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地獄の反逆者 松村喬子遊廓関係作品集
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2024年7月25日
- 書店発売日
- 2024年8月5日
- 登録日
- 2024年6月26日
- 最終更新日
- 2024年7月9日
紹介
名古屋中村遊廓から逃走、無産婦人活動家となった松村喬子が残した、遊廓脱出群像劇。
「私も、つい、この頃おもいついたのだけれど、実際、こうして働いていても、いくら一生懸命になっても、少しも借金が減らないで残ったものはかるたさんや、羽衣さんのように、病気位しかない、それはどうしてだろうかと云う事をハッキリみとめた事があるのよ(中略)
そして、おしまいに、悪い病気で死んで了しまうか、目がつぶれてしかたなく帰すというのですもの散々儲けておいて、そのあげく死体になってからか片輪で使い道がなくなって帰される時でも、親の方に少しでも、何かが取れる見込があれば、月々くずしで借金を入れさせたり、差押えをやったりすると云うのではありませんか、皆な考えましょう、少しは強くなって下さい」(「地獄の反逆者」本文より)
想像絶する戦前の遊廓における収奪の有り様と、そこに生きる女性たちの活き活きとした言葉と思いが、当事者によって描かれる「地獄の反逆者」。
また、作品からは公娼制度の廃止という世論が高まる1926年の遊廓を「内側」から描いた貴重な証言でもある。
戦前の娼妓自身が自らの生活について綴った文章は極めて限られている。
現在公刊され確認できる森光子の著作群(『吉原花魁日記―光明に芽ぐむ日』、『春駒日記―吉原花魁の日々』)につづく稀有な作品が、読みやすい形で、2万字に及ぶ詳細な伝記的解説を添えて初公刊。
目次
地獄の反逆者 =人生記録=
脱出―前出「地獄の反逆者」綴目をなすもの―
続地獄の反逆者
盲目鳥よ どこへ行く
解説 五枚の肖像写真から―「地獄の反逆者」 (解説者)山家悠平
前書きなど
「私も、つい、この頃おもいついたのだけれど、実際、こうして働いていても、いくら一生懸命になっても、少しも借金が減らないで残ったものはかるたさんや、羽衣さんのように、病気位しかない、それはどうしてだろうかと云う事をハッキリみとめた事があるのよ(中略)
そして、おしまいに、悪い病気で死んで了しまうか、目がつぶれてしかたなく帰すというのですもの散々儲けておいて、そのあげく死体になってからか片輪で使い道がなくなって帰される時でも、親の方に少しでも、何かが取れる見込があれば、月々くずしで借金を入れさせたり、差押えをやったりすると云うのではありませんか、皆な考えましょう、少しは強くなって下さい」
名古屋中村遊廓から逃走、無産婦人活動家となった松村喬子が残した、遊廓脱出群像劇。
想像絶する戦前の遊廓における収奪の有り様と、そこに生きる女性たちの活き活きとした言葉と思いが、当事者によって描かれる「地獄の反逆者」。
また、作品からは公娼制度の廃止という世論が高まる1926年の遊廓を「内側」から描いた貴重な証言でもある。
戦前の娼妓自身が自らの生活について綴った文章は極めて限られている。
現在公刊され確認できる森光子の著作群(『吉原花魁日記―光明に芽ぐむ日』、『春駒日記―吉原花魁の日々』)につづく稀有な作品が、読みやすい形で、2万字に及ぶ詳細な伝記的解説を添えて初公刊。
版元から一言
本企画は、立命館大学大学院出身の若手研究者によって設立された小さな学会「Antitled友の会」の第1回大会に参加したことからスタートしました。
2022年9月9日に開催された本大会では、「3つの位相で読み解く近代遊廓像――自由廃業・都市計画・『春駒日記』」というタイトルで、パネル報告がありました。
以前から交友のあった山家さんのご発表はじめ、いずれもとても興味深く、近代遊廓が問うテーマを何か取り組んでみたいなと感じた矢先、盛りあがる懇親会のなかで、山家さんから松村喬子のことをお話いただき、企画がスタートとなりました。
『女人芸術』に連載されたこの小説は、色んな意味で鮮烈な印象を残しました。
借金漬けという絶望的な制度にとらわれ生きること。はじまって10頁ほどの第1話から、その実相を感じていただけると思います。
色々な地方やバックグラウンドをもつ娼妓達が、いまでは聞けないような方言を含む言葉遣いで、活き活きと描かれていることが魅力だと思います。
作者の姿が重なる、『婦人公論』を読んで、遊廓の在り方に疑問をもった主人公「歌子」。
病気がちで主人から嫌われ、楼全体からのけ者にされている、京言葉の「かるた」。
主人であっても平気で口答えをし、金をもつ客からは搾り取る、「バルチザン」の異名をもつ「小波」。
まさに現代のホストクラブにのめりこむように、役者に金を貢ぎ、極道の男と近くなり、あげく博打で大負け、九州の炭鉱町から台湾まで渡り歩いて、「地獄もここは三丁目」名古屋栄楼にたどりついた「新高」。
長春で芸者をしている時代に子供ができ、産褥の身で仕事をしたことで卵巣を手術し、その手術費用を返済するために遊廓に来ざるをえなかった、甘え癖のある「羽衣」。
他にも、作品の隅々には、40歳を過ぎても娼妓をつづけさせられる「若浦」、杖をたよりに、夜遅く帰る按摩の描写や、意地悪な中間搾取者の仲居の言葉など、昭和初期の遊郭の息遣いが、様々人物を通して箇所で伝わってきます。
他に、下記3点も収録しています。
・「脱出―前出「地獄の反逆者」綴目をなすもの―」は、クライマックスの脱出劇を描いたもの。
・「続地獄の反逆者」は、「府立難波病院」に入院した日々を描いたものです。そこには下記のような一文が。
「夜も昼もない難波新地の享楽の巷で酒とお茶屋と男より外にない日夜に自分の体か人の体だかさえ解らない程麻痺した神経も、この病院へ入って色々の事を見せつけられては、今迄人事として考えてきた事が空おそろしくなった。」(本文より)
遊廓の世界にいたひとが恐怖感を記している「性病病院」について。こちらも他では触れることのできない、貴重な証言かと思います。)
・「盲目鳥よ どこへ行く」は、大阪時代の体験をベースにしたもの。当時の農村の現状や淋病の実際が感じられます。
一歩も外を出られない「地獄の栄楼」から、彼女たちは無事脱出できたのか、つづきはぜひ本書にてご覧ください。
上記内容は本書刊行時のものです。