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化学兵器 多田 将(著) - 明幸堂
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化学兵器 (カガクヘイキ)

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発行:明幸堂
四六判
縦188mm 横128mm 厚さ28mm
重さ 422g
472ページ
並製
価格 3,500円+税
ISBN
978-4-9910348-5-5   COPY
ISBN 13
9784991034855   COPY
ISBN 10h
4-9910348-5-X   COPY
ISBN 10
499103485X   COPY
出版者記号
9910348   COPY
Cコード
C0040  
0:一般 0:単行本 40:自然科学総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2024年7月12日
書店発売日
登録日
2024年4月23日
最終更新日
2024年9月17日
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紹介

大量殺戮兵器を生み出した、暗黒の化学史

「核兵器」「生物兵器」と並ぶ、20世紀が生んだ大量殺戮兵器「化学兵器」。その威力は核兵器には劣るものの、作成に大掛かりな設備が必要なく、その種類も致死性から非致死性までと豊富なことから、「手軽な」殺戮兵器として、戦争・テロ・暗殺・暴徒鎮圧など、近現代史のあらゆる場面で使用されてきた。各種化学剤の製造法、性質、作用機序、対処法に始まり、使用法、同定法、開発史、実戦使用例、規制に至る、あらゆる面を網羅した、化学兵器のすべてがわかる本

兵器に盛り込まれた高度な技術を紐解くシリーズ「兵器の科学」第2弾

本書の内容:

第1章 基礎知識
化学兵器の概説と、化学に関する基本的な知識のおさらい。

第2章 窒息剤
もっとも単純な化学剤である塩素に始まり、肺を損傷させ窒息に至らしめる化学剤についての解説。以下、第8章までは、それぞれの化学剤について、化学式、製造法、性質、作用機序、対処法を、系統的に解説する。

第3章 糜爛剤
「化学兵器の王者」と言われるイペリットを中心に、皮膚を爛れさせる化学剤についての解説。

第4章 神経剤
化学剤でもっとも致死性の高い、神経回路を直撃する神経剤についての解説。サリンやVXだけでなく、ノヴィチョクについても採り上げる。

第5章 血液剤
「青酸」として一般人にはもっとも有名な、しかし実際には意外と役に立たない血液剤についての解説。

第6章 嘔吐剤
気道を刺激して嘔吐を促す非致死性の嘔吐剤についての解説。

第7章 催涙剤
現代でも暴動鎮圧に使われる、眼を刺激する催涙剤についての解説。

第8章 無力化剤
一時的な生理学的または精神的効果、あるいはその両方を生み出す無力化剤についての解説。

第9章 特殊な化学兵器
枯葉剤、焼夷剤、発煙剤といった、特殊な化学剤についての解説。

第10章 使用方法
化学剤の投射方法について考える。新宿に化学剤が散布された場合のシミュレイションも掲載。

第11章 同定方法
どのような化学剤が使用されたのかを分析する方法について解説する。

第12章 各国での開発
これまでに化学兵器を開発した13か国について、それぞれの開発史を紐解く。

第13章 実戦使用例
化学兵器が使われた7つの戦争や、各国での化学テロ・暗殺について、実際に効果的であったのかなどを科学的に分析する。

第14章 制限条約と現状、評価
これまで人類はどのようにして化学兵器に枷を嵌めようとしてきたのか、その歴史と、現在世界のほとんどの国が加盟する化学兵器禁止条約の内容、実施方法、そして化学兵器の評価について考える。

目次

目 次

『兵器の科学』シリーズ刊行にあたりまして 3
はじめに 15

第1章 基礎知識 19
化学兵器とは 20  化学剤の一覧 21  各化学剤の特徴 24  原子と周期表 28  化学結合と化学式 34 有機化合物 38  気体と分子量 45  化学反応 48  

第2章 窒息剤 53
化学式 54  製造法 54  性質 58  作用機序 64  対処法 66

第3章 糜爛剤 71
化学式 72  製造法 74  性質 78  作用機序 81  対処法 83

第4章 神経剤 85
化学式 86  製造法 90  性質 95  作用機序 98  対処法 101

第5章 血液剤 109
化学式 110  製造法 112  性質 113  作用機序 116  対処法 117

第6章 嘔吐剤 123
化学式 124  製造法 126  性質 130  作用機序 132  対処法 134

第7章 催涙剤 137
化学式 138  製造法 141  性質 149  作用機序 151  対処法 153

第8章 無力化剤 155
化学式 156  製造法 158  性質 163  作用機序 165  対処法 166

第9章 特殊な化学剤 169
枯葉剤 170  焼夷剤 173  発煙剤 177 

第10章 使用方法 181
密室での使用 182  揮発度 183  気体の拡散 185  エアロゾル 192  散布に際して留意すべきこと 196 ボンベからの放出 197  手榴弾 199  投射器・迫撃砲 201  砲弾 202  多連装ロケット 206  弾道弾 209 航空機からの散布 213  爆弾 215  塹壕戦と機動戦の違い 220  近代戦における化学兵器の使用 221  組み合わせた使用方法 222  バイナリー兵器 223

第11章 同定方法 227
ガスクロマトグラフィー 228  質量分析器 231  イオン易動度分光測定式探知器 234  赤外線分光法 235 簡易測定キット 237  化学偵察車輌 238 

第12章 各国での開発 241
化学兵器開発の要件 242  ドイツ 243  ソヴィエト連邦/ロシア連邦 254  アメリカ合衆国 264  連合王国 274  中華人民共和国 284  イタリア王国 286  フランス共和国 291  日本 297 朝鮮民主主義人民共和国 310  エジプト・アラブ共和国 314  イラク共和国 319  シリア・アラブ共和国 325 イラン・イスラム共和国 329 

第13章 実戦使用例 333 世界大戦 335  第二次エティオピア戦争 348  霧社事件 353  日中戦争 354  第二次世界大戦 363 ガス室 367  イエメン内戦 369  ヴェトナム戦争 373  イラン・イラク戦争 377  ハラブジャ虐殺 387 シリア内戦 390  イスラム国 395  オウム真理教サリンテロ 399  オウム真理教VXテロ 402 金正男暗殺事件 404  スクリパール父娘暗殺未遂事件 408  ドゥブロフカ劇場テロ 412

第14章 制限条約と現状、評価 413
陸戦の法規並びに慣例に関する協定 414  窒息性ガス、毒性ガスまたはこれらに類するガスおよび細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書 415  化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約 417  物質管理 422  廃棄 425 化学兵器の評価 429

推薦図書 433
おわりに 437
附録 i

前書きなど

核兵器(Nuclear weapon)、生物兵器(Biological weapon)、化学兵器(Chemical weapon)の三つは、頭文字をとってNBC兵器と呼ばれるとともに、一般に、大量破壊兵器(weapons of mass destruction)に分類されます。これらが通常兵器とは一線を画す恐ろしさをもっていることに異論はないのですが、僕個人的には、「destruction」に「破壊」の訳語を充てることに違和感があります。というのは、核兵器は物理的な破壊を伴い、人だけでなく建物や設備や兵器も壊してしまいますが、生物兵器と化学兵器はそうではなく、物理的な破壊を伴わずに、「人間だけ」を選択的に攻撃するからです。ですから、「destruction」を「殺戮」と訳し、「大量殺戮兵器」とするほうが適切です。
 しかし、注意していただきたいのは、「物理的な破壊を伴わないから(他の兵器に比べて)危険ではない」などとはまったく言えない、ということです。使い方次第で、人体にとっては、より深刻な被害をもたらす兵器です。むしろ、建物や設備はそのまま残して「人間だけ」を消し去るところに、根源的な嫌悪感を生じさせる兵器とさえ言えます。
 生物兵器や化学兵器が核兵器と異なる点は、ほかにもあります。もっとも重要なのは、製造の敷居の低さです。もちろん、生物兵器も化学兵器も「家庭でつくれる」といったものではまったくありませんが、生物兵器は細菌を扱う医療研究機関で、化学兵器は化学製品製造工場で、それぞれ製造可能であり、そのどちらも、生物化学兵器には無縁な普通の国に存在する施設です。核兵器のようにほかではあまり使われないような特殊で巨大な専用の産業が必要というわけではありません。たとえば本文でお話しするように、日本では一宗教団体が化学兵器を製造して実戦使用したことがありますが、彼らに核兵器の製造は不可能です。
 そしてこの例が示すように、一国の軍隊でなくともテロリスト集団が容易に扱えるという点が、我々にとってより大きな脅威となりうる、ということです。リスクは、「起こった場合の損害」に「起こる確率」をかけたもので評価しますが、核兵器に関しては、前者がとてつもなく巨大であるいっぽう、後者が、そもそも歴史上たった二度しか実戦使用されていないうえに、冷戦後はまずありえないほど低い確率となり、結果、リスクとしては低いものとなっています。しかし、生物化学兵器は、前者が核兵器に比べ小さいいっぽうで、後者に関しては、テロリストでも扱えるために、リスクはとても高くなっています。
 生物化学兵器を、核兵器ではなく、銃器などの通常兵器と比べてみるとどうでしょうか。さきほどの「起こる確率」が極めて高いことから考えて、実のところ、銃器ほど人の命を奪ってきた兵器は、ほかには存在しません。それでは銃器に比べ生物化学兵器は恐るるに足らない兵器ではないかというと、まったくそのようなことはありません。このリスク評価以上に、さきほどお話しした「根源的な嫌悪感」を最大限に利用して、心理的効果を狙うことができるからです。つまり、実際に「起こる確率」が低くても、それ以上に、人々をパニックに陥れることができる兵器、それが生物化学兵器なのです。そのため、恐怖で人を支配するテロリズムには、うってつけと言えましょう。
 では、それに立ち向かう我々はどのようにしたらよいのでしょうか。
 テロリズムに対する最高の対抗手段は、「恐れないこと」です。テロリズムが恐怖を利用して人を支配しようとするのに対して、こちらが恐怖しなければ、その威力も大きく削がれるからです。そのうえで実務的に有効な対応策を用意しておくのです。そのどちらのためにも、相手が攻撃してくるその手段に対して、正しく知っておくことが必要です。「どのような攻撃かわからない」ことほど、恐ろしいことはないからです。本書は、まさにその知識を得る「きっかけ」となればとの想いから書きました。本書で興味を持たれた方々が、さらなる理解を求めて、より詳しい書籍を読まれることを願っております。

 本書は、そんな生物化学兵器のうち、化学兵器にしぼって取り上げています。読者のみなさんが本書を評価していただけたとしたら、生物兵器のほうも本シリーズで取り上げたいと思っております。
 また、本シリーズの前巻である『弾道弾』では、開発や運用の歴史などにはほとんど触れず、その原理やメカニズムなどの技術的な解説をその中心に据えましたが、本書では、テーマに鑑み、開発史や実戦使用例についても詳しく記述することとしました。そのため、前巻とはずいぶん異なった印象を受けられるかも知れません。本シリーズは、このように、テーマに合わせて、どちらに重きを置くかを、各巻ごとに調整していきたいと思います。
 化学兵器に関する書籍は世にたくさんあるのですが、どれも、化学的性質、使用方法、開発史、使用例などを、ごちゃ混ぜにして書いているものが多く、僕はそれがいつも不満でした。そこで本書では、それらをちゃんと分けて系統的に解説する構成としました。ですので、前半は『兵器の科学』シリーズらしく「教科書」的なつくりに、後半は趣向を変えて「読み物」的なつくりになっています。読者のみなさんには、興味のある章から、お好きな順でお読みいただければ、と思います。そうしてお読みになられていって、あとで読んだ部分がさきに読んだ部分とつながり、「そういうことだったのか!」と膝を打つことになれば、著者として最大の喜びであります。

著者プロフィール

多田 将  (タダ ショウ)  (

京都大学理学研究科博士課程修了、理学博士。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 准教授。著書に、『核兵器』『兵器の科学1 弾道弾』『放射線について考えよう。』(以上、明幸堂)、『核兵器入門』(星海社)、『ソヴィエト連邦の超兵器 戦略兵器編』(ホビージャパン)、『ソヴィエト超兵器のテクノロジー 戦車・装甲車編』『ソヴィエト超兵器のテクノロジー 航空機・防空兵器編』(以上、イカロス出版)、『すごい実験』『すごい宇宙講義』(以上、イースト・プレス並びに中央公論新社)、『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ』(以上、イースト・プレス)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。