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時枝学説の継承と三浦理論の展開
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2004年12月
- 書店発売日
- 2004年12月20日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
主体性という観点から独自の言語学を創始した時枝誠記,それをさらに飛躍的に展開させた三浦つとむ。彼らの言語学を,日本語の内在的考察だけでなく英仏語との比較検討,詞辞・品詞・時制などの文法,差別語・差別表現や自然言語処理など様々な角度から探求。
目次
まえがき(佐良木 昌)
第1部 認識と表現の探求
主体的言語学の意義――言語表現の二重性の発見(小川文昭)
第一章 言語過程説/第二章 言語と言語学/第三章 主体的立場と観察的立場/第四章 詞と辞の統一
国語と英語の文の構造――対峙認識とその表現(上田博和)
第一章 対峙認識――絵画と言語の連関的把握/第二章 対峙認識の表現――国語と英語の文の構造
第2部 品詞論の探求
無活用動詞論――漢語外来語の属性概念表現(上田博和)
序/第一章 〈形容詞〉的な内容の漢語外来語/第二章 〈動詞〉的な内容の漢語外来語/第三章 三浦静詞論の動詞への適用
関係詞論――〈代名詞〉論の批判的検討(鈴木 覺)
序論/第一章 関係詞の本質――〈代名詞〉(pronom)とは何か/第二章 人称関係詞――〈人称代名詞〉の再検討/第三章 遠近関係詞――〈指示代名詞〉の再検討/第四章 不定称関係詞――〈疑問詞〉の再検討/第五章 〈不定代名詞〉と〈不定形容詞〉の再検討/若干の補遺と結び
第3部 時称論の探求
フランス語時称体系試論(鈴木 覺)
まえがき/はじめに/第一章 言語表現の成立条件/第二章 時称とは何か/第三章 現在形/第四章 複合過去形、近接過去形、近接未来形/第五章 単純過去形と半過去形/第六章 単純未来形、条件法現在形、接続法現在形、接続法半過去形/むすび
英語の現在時制解明への新視点(矢吹眞康)
第一章 現在時制表現を貫く論理性/第二章 表現過程と追認過程の構造性/第三章 現在時制表現の全用法の解明
第4部 社会言語学、自然言語処理への展開
差別語・差別表現の本質(川島正平)
はじめに/第一章 差別語問題について/第二章 差別語とは何か/第三章 「差別語」と差別表現/第四章 言語本質論の立場から/第五章 「概念の二重化」論/第六章 言語の本質としての社会的性格/第七章 佐藤裕氏の差別論/第八章 「差別語」と「蔑視語」/第九章 「差別語」と「敬語」の連関について/第十章 メディアの言語と大衆の言語の乖離/第十一章 量質転化と「言い換え」問題/第十二章 「表現の自由」について
自然言語処理と言語過程説(池原 悟)
まえがき/第一章 自然言語処理の方法と言語過程説/第二章 人工言語と自然言語/第三章 言語による概念の表現と機械翻訳/あとがき
初出一覧
編著者紹介
前書きなど
まえがき 佐良木 昌一 本書は言語学および自然言語処理の分野において学的探求を続けている研究者による論文集である。今回第一巻である本書を刊行すると共に続巻を予定している。各巻各論考の執筆者はそれぞれ独自に学的研鑽を積み重ねているが、時枝誠記が提唱した言語過程説を批判的に継承し発展させるという立場を同じくしている。観念弁証法の転倒と同様に言語過程説を唯物論的に改作し認識と言語の科学的理論を確立する、あるいは精神現象学および純粋現象学への唯物論的批判を通じて言語と意識とを物質の現象学として把握する、あるいは感性的労働の論理を基礎として、言語活動者の主体的活動において言語表現を捉える、あるいはまた自然言語処理などの技術論・技術学の領域において言語過程説を展開するといった、それぞれの視点で執筆された諸論考が、本巻および続巻に収録される。二 本書第一巻には八論文を収めた。認識と表現、品詞論、時称論、関連領域への展開の四部に分け、それぞれ二論文で構成した。 第1部「認識と表現の探求」に収めた小川論文では、言語過程説における詞と辞との二大区分について、普遍性と個別性という言語表現が有する論理的二重性の観点から踏み込んで考察している。その論理的考察の結果として、表現主体の態度・気分・感情を直接的に表す辞(終助詞に相当)と、認識の対象自体の客体的諸関係についての表現主体の認定を直接的に表す辞(格助詞に相当)との区別と連関が明らかにされている。 同部に収録の上田論文では、現在および過去の事象についての対象認識とその表現形を、対峙文と非対峙文とに区分して考察している。前者では表現主体が現実に存在する対象と相対してこれをそのままに認識して表現し、後者では観念世界において対象と向き合いこれを表現することが明らかにされている。 第2部「品詞論の探求」に収めた上田論文では、静的属性を表す静詞には活用のあるもの(形容詞)と活用のないもの(いわゆる形容動詞の語幹)とを含むが、この区別の論理を動詞概念に適用して、活用のない動詞(漢語サ変動詞の漢語部分など)と活用のある動詞(和語動詞)という区分を提案している。この下位区分により和語動詞の特質を明らかにする方法的視座が据えられている。 同部に収録の鈴木論文では、表現主体と対象との間の関係認識を表す関係詞という文法範疇、およびその下位範疇(人称関係詞、遠近関係詞、不定称関係詞)という文法体系を提案している。本論考は、代名詞は語の代わりをするものという俗流論を根底的に批判して従来の代名詞体系に終止符を打つものである。 第3部「時称論の探求」に収められた鈴木論文では、表現主体と表現対象との時間的関係の認識を表現したものとして時称の本質を明らかにしている。同時に、「表現対象相互間の時間関係」と、「表現主体と表現対象との間での時間的関係」とを区別するという時称表現分析の基本視座を据え置いている。この明晰な基本視座から、時称表現の過程的構造が本質論レベルで解き明かされると共に、個別言語分析に適用してフランス語の時称表現総体が体系的に把握されている。 同部に収録の矢吹論文では、固定像・静止像・運動像という認識深化の一般運動過程を措くと同時に、英語文化においては、運動過程全体を網羅的に表す「運動環像」および運動の特別相が運動途上にあるさまを表す「運動途上像」を措く。これらの認識論=表現論的根拠から、1動詞の原形とは運動環像を直接表現する語形であり、2現在時制表現とは、表現主体が把持している客体的認識と自己の認識内容は正しいという自己確定である主体的認識とが統一的に表現されたものであること、これらが明らかにされている。約言すれば、英語の現在時制表現に、認識深化の運動面から光をあてた論考である。 第4部「社会言語学、自然言語処理への展開」に収められた川島論文では、差別語と差別表現との区別と連関とを言語本質論レベルで考察している。差別語とは、不当な軽蔑、不当な嘲笑の内容をはじめから意義として持っている語であり、差別や蔑視の意識が言語規範に結びつけられているがゆえに差別語の使用自体が差別意識の再生産である旨が明らかにされている。本論文に、言語本質論を踏まえた社会言語学的分析の実践性を読者は見ることができるだろう。 同部に収録の池原論文では、チョムスキー句構造規則に基づく分解的・合成的な手法を採った機械翻訳研究とは一線を画しながら、自然言語処理という工学分野において言語過程説を応用展開した経験を科学方法論的に総括している。一九九〇年代の研究成果として『日本語語彙大系』(全五巻、一九九七年)という表現意味辞書を編纂したこと、および二一世紀劈頭からは機械翻訳の新方式の研究に取り組んでいることが報告されると共に、意味類型論に基づく非線形科学的な言語処理方法が理論的に考察されている。この考察では、さらに概念および単一概念・複合概念と表現との問題にも精密に言及がなされている。(後略)
上記内容は本書刊行時のものです。