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アルトゥロ・ウイの興隆
原書: Der Aufstieg des Arturo Ui
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年11月1日
- 書店発売日
- 2016年11月1日
- 登録日
- 2023年11月8日
- 最終更新日
- 2023年11月8日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2020-03-01 |
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紹介
市川明によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ第4巻。
偶数頁にドイツ語原文を底本に即した形式で掲載し、奇数頁に日本語新訳を同様の形で掲載することで韻文劇の醍醐味である韻文のリズムと発話のリズムを再現した。
作品鑑賞のみならず、日独語比較研究を試みる読者・研究者の便をも図る意欲作であり画期的な一書である。
目次
アルトゥロ・ウイの興隆
註釈
解題
前書きなど
ブレヒトはこのギャング歴史劇に二重の異化を施している。ヒトラーの世界をギャングの世界へ移し替えること、そしてギャングにブランクヴァースという「高尚な様式」で話させ、演じさせることである。
(…)
第一の異化について言えば、こうした移し替えにブレヒトは苦慮している。観客が登場人物のすべてに、誰がモデルかという詮索をし始めると、作品はナチスの話を象徴化したものにとどまってしまうからだ。確かに、作品では登場人物名が実在の人物に当てはめられる。ギャングはすべてイタリア人名であり、ウイはヒトラー、ジーリはゲーリング、ジボラはゲッベルス、ローマはレームといったふうに。国家権力や産業界の代表は英語風の名前を持っており、ドグズバローやダルフィートはドイツ語との対応から、ヒンデンブルク、ドルフスといった実名を割り出せる。各場の終わりに、世界恐慌から一九三八年のオーストリア併合までのドイツ史における現実の出来事が記され、スクリーンに映し出される。
(…)
第二の異化は、全編をブランクヴァースで書くことで得られる。ブランクヴァースはシェイクスピアやエリザベス朝演劇で多く用いられ、のちにドイツでもレッシングやゲーテが愛用した詩形である。無韻五詩脚のヤンブス(弱強格)でできており、一行に弱強の組み合わせが五組(または五組+弱格)ある。
(…)
「政治の演劇化」というヒトラーの陶酔的な演出に、ワーグナーやベートーヴェンの音楽が利用されたことは疑いもない。思想家ベンヤミンの言葉を借りれば、ブレヒトはこれに対して「演劇の政治化」で応えようとした。ヒトラーの演説に狂信的なエールを送る人たちを見ていると、ブレヒトが打ち立てた「感情同化vs異化」という図式の意図するものが透視される。ブレヒトは自己の演劇論を次のように展開する。
人間のもっとも偉大な性質は批評・批判である。ある人間の中に余すところなく感情を同化する者は、その人物に対する批評も、自分自身に対する批評も放棄する者だ。醒めている代わりに夢の中を浮遊している者だ。何かをする代わりに何かをさせられている者だ。したがってファシズムが提供するような演劇的催しは、人間の社会的共同生活のさまざまな問題を処理する鍵を観客に与えるようとする劇場のためのよい実例にはなりえない。
(市川明「解題」より)
上記内容は本書刊行時のものです。