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コモンズ思考をマッピングする:ポスト資本主義的ガバナンス
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2022年8月6日
- 登録日
- 2025年1月20日
- 最終更新日
- 2025年1月20日
書評掲載情報
2022-08-27 |
毎日新聞
評者: 伊藤亜紗 |
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紹介
▼日本のコモンズ論に欠けた部分を埋める
近年、日本でも、環境危機を打開する社会改革の要として、コモンズという言葉への関心が高まっています。しかし、先進的なコモンズ的活動についての具体的な理解が欠けているために、漠然とした期待に止まっていました。
本書では、こうした欠落部分を埋めるために、世界各地のコモンズ的活動のたくさんの事例を紹介するとともに、それらの相互関連を解読し、出現しつつあるボトム・アップ的な社会改革の具体的なモデルを読みとりました。
▼すぐれたコモンズ的活動の紹介と解読
国内の議論で見落とされがちなのは、E.オストロムなどコモンズ研究者とD.ボリアーたちコモンズ活動家・ジャーナリストが協力しあって、世界中の各分野の先端的なコモンズ的活動を横断的にネットワーク化していることです。本書では、各分野の先端的な事例のうち重要なものについて資料を読み込み、できるだけ具体的に紹介しました。
そして、事例の相互関連の解読を通じて、1990年代以降の情報化・デジタル化と環境危機による歴史的転換のもとで起きている、「新たなエンクロージャー」と「コモンズの復権」の間のヘゲモニー争いを明らかにしました。
例えば、
アグリビジネス・バイオテック企業vs 小農の食料主権+アグロエコロジー
プラットフォーム資本主義(GAFA) vs プラットフォーム・コープ
といった対抗関係です。
▼ポスト資本主義的ガバナンスへ
力強いコモンズ的活動のうち、ラテン・アメリカを中心にした連帯経済と欧米を中心にしたフリーソフト・オープンソフト運動といった2つの代表的な動きの連携が欠けていました。しかし、2008年リーマン・ショック以降、両方の流れが合流して、末端からのボトムアップ的な社会改革のモデルが生まれつつあります。
本書では、こうした動態を具体的に描き、「ポスト資本主義的ガバナンス」の萌芽を読みとっています。
例えば、スペインのCIC(カタルーニャ・インテグラル共同組合)は、世界各地のローカルな循環型経済圏どうしを、FairCoin(ブロックチェーン技術を使う)によって、国家をバイパスして結びつけるグローバルな循環型経済圏の構想を具体化しつつあります。
▼デヴィッド・グレーバーの遺作の詳しい紹介
デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ヴェングロー『The Dawn of Everything ---- New History of Humanity(あらゆることの夜明け---人間性の新たな歴史)』の英語版が昨年、出版されました。この本は、『負債論』や『ブルシット・ジョブ』で話題になっているグレーバーの遺作です。
近年の考古学的研究の蓄積を踏まえて定説の「農業革命論(新石器革命論)」を批判し、人類史の夜明けの時代についての「歴史の新しい語り方」を提示した画期的な大作です。環境危機を打開するボトム・アップ的な社会改革の構想に、多くのヒントを与えてくれるという意味でも、とても重要な書です。
「コモンズ思考」についての私たちの探究と補完的な関係にあり、また、まだ日本語での紹介がほとんどされていないようなので、本書の補論として、 『The Dawn of Everything』の詳しい紹介を加えました。
上記内容は本書刊行時のものです。