版元が本を「産直」する意味
昨年に引き続き、今年も“高円寺の大文化祭”こと高円寺フェスにおいて、「本の楽市」が開催されることになりました。
11月12日と13日の二日間にわたって、4つの会場で、本にまつわる催しが展開されます。
その中で、われわれ新刊版元は、座・高円寺での「本の産直市」に出展します。
日頃は、流通を通じて書店で販売してもらっている本を、版元が「産直」することに、どんな意味があるんでしょうか。
本は、みなさんご存じように、メーカーと流通が完全に別会社となっているため、最終的なユーザーとしてのお客さんと作り手が触れ合うことは、ほとんどありません。
一方で、お客さんとしても、書店が本をつくっているわけでないという了解があるため、本の出来について書店員に一言いってやろうという人は多くないでしょう(もちろん例外的なお客さんはいるでしょうけれど)。
そこで、多くの版元は読者カードを用意したり、ネット上での評判を気にして、各書店での売上げデータに一喜一憂している現状もあるわけです。
が、いかにも隔靴掻痒の感があるのは事実です。
わたしたちのような零細版元と少し似た業種に地酒があります。
特に日本酒、焼酎の地酒は全国に数百の蔵元があって、販売店は数万に達しますが、すべての販売店に行き渡るような量を醸している蔵元は皆無と言っていいかも知れません。品種が多く、少量生産である点や、ビールや大手酒造会社のお酒のようなヘビーユーザーが少ない点も似ています。
そんな地酒業界でも、蔵元見学の場を設けるなどして、日頃は触れ合うことのないユーザーと直接会える機会をつくっています。
そこで、作り手と買い手が直接顔を合わせる試みのひとつが、東京・高円寺での「本の産直市」なのです。
東京国際ブックフェアのように立派な会場ではありませんが、手作り感満載の空間で、いつもは本屋さんを介して販売されている本を、自らの手で読者に届ける。そして、読者の声に耳を傾ける。そんな「場」が、年に一度ぐらいあってもいいんじゃないかと、という思いで企画しています。
もちろん、本こそがメッセージであり、伝えたいことの「すべて」はそこにある、という主張もあるでしょう。
たとえそうであったとしても、人と人が出会えば、あらたなアイデアが生まれるかも知れないですし、それがベストセラーの種にならないとも限らないのですから。
ことしは、『「フクシマ」論』(青土社)を震災直後に刊行して話題になった新進社会学者の開沼博さんとフェミニズムの先駆者で、このたび東京大学を退官されてNPO法人ウィメンズアクションネットワークの理事長に就任された上野千鶴子さんによる対談『わたしたちは「共犯者」なのか? フクシマとトーヨーのあいだで』も開催されます。
顔をあわせて、声を伝えたい人も、声を聞きたい人も、ぜひお越しになってみてください。
『本の産直市』
●座・高円寺(杉並区高円寺北2-1-2) エントランス&阿波おどりホール
●11月12日11:00~18:30 13日11:00~17:00
●入場無料
●参加版元などの情報は→ お知らせ » 高円寺フェスオフィシャルイベント 本の楽市@高円寺フェス2011
『開沼博・上野千鶴子対談』
●座・高円寺 阿波おどりホール
●11月12日19:00開場 19:15開演
●参加費800円
●予約は→ kouenjidehonnorakuichi@gmail.com