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南洋のソングライン
幻の屋久島古謡を追って
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2022年11月20日
- 登録日
- 2020年10月19日
- 最終更新日
- 2022年11月8日
書評掲載情報
2022-12-17 | 日本経済新聞 朝刊 |
2022-12-17 | 朝日新聞 朝刊 |
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紹介
かつて屋久島で歌われていた「まつばんだ」は、琉球音階が取り入れられた民謡です。ただ、屋久島は沖縄や奄美からはるか北方にあり、琉球文化圏ではありません。なぜ屋久島に琉球の名残があるのか、ごくわずかな例を除いて本格的な調査が行われてきませんでした。それならば、と我々が3年がかりでフィールドワークを敢行。そこから見えてきたのは、沖縄~鹿児島~南西諸島に暮らす海洋民たちの生活史でした。同時に、この民謡を復活させようとする島民たちの活動も追っています。本書は、そんな旅や歴史民俗の要素を含んだノンフィクション書籍になります。
推薦コメント
消えゆくものは 消えてゆく
その理由は 誰ひとりとして
それを思い出さなかったから…
たったひとりでもいい
「それを決して忘れたくない」
と切望する人がいれば
“それ”は未来へと運ばれてゆくのだ
宮沢和史(シンガーソングライター)
降りすぎる雨の中 険しすぎる山道を
幻の古謡の放つ香りに手まねきされて
奥へ奥へと
自然の強さにかき消されそうになりながら
それでも確かに聴こえてくる
おばあからおばあへ受け継がれた
歌の鎖を辿って山頂へ
その道は海を渡り どこまで続いているのだろう
コムアイ(アーティスト)
ページをめくるたびに 次々と歌の新たな航跡が現れ
最後には見たことのない
新しい地図が自分の頭に浮かびあがってくる
島を旅するための手がかりに満ち満ちた
気持ちの良い本でした
石川直樹(写真家)
目次
●序章 異郷の記憶が刻み込まれた歌
屋久島への旅立ち/琉球音階の歌が屋久島に?/コロナ禍でのスタート
●第1章 歌であって、歌以上のなにか――真冬の屋久島へ
自然遺産登録以降の変容/ひと月に35日雨が降る島/先住民と移住者たち/〝まつばんだ〟の再生/詣所での不思議な体験/幻の〝まつばんだ〟音源を聴く
●第2章 歌に残るマージナルマンたちの痕跡
〝まつばんだ〟のルーツは与那国島にあった?/〝まつばんだ〟誕生に関する2つの説/政治的境界を越えるマージナルマン(境界人)/与那国島の與那覇有羽に聞く/〝まつばんだ〟を追う江草啓太さん・ゆうこさん夫妻/喜界島の〝まつばんちゃ〟/「シャーマンみたいなおばさん」のお告げ
●第3章 蘇生する「まつばんだ」――2021年2月
約1年ぶりに屋久島の地に降り立つ/山尾三省が生きた山間の集落/屋久島人としてのアイデンティティー/ひとりの音楽教師の挑戦/「やっぱり根っこがほしいんじゃないですか」/今日という日へのメッセージソング/祝い唄としての〝まつばんだ〟
●第4章 海の暮らし――屋久島の海民たち
与論島の漁師たちが持ち込んだもの/「ヨーロン、ヨーロン」と呼ばれて/屋久島南部にやってきた琉球の漁民たち/トビウオで海が埋め尽くされた時代/琉球人がもたらしたジュクジン網
●第5章 山から伸びる「歌の道」
不思議体験の宝庫/病床に山姫が現れた!/首里城には屋久杉が使われている?/法華宗と修験道の影響/〝まつばんだ〟から広がるソングライン
●第6章 明治生まれの歌い手たちの記憶
泊伝三郎が語る父、伝市/もうひとりの安房のスター、若松シマ/日高十七郎元町長が語るかつての安房集落/酒匂シゲの子孫に会う/ようやく浮かび上がった三姉妹の姿/歴史学者・鎌田道隆に聞く屋久島と琉球の繋がり/北と南のマージナルマンたちが出会う場所/神様も仏様も流れ着く島
●第7章 3度目の屋久島――2021年5月
山の世界に足を踏み入れる/魚のいない川/神々の遊園地、花之江河へ/安房のエンターテイナーたち/3姉妹のルーツがついに判明/命を祝福する歌
●最終章 島から島へ
指宿・松原田集落にまつわる謎/屋久島の北方に浮かぶ黒島に〝まつばんだ〟が?
●あとがき
前書きなど
歌の本質はいったいどこにあるのか。この本の取材を進めるなかで、常にそう自問自答していたような気がしている。
僕はここで〝まつばんだ〟を伝え、歌った人々の個人史を綴ろうとしていたのだと思う。郷土史にさえ載っていないような小さな物語を拾い集めること。しかも島の外部に生きる人間として、そうした物語を繋ぎ合わせ、そこから浮かび上がってくるものに目を凝らすこと。
ただし、本書の軸をなしているのは、あくまでも「彼らの物語」であって、「僕の物語」ではない。この本は屋久島に住む人々の物語に部外者である僕が触れた結果でもある。
屋久島の物語は必ずしも島民だけが繋いできたわけではない。琉球や山川、与論島からやってきた海民たちや薩摩藩の役人たち。あるいは屋久島に導かれてやってきた移住者たち。彼らが紡いできたものも物語の一部を形成している。屋久島の個人史は実に多様で、島の内部と外部を巡る関係もまた決して単純なものではない。だからこそ、〝まつばんだ〟のように多層的な歌が育まれてきたのだ。(大石始/あとがきより)
上記内容は本書刊行時のものです。