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現代タイ動向2006-2008 日本タイ協会(編) - めこん
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現代タイ動向2006-2008 (ゲンダイタイドウコウニセンロクニセンハチ)

社会一般
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発行:めこん
A4判
420ページ
並製
定価 2,500円+税
ISBN
978-4-8396-0219-2   COPY
ISBN 13
9784839602192   COPY
ISBN 10h
4-8396-0219-0   COPY
ISBN 10
4839602190   COPY
出版者記号
8396   COPY
Cコード
C0030  
0:一般 0:単行本 30:社会科学総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2008年12月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

タイの情勢がめまぐるしく変化しています。圧倒的な人気で政権の座についたタックシン首相が軍のクーデタで失脚、と思ったら、総選挙ではそのタックシンを支持する党が勝って連立政権ができた、と思ったら、反タックシン運動が盛り上がって、ついに空港占拠、と思ったら・・・と、もう訳がわからない。タックシンっていったいどんな人なの? どうしてそんなに評価が割れるの? 王様はどう思っていらっしゃるの? これからいったいどうなっていくの……多くの日本人が呆然と状況を眺めているところに、タイミングよく登場したのが本書です。
この本は、タイ研究者、在タイ日本企業、ジャーナリストなどで構成されている財団法人「日本タイ協会」の機関誌『タイ情報』記載の論文と、変動の節目節目で開催された講演会の記録を編集したものです。いずれも、現場からのリアルタイムの報告であるというのが最大のポイントで、これにタイ研究の専門家が丁寧に分析を加えているので、「なぜこうなったのか」ということがとてもよく理解できます。
政治以外の、経済・社会・文化の分野におけるタイの変化についても興味深い観点からの分析が加えられており、さらに新憲法の全訳も収められています。タイがどうしてこうなったのか、今タイはどこへ向かおうとしているのか、ということをじっくり考える上で重要な示唆を得ることができるでしょう。

目次

【目次】
〔政治〕
表・タイの政治情勢をめぐる主な動き(2006年~2008年)
第1章  9.19クーデタ
  1.これからどうなるタイの政治・・・玉田芳史
  2.タイ政変とその余波、現場からの報告・・・長尾久嗣
  3.現地レポート:9.19クーデタ・・・村嶋英治
第2章  タイ政治とタックシン現象
  1.タイのクーデタ:経済発展と民主化の時差・・・赤木攻
  2.タックシン現象:ポピュリズム・・・赤木攻
  3.「9.19クーデタ」が示したタイ政治社会の問題点・・・赤木攻
  4.現地レポート:タックシン勢力の排除・・・村嶋英治
第3章  暫定憲法と新憲法の制定
  1.タイの憲法の特質・・・赤木攻
  2.新憲法草案の確定と今後の展望・・・柿崎一郎
  3.物暦2550年(西暦2007年)タイ王国憲法について・・・加藤和英
第4章  国民投票、総選挙、親タックシン政権
  1.現地レポート:国民投票後のタイ・・・柿崎一郎
  2.総選挙と連立政権成立・・・村嶋英治
  3.総選挙後のタイの政治社会:「王権」をめぐって・・・赤木攻
  4.第1次サマック内閣主要閣僚プロファイル・・・大野浩
  5.かかあ天下?ソムチャーイ政権・・・赤木攻

〔経済・社会・文化〕
第5章  豊かになったタイ
  1.タイ社会の変容・・・斎藤親載
  2.タイの経済政策と2006年9月のクーデタ・・・東茂樹
  3.バンコクの都市鉄道・・・柿崎一郎
  4.タイのエネルギー事情・・・福田升
第6章  変わったタイと変わらぬタイ
  1.タイの日本観は変わったか・・・村嶋英治
  2.タイで進む少子高齢化・・・大泉啓一郎
  3.タイにおけるロングステイ日本人・・・高橋由典
  4.新しいタイ史の提唱・・・赤木攻
  5.「タイの歴史」の諸問題・・・柿崎一郎

仏暦2549年タイ王国憲法(暫定版)・・・(訳)小野健一/(監修)赤木攻
仏暦2550年タイ王国憲法・・・(訳)加藤和英





前書きなど

まえがき 

                       赤木 攻(2008年12月7日) 
 
 2008年11月26日、私はチエンマイ大学で開催された日本研究センターの開所式に出席していたが、その日の夕方スワンナプーム空港が閉鎖され、バンコクへ飛べなくなったことを知らされた。それから日本への帰国まで、従来のタイ滞在では味わえなかったことと遭遇することになった。
事の始まりは、やはり、2006年9月のクーデタにあると言っていいだろう。あのクーデタで、国会で圧倒的優勢を占め権力を一身に集めていたタイラックタイ党(タイ愛国党)の党首タックシンが首相の座から引きずりおろされ、軍政が復活したのであった。というよりは、親タックシン派と反タックシン派という対立の構造がタイ政界に明白に出来上がったクーデタであった。以後この対立構造は崩壊せず、2008年も暮れようとしている。私は、この対立を非倫理性(親タックシン派)と非合法性(反タックシン派)の衝突と捉えている。
非倫理性と呼ぶのは、タックシン派の汚職を基本とした蓄財とそのカネによる政治支配である。タックシンが地方や貧困層を対象にして実施した政策は、確かに画期的であり、それなりの評価はできるが、その多くは自らに利益をもたらすためであった。たとえば、地方の貧困家庭子弟の留学プログラムは、将来の地方リーダーの育成を目的としたものと評価されたが、実際に選ばれたのはタックシン派につながる者の子弟で、選挙対策の一環であったと言われている。つまり、国のカネで選挙活動を行なったに等しい。30バーツ医療をはじめ、国民の間に人気を得た諸政策のほとんどはそうした文脈で解釈できるであろう。こうした政治現象は「ポピュリズム・ビジネス」とでも呼べるもので、単なるポピュリズムを超えていると言わねばなるまい。加えて、タックシン個人のカネに対する執着はすさまじく、彼自身が株の売買で大きな利益を上げたのは有名であるし、国家汚職防止法および刑法の違反に問われたタックシンにまつわる数々の係争事件(土地の不正購入、株の取引における脱税、ミャンマーへの不正融資など一連の汚職事件)は、すべてがカネのためであった。こうして出来上がった「タックシン資金」が選挙運動、有力議員確保、政党運営、官界・政界工作など、政治的利権獲得に利用された。タックシンを頭目とする政治勢力は、「タックシン体制」と呼ばれるまでに急成長していったのである。
他方、反タックシン派を特徴付けているのは、非合法性である。タックシン派の急成長――タックシン体制の構築――に危機感を抱いたのは、伝統的支配層であろう。支配構造の一角が崩れる恐れを感じた彼らは、とりあえず、非合法手段の最たるものであるクーデタを使用した。そして、クーデタで成立した軍政(スラユット政権)は、タイラックタイ党の解党、タックシンを含む幹部111人の政治活動資格の停止、小選挙区制から中選挙区制に移す新憲法の制定など、タックシン体制の力を殺ぐことに力を注いだ。しかし彼らは、結局、莫大なタックシン資金とその勢力および人気の根を絶つことはできなかった。
タックシンは外国にその身を置きながら、「金権主義」に基づく遠隔操作により、サマック政権およびソムチャーイ政権と2つの傀儡政権の成立させた。両政権は、タックシンの政界復帰を実現すべく、憲法の改正に全力を傾けた。一方、クーデタは起こしたものの、タックシン体制を打ち壊すことのできなかった反タックシン派は、「民主主義のための市民同盟(PAD)」を組織し、公共施設の占拠という非合法手段に訴えた。そして、汚職とカネにまみれたタックシン=サマック政権に対する市民の不満が、首相府を占拠するという非合法手段に当初、「暗黙の了解」を与えたのは間違いない。とりわけ都市を中心とした市民の間の反タックシン感情は強く、非暴力主義を前面に押し出してサマック政権を糾弾するこの運動は一定の理解を獲得した。
しかし、そこには、チャムローンをはじめとするPAD指導者の確信犯的戦略があった。彼らは、軍警には強制排除に乗り出す意志がないという確信を持っていた。警察にはこれほどの大規模集会の排除は未経験であり、もし実力行使に踏み切れば流血は避けられず、その責任を問われることは間違いない。軍もまた、1992年の五月事件での出動に懲りており、積極的に動こうとはしないだろう。このように、政府が強制排除に踏み切る可能性が低いことを見越しての占拠作戦であった。占拠は10月25日にはスワンナプーム空港およびドーンムアン空港へと拡大したが、彼らもちろん、すべての行為が違法であることは承知の上であった。
さらに言えば、軍警の出動を誘導し、市民と国家権力の衝突を演出するという別シナリオも用意していたのであろう。市民に多くの死傷者が出ても、最終的には政府および軍警の責任が問われ、PADが勝利し、うまくいけば政治権力を手に入れることが可能になるというシナリオである。PADの戦略が識者の間で不評であるのは、やはりこの「違法性」による。いかなる理由があれ、法治国家の原則を踏みにじるその行為は許しがたいものであり、民主化運動を名乗る集団として認めるわけにはいかないのである。
12月2日、パラン・プラチャーチョン党(国民の力党)を含む与党3党の解党判決が憲法裁判所により下され(*)、ソムチャーイ傀儡政権が崩壊したため、同盟によるスワンナプーム国際空港の占拠も終結に向かい、表面上対立構造は緩和されたかに見える。しかし、対立は解消したわけではなく、より深まったと見るのが適当であろう。
野党の責任も大きい。民主党は、国会等での活動を通して徹底的に政府批判をすべきであったし、国会の外にあっても党主導で国民的な反政府運動を繰り広げるのが本筋であった。ところが、自ら汗を流すことはなかった。当初、PADの運動を側面的に支持していたのは当然だろうが、運動が拡大し非合法的行為に走るのも傍観してしまった。
どうやらタイ政治は、「正当性」を失ってしまったようである。選挙という民主的仕組みから生まれことで、民主政府を看板にしたタックシン=サマック政治が、選挙そのものを含めていかにカネにまみれていたことか。そして、倫理性を欠いたそのタックシン=サマック政治を打倒した軍事クーデタおよびPADによる運動もまた、いかに非合法性をはらんだものであったことか。非倫理性と非合法性が支配するタイ政治は、正当性を失い、今や足踏みをするばかりである。
非倫理性と非合法性がまかり通るのを防ぐ第一義的責任は、司法にある。とすれば、先の憲法裁判所によるサマックの首相資格不適合判決や与党への解党命令などのように、司法の「活躍」が目立っているのは、同裁判所の司法官が反タックシン派で占められているという批判はあるが、しばらくは、仕方がないのかもしれない。行政府と立法府がともに溶解状態にある以上、この膠着状態を脱するために少しでもコマを動かせるのは、当面司法府以外にないのかもしれない。
2006年から2008年にかけてタイで生じた非倫理性と非合法性の対立と、それが引き起こした無政府状況は、タイ現代史上初めてのことである。それは、軍部を含めた官界や政界内部に発したこれまでの政治対立とは異なり、PADと親タックシン派の実働部隊である「反独裁民主戦線」(UDD)との衝突が示しているように、国民の間の対立である。つまり、少し長期的視野に立てば、タックシンというきわめて異質な個性が引き起こしたタイ社会の大きな変動の兆しを看取できる。それは、1970年代の混乱を経て1980年代に出来上がった政治的かつ経済的な秩序の変動のさざ波である。
例年、誕生日(12月5日)の前日に行なわれてきた国王の国民への「お言葉」の席に、今年は国王自身の姿が見えず、皇太子とシリントーン王女殿下が代理を務めた。タイ国民は「お言葉」のない年を初めて経験することになった。健康上の理由とはいえ、危機状況の中で、国王の意見を期待した国民も多かったはずである。しかし、この時期における発言は、国王(王室)にとっても容易ではなかったのだろう、とタイの友人は語っていた。こうしたクーデタ以降の王室の「沈黙」もよく考えねばなるまい。
2009年以降のタイがどのように展開していくか、予想はきわめて困難であるが、政治的不安定は免れないであろう。経済に大きな影響を与えるほどの深刻さをともなうとしたら、変動のスピードは加速するかもしれない。いずれにしても、今後のタイの動向は、アジア諸国の政治社会発展の1つの流れとして注目しておく必要がある。

*ソムチャーイ政権崩壊の原因となった「解党」については、日本の政治制度等とはなじまないので、日本人には理解しにくいかもしれないが、選挙違反の連座制と捉えることができる。巻末に収められている現行2007年憲法の第237条および第68条を参照されたい。

版元から一言

タイはどうなっているのか、これからどうなっていくのか。この本を読めばわかります。

著者プロフィール

赤木 攻  (アカギ オサム)  (

東京外国語大学特任教授・大阪外国語大学名誉教授

柿崎一郎  (カキザキ イチロウ)  (

横浜市立大学国際総合科学部准教授

加藤和英  (カトウ カズヒデ)  (

九州国際大学国際関係学部国際関係学科教授

村嶋英治  (ムラシマ エイジ)  (

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

玉田芳史  (タマダ ヨシフミ)  (

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授

長尾久嗣  (ナガオ ヒサツグ)  (

日本経済新聞社編集局国際部

大泉啓一郎  (オオイズミ ケイイチロウ)  (

日本総合研究所調査部環太平洋戦略研究センター主任研究員 

東 茂樹  (ヒガシ )  (

西南学院大学経済学部国際経済学科教授

小野健一  (オノ ケンイチ)  (

タイコムランゲージセンター

斉藤親載  (サイトウ )  (

株式会社荒井製作所監査役・元タイ矢崎コーポレーション社長 

高橋由典  (タカハシ ヨシノリ)  (

成友商事株式会社代表取締役社長 

福田 升  (フクダ ミノル)  (

三井石油開発株式会社バンコク事務所長 

吉田千之輔  (ヨシダ センノスケ)  (

財団法人日本タイ協会理事長

大野 浩  (オオノ ヒロシ)  (

財団法人日本タイ協会常任理事・事務局長

上記内容は本書刊行時のものです。