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英雄たちの涙
目醒めよ、ウイグル
原書: Iz(足跡)
- 初版年月日
- 2009年8月
- 書店発売日
- 2009年7月25日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2010年11月11日
紹介
本書は1986年ウルムチで出版された『Iz(足跡)』を底本とした、ウイグル文学の初めての邦訳である。著者のアブドゥレヒム・オトキュル氏はウイグル文学史に燦然と輝く人物で、『Iz(足跡)』はウイグル人720万人のなか、5万4000部が発行される。しかし歴史の真実を凝視する彼の小説は中国当局により発禁処分に遭ってしまう。中国最後の帝政が滅ぶ20世紀初頭、ウイグル人のティムル・カリフは、同じウイグル人の王家による圧政に苦しむ民衆を救うべく、同志とともに立ち上がる。王家は鎮圧に動くが、そこには中国人たちの思惑もうずまいていた。本書は「中国の火薬庫・新疆ウイグル」が独立を求め続ける、その原点を描いた壮大な歴史小説である。
目次
足跡 …8
尊敬する読者へ …10
第一章 山の妖精 …16
第二章 アイクズの過去 …28
第三章 青灰色の馬に乗った男 …36
第四章 力は戦場で試せ …54
第五章 予期せぬ出来事 …66
第六章 汝も証人となれ、太陽よ! …78
第七章 シャーマフストの夢 …89
第八章 ウルムチ将軍は血を要求する …99
第九章 蜂起の前夜 …109
第十章 十の災いに一つの薬 …119
第十一章 己の罪は己に …127
第十二章 戦いの前に …133
第十三章 勇気を戦場で試せ …149
第十四章 王城の一夜 …163
第十五章 こんな鍋にはあんな杓 …171
第十六章 火焔山への贈物 …183
第十七章 陰謀 …191
第十八章 三人の勇気 …201
第十九章 幽霊 …211
第二十章 語るお守り …218
第二十一章 アクチュクの平原にて …227
第二十二章 戦いの後 …242
第二十三章 聖者の死 …249
第二十四章 二つの結婚式 …259
第二十五章 楊将軍の知恵 …285
第二十六章 悲劇の始まり …294
第二十七章 罠 …304
第二十八章 悲劇の終わり …334
終章 …354
『足跡』の翻訳にあたって …374
註釈 …383
人物一覧 …392
前書きなど
幾度目かの戦いのときには、成長したあなた自身が砂嵐のように空を飛ぶ駿馬にまたがり、勇者たちとともに戦場で剣を振り上げていたのかもしれぬ。あなたは刈り取られた切り株の残る大地を突き進み、伝説の竜の如く口から火を吹く砲台の前に立ちはだかり、傷を負い、一瞬痛みを感じただけで熟睡するがごとく倒れてしまったのかもしれぬ。そして今、戦いで負った傷跡を見ては戦場での日々を思い出し、一人微笑んでいるのかもしれぬ……。だが、戦場で冗談を言ってあなたを笑わせていた友が、次の瞬間には命を落とし、タマリスクの下で眠りについたとき、あなたの目からは大粒の涙がこぼれ落ちたかもしれぬし、暗い牢獄に投げ込まれた友を思い出すたびに、あなたの心は締めつけられたような痛みを感じているのかもしれぬ。ああ、切り落とされた頭、流れる血、あふれる涙……。
そう、もちろんこれはすべて過去のこと、歴史上の出来事である。光の世界を作るためになされたことである。当時、世界は真っ暗な闇であった。
……ティムル・カリフは天山に革命の嵐を吹かせた人物である。彼はウイグル人の中から誕生した、素晴らしき、勇敢な「砂嵐の鳥」であった。彼が飛び立つやクムルの地に砂嵐が巻き起こり、各民族の人々が力を得た。そして彼らは、二百数十年の間、民衆にとって魔の洞窟であったクムル王家の王城と、黒光りする門に象徴されるウルムチ将軍府に地震のごとき衝撃を与え、それらの寿命を縮めたのである。
歴史上に現れた多くの農民蜂起と同様、この武装蜂起もその目的を達成することはできなかったが、王城と将軍府が絶対のものではなく、消滅する可能性を持っていることを広く人々に知らせ、彼らに力と希望を与え、苦い経験をも与えた。それゆえにティムル・カリフは、七十数年にわたりクムルの人々に語り継がれてきたのである。
本書は、そのティムル・カリフに捧げられるものである。(“尊敬する読者へ”より)
版元から一言
◎ここがポイント
・ウイグル文学初の邦訳作品
・中国では発禁処分となった、ウイグル近代史の出来事を描いた歴史小説
・ウイグルが独立を求め続ける原点となった歴史事象を描く
◎こんな人にお薦め
・ウイグルとその歴史に興味がある人
・イスラム教とその文化に興味がある人
・「中国少数民族」の問題に興味がある人
・歴史小説が好きな人
上記内容は本書刊行時のものです。