーを出していた。地方の小出版社の寄り合い所帯であっても、少なくとも営業面(読者や書店への情報発信)では共闘できる部分があるのではないか、まとめて発信することのメリットがあるのではないかというのが発想の根本だった。毎号、各社の楽屋話や新刊情報、地元書店の紹介コーナーなどを設け、書店店頭や図書館向けに約10,000部を配布していた。通算19号まで出たところで中断してしまったが、このときゆるやかなネットワークのようなものが生まれた。書店からは「地元出版社合同のフェアができないか」といったオファーも増えた。ペーパーの編集と事務は、当時私が在籍していた石風社が担当していた。発送作業は各社の営業担当者を中心に、夜な夜な石風社に集まり、毎回打ち上げになだれ込むのがお楽しみで、貴重な情報交換の場ともなっていた。冒頭に紹介したブックオカの活動もこの『はかた版元新聞』から派生したもので、地方都市の中でも出版社が多い福岡の街の熱量が、こうした活動を支えるベースになっているのだと思う。

↑福岡の出版社合同で刊行していた『はかた版元新聞』

話を戻すと、「版元ドットコム九州」の活動もこの『はかた版元新聞』と共通する部分があると思う。違いは、2度の勉強会で学んだように、以前と違ってデジタル情報の重要性や物流問題のシビアさが格段に増している点だろう。
さて昨年初め、事務局から九州の出版社向けに活動費を捻出してくれるというお申し出があった。やはり、普段の勉強会に参加できないわれわれへの配慮とのことだった。九州独自の勉強会や講演会など、「基本的に使途は自由」とおっしゃったが、私としてはこの際、一過性の催しではなく恒常的なインフラのようなものを作ってはどうかと考え、以前からひそかに温めていた共同サイトの企画を逆提案してみたところ、快諾を得たのだった。沢辺さんいわく、まだ他の地域ではこうした取り組みはなされていないようだった。
立ち上げにあたっては事務局と九州をZOOMでつなぎ、数回の打ち合わせを行なった。その際、こまめな更新が可能だという理由でSNSを使ったリレー連載の企画が出た。
リレーについては「コンテンツ(お題)」のようなものを設け、ハッシュタグ(#)をつけて週1でアップしていくことにした。
例えば〈#今週の釣果〉は木星舎の古野南斗くんが釣り好きだったことから命名したもので、各自が最近ゲットした収穫本を自由に紹介するもの。
〈#九州本この1行〉は自社や他社本の印象的なフレーズを紹介していく。
〈#編集者のフィールドワーク〉は自然科学を得意とする宮崎のヴィッセン出版が休日になると近隣の自然を経巡っているということだったので、各自が仕事がらみやプライベートで最近出かけたスポットを写真付きで綴る。
いずれも単なる自社本紹介ではなく、まだまだ知名度の低いわれわれと読者の距離を縮めるためにとっつきやすいテーマにしたつもりだ。デジタル(ホームページやSNS)の中にも「ミニコミ」、「口コミ」的なニッチさやアナログ的要素を忘れないようにしたいという思いもあった。
もちろん、各社の書評やフェア情報は随時、つぶやいてもらってOK。フォロワー数はまだまだだけど、小さな“つぶやき”をコツコツと継続していくうちに何かが見えてくるはずだ。
今後は共同の一覧注文書の作成・配布といった、より実利的な部分もつきつめていきたいし、いずれは加盟社以外の九州の書誌情報も拾えるようにしたい。複数社を横断するコラボ企画(営業・編集)のようなものが生まれてきてもいいだろう。こんな激動の時代だからこそ、思いつく限りのジタバタをしてみようと思う。

忘羊社の本の一覧

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