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学費値上げに反対します
学生たちの生活と主権
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2026年3月18日
- 書店発売日
- 2026年3月20日
- 登録日
- 2026年1月28日
- 最終更新日
- 2026年3月26日
紹介
なぜ私たちは立ち上がるのか
今、次々に学費値上げが強行されている。だが、これで終わりではない。学べることが当たり前の社会を築くため、私たちにできることとは――「声を上げざるを得ない構造」に抗い、未来を諦めまいとする学生たちの希望の営み。
目次
序章―学費問題とは何か 佐藤雄哉
Ⅰ 私たちの権利と学費値上げ
第1章 私「たち」のために学ぶのだから―高等教育の権利保障と学費問題に抗う哲学 田中秀憲
第2章 学費値上げ後の一橋大学の実相 小島雅史
第3章 大学と資本主義の問題―東京大学での学費値上げ反対運動の焦点 渡辺一樹
コラム① 教員との連帯と学費問題の立場性 田中秀憲・金澤 伶
Ⅱ 国立・私立の大学・大学院における学費問題
第4章 国立大学の学費と広島大学における学生運動の可能性 原田佳歩
第5章 地方国立大学で「私」が立ち上がったということ―熊本大学という現場から 関 立雄
第6章 学費問題と私立大学の社会的位置学費値上げに反対する 中大生の会
第7章 人権としての教育、人権を守る教育―ある小規模私大の例 数田雪晴
第8章 研究、運動という抵抗の営み―闘争で大学院生が踊り続けること 唐井 梓
コラム② 大学における「選択と集中」という問題 岩下 知・伊吹信太朗
Ⅲ 学費問題をめぐる諸課題
第9章 大学に入学するまでの学費問題と不平等 五十嵐悠真
第10章 留年、休学に潜む壁―教育から構造的に排除される学生たち 高柳摩季
第11章 中退が脳裏をよぎる学生生活 宮田士暖
第12章 授業料等減免・奨学金における申請主義の問題 羽野陽太
第13章 修学支援新制度の罠 黒木俊彦
第14章 留学生を狙った学費値上げと構造的差別―武蔵野美術大学の現状から 松野有莉・R
コラム③ キャンパスを再び自由の砦に 八十島士希
Ⅳ 私たちができる行動と、その可能性
第15章 学生抜きに、学生のことを決めるな!―学生が主権者として国会へ立つ意義 金澤 伶
第16章 集団での行動の意味 檜田相一
第17章 二〇二〇年代前半の日本国の学術政策とその大学での受容―大学執行部の「適応」と反対派学生の「緩和」 佐野元昭―昭代
第18章 学費値上げ反対運動が高等教育の無償化を展望する意義 佐藤雄哉
終章―なぜ私たちは立ち上がるのか 金澤 伶
あとがき 佐藤雄哉
前書きなど
序章―学費問題とは何か
「今どのように高等教育を整備するかということが、今この議論の対象なわけですけども、国立、公立、私立大学の協調と競争を促す学納金体系の確立ということで、〔中略〕国立大学の学納金を一五〇万円/年程度に設定してもらいたいということです。」
これは、二〇二四年三月二七日、中央教育審議会・高等教育の在り方に関する特別部会での伊藤公平臨時委員(慶應義塾長)の発言です。その趣旨は、国立大学の学費を約一〇〇万円値上げして大学間の「公平な競争環境」を整えたいということでした。学費をめぐる不公平を随所で体験していた私は、翌月の報道でこれを知り、率直にいえば怒りと悲しみを感じました。
そして同年五月一五日の朝、伊藤氏の「真意」として「給付型の奨学金を充実させ、だれもが安心して大学に進学できるようにした上で、払える人には払ってもらうべき」という主張が報じられました。しかし本当にそうならば、まず先に給付型奨学金の拡充を提言するべきです。国の審議会委員が、国による運営費交付金の削減をまるで天災のように扱い、それに備えよと大学に対して提言するなどありえないです。この日の夜、東京大学が授業料の約一〇万円引き上げを検討していると報道され、翌日東大は事実関係を認めました。
報道を受けて東大の学生たちは、SNSを通じて学費値上げ反対運動を起こすためにつながっていきました。そして東大の学費値上げが全国へ波及することに危機感を抱いた各地の学生たちは、それぞれに立ち上がり、今日に至るまでネットワークを構築しつつあります。
こうして近年展開された学費値上げ反対運動は、学費(授業料、入学料、寄宿料、施設設備費など、学籍の登録・維持にかかる費用の総体)によって高等教育や学生生活への権利が侵害されている現実を、学生たち自身が掘り起こし、二〇一〇年代末から相次ぐ学費値上げの阻止・撤回をめざすものでした。しかし、よく見てみるとこの運動には、高等教育の無償化を展望し、ひいては根本的に高等教育・日本社会のあり方を問う運動へと発展する萌芽を見出すこともできます。そこで本書では、高等教育機関が学費を徴収すること、あるいは学修の条件となる生活費などの費用を学生や「保護者」が工面することで生じる諸問題のことを学費問題と呼ぶこととします。
私が運動のなかで実感したのは国や大学が学生を「お客さん」とみなしていることです。本来学生は、国や大学という共同体を構成する主体であるのに、学生の意見はほとんど無視されました。同様の構造は、既存の高等教育論にもありました。関連する本を手に取ると、参考文献には研究者の名前がずらりと並び、まるで学生の意見など参考に値しないかのようです。
しかし私たち学生には、誰にも簒奪できない主権があるはずです。例えば「そんな話は聞いていない!」という抵抗は、主権の行使の一形態といえるでしょう。たとえそれが日常生活のなかの素朴な問題に対する小さな抵抗であったとしても、自らの主権を行使するという意味で大きな価値があります。学費値上げ反対運動でも、多様な抵抗が実践されてきました。
以上を踏まえて本書では、なぜ学生である「私」が学費値上げ反対運動に立ち上がるのか、何をめざしてどんな行動をしたのか、「私たち」が今後学費問題といかに向き合っていくべきだと考えるのかを、学生の生活現実に即して明らかにすることで、日本社会(国や高等教育機関を含む)における学生の主権をめぐる問題を浮かび上がらせることをめざします。ただし本書は、高等教育について論じるにもかかわらず執筆者のほぼ全員が大学生・院生だという限界を抱えています。しかし、それでも本書の刊行が従来の高等教育政策および高等教育論を、学生の生活現実と主権の観点から再検討するひとつの契機となり得ると信じています。
以下第Ⅰ部は、学費問題の、いわば総論です。高等教育とはそもそも何か(第1章)、二〇一〇年代末の一橋大学での学費値上げが何をもたらしたのか(第2章)、二〇二四年の東京大学での学費値上げ反対運動では学費問題がいかに焦点化されたのか(第3章)が検討されます。
第Ⅱ部では国立大学(第4章)、地方国立大学(第5章)、大規模私立大学(第6章)、小規模私立大学(第7章)、大学院(第8章)という機関別の学費問題の実相に注目します。
第Ⅲ部では、学費問題における諸課題をテーマごとに扱います。具体的には、入学までにかかる学費(第9章)、留年・休学(第10章)、中退(第11章)、授業料等減免・奨学金(第12章)、高等教育の修学支援新制度(第13章)、留学生の学費(第14章)についてです。
第Ⅳ部では学生が行動することの意義と今後めざし得る目標を検討しています。具体的には学生による国会での政治参加(第15章)、社会運動への参画(第16章)、学費問題への学生と大学との向き合い方の差異(第17章)、高等教育の無償化(第18章)についてです。
また各部のあいだには、学費問題を考えるうえで重要なテーマをコラムとして扱いました。具体的には、教員との連帯(コラム①)、大学における「選択と集中」(コラム②)、キャンパス内での学生の表現の自由(コラム③)についてです。
本書を編むにあたって筆を執るべき学生が他にも数多くいましたが、本書を安価に購入できるよう紙幅の都合で掲載が難しかったこと、ご容赦ください。本書が多くの学生、教職員、市民、教育政策・行政関係者、研究者に読まれ、学費問題の解決に寄与することを願っています。
二〇二六年二月一七日
佐藤雄哉
上記内容は本書刊行時のものです。

