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出版者情報
ランニング登山
もうひとつの山登りの刺激的世界
- 初版年月日
- 2018年8月
- 書店発売日
- 2018年8月1日
- 登録日
- 2018年6月2日
- 最終更新日
- 2020年10月19日
紹介
1986年に発行された『ランニング登山』(下嶋溪著・山と溪谷社)。この本を「バイブル」と呼ぶスカイランナーの松本大氏(日本スカイランニング協会代表)の「はじめに」と「コラム」を加筆し、復刊。
以前に比べ、装備や補給食、シューズは格段に進歩したけれど、実は、山登りの記録はかわっていない。山ガール、トレイルランブームで山は身近になったけれど、悲しい事故は後を絶たない。
そもそも、30年以上も前に、山を走るとはどういう行為だったのか? 何を考えて走っていたのか? 山はどういう世界だったのか? 大学教員だった著者が個性的かつユーモラスな文章で書いた、独自のランニング・登山観が読む者を惹きつけ、スカイランナー松本大氏のコラム「快速登山」は今のトレイルランブームに警鐘を鳴らす。
今こそ振り返るランニング登山の世界――アウトドアを楽しむすべての人に読んでほしい名著。
目次
はじめに――『ランニング登山』との出会い――(松本 大)
山登りに定義はない(下嶋 渓) 7
第 1 章 快速登山事始め
1 何故快速登山か
競争の原理 終点のない行為
2 快速登山の起源と現状
修行を目的とした早駆け 明治以後の山岳レース 加藤文太郎の山 最近の早 駆け事情
3 山を走る動機
気が付いたら走っていた 初めての山岳レース――富士登山競走
4 山を走る目的
平地レースのスピード追求 フォーム改善,走機能の向上 平地の長距離レー ス用の持久力向上に 登山レース用のトレーニングとして より高度な登山の ための体力づくり 山の迅速な踏破を目指す
御荷鉾スーパー林道日帰りランニング/浅間山ランニング登山
第2章 ランニング登山への招待
1 趣味としての登山とランニング
2 登山者への提言
競争が苦手な登山者 ベテラン登山者に対して ピークハンターに対して
3 ランナーへの提言
闘争本能にすぐれるランナー 二足の草鞋の効用 山向きランナーと平地向き ランナー
4 ランニングフィールドとしての山
ぬかるみ,雪渓 ガレ場,砂利道 岩場,岩稜 藪 悪天候 林道 急登――日 本の急登ランキング
表日光連峰日帰り縦走/南奥多摩全山日帰り縦走
Column 快速登山 スカイランナーの誕生(松本 大)
第3章 山を走る技術
1 山を走るフォーム
目的によりフォームは変わる 経済走法の勧め 下りも飛ばす
2 所要時間(疲労)に影響をおよぼす要因
水平距離と実走行距離 累積標高差 その他の要因
経済速度と臨界速度 長距離走の世界最高記録 一般ランナーの長距離走のス ピード
4 山道の歩行と走行のスピード
コースタイムの信頼度 コースタイムの短縮率一実例 地形と走りやすさの関 係
5 所要時間の予想
タイムの短縮率によるおおまかな予想 数式による詳細な予想 休憩のとり方
六甲全山縦走タイムトライアル/丹沢全山日帰り縦走
第4章 医学的・生理学的な面から見た山岳走
1 最大酸素摂取量
瞬間最高速度と最高巡航速度 最大酸素摂取量を測る 山岳走における最大酸 素摂取量の価値
2 睡眠
睡眠はとりたいが...... 睡魔との闘い
3 高山病
医学上の分類と症状 高山病の体験
4 呼吸器疾患とランニング
アレルギー性疾患 喘息との付き合い
5 年齢
加齢に伴う体力低下 山岳レース出場者の年齢分布
八ガ岳全山夜行日帰り縦走(南下コース)/八ガ岳全山夜行日帰り縦走(北上コ ース)
Column 快速登山 垂直志向と水平志向の境目(松本 大)
第5章 シューズ・装備・食料
1 ランニングシューズ 
ランニング中に路面から受ける力 作用力の力学的な解釈 故障防止上の問題点
2 山岳ランニング用のシューズ
エネルギー消費面から 安全面から
3 服装と装備 
晴天時の服装 雨天時の服装 寒冷時の服装 装備(懐中電燈,地図等)
4 食料,酒,タバコ
食料の考え方 食料計画の実際 食料と消費エネルギー 酒の効用 タバコと ランニング
奥秩父全山1泊2日縦走/奥秩父全山夜行日帰り縦走
第6章 ランニング登山雑学
1 山の気象
2 暦――日照時間
3 熊と雷
4 アクシデントの原因とその対応 125 故障 怪我 不思議な傷・鎌いたち 安全ランニングの心構え
南アルプス白峰三山夜行日帰り縦走/北アルプス後立山連峰夜行日帰り縦走
Column 快速登山 無補給登山のすすめ(松本 大) 
ランニング登山 Q & A
あとがき
前書きなど
山登りに定義はない
「あなたの趣味は?」と問われて, 「山登りです」あるいは「ランニン グです」と答えているうちは相手の 反応も穏やかだが,それらをまとめ て「山を走ることです」と答えると 様子はかなり変わり,「山って走るものなのですか?」と変人,奇人扱 いされ,話の途切れるのが落ちである。実際に山に入っても似たような もので,低山ならいざ知らず 3000m 級の山をランニング姿で走れば周囲 から「速くていいな」とうらやましがられているのか「この気違いが, 神聖な山をなんと心得るか」と憤慨されているのか定かではないが,注視されることだけは確かである。本書は,このような “市民権を得てい ない趣味の話” をしようとするわけで,内容が独善的かつ偏向的になる ことは避けられない。
「登ること」と「走ること」は歴史的に見れば別の道を歩んできてお り,同じ足を使う行為でありながら いまだに両者は融合しないものという固定観念が強い。確かに運動生理 学的に見れば両者の使用する筋肉は 微妙に異なるが,この観念の源はもっぱら精神面にあるような気がする。さる高名な登山家が,数学のパラドックスになぞらえて「登山とは 定義のない行為である」と定義している。これは人力で登りさえすれば 目的,手段,形式は問わないと解釈出来るが,さらに突き進めれば山を “登る” 必要すらないのかも知れな い。最近,巷に流行している岩登り ゲレンデのハードフリーや河原のボウルダ一リングは登山と呼べるのかといった議論があるが,それに比べ れば走って登る方はまだ罪が軽い。ヒマラヤの初登頂を競っているわけでもないのだから,実施している本人が “登山” を意識するか否かはそれほど重要なことではなく,まして 他人がそれを登山と認めるかどうかはまったく問題にならない。正直いって山岳レースはもちろん個人的な ランニング登山でも,登山の気持ちとランニングの気持ちは半々ぐらいだと思う。
本書では「ランニング登山」「快 速登山」「山岳ランニング」「山岳 走」「早駆け」等の用語が入り乱れ て出てくるが,これはこのような著者のあいまいな自覚によるところが 大きく,基本的には同じものを指していると思っていただきたい。
上記内容は本書刊行時のものです。