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ひとしずくの物語に、世界は漂う/ナラティヴ・イン・デザイン、すさみ町での実践
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2026年1月31日
- 書店発売日
- 2026年2月14日
- 登録日
- 2026年1月11日
- 最終更新日
- 2026年3月2日
紹介
日に日に世界が広くなるデザインという沃野。その広がりに灯る、ナラティヴという小さな光。それは社会の捉え方でもあり、物事の考え方でもあり、問題への取り組み方でもあります。その軸に流れるのは、コモンセンスのような最大公約数が重んじられる世の中からこぼれていきがちな多様かつ小さな声を、丹念に、丁寧に、掬い上げようとするアティチュード。語りや物語と表されることもありますが、帯に短し襷に長し。では、何だろう?というところから探究が始まります。でも「人は、一人ひとり違うんだ」という根源的な事実に向き合いながら、人間という生き物の豊かさを実直に捉えようとする姿勢であるということは確かで、デザインと人類学が近づいている昨今、とても面白いのです。
第1章「ひとしずくの物語」では、識者4人が各々の知見でナラティヴ観をつまびらかにします。解釈によって姿が変わるナラティヴが何者であるのか、各々の光で照らしていきます。ただナラティヴについて語るだけでなく、この本では和歌山県すさみ町という人口3,000人台、ほぼ本州最南端の小さな町を舞台にして語り合っていきます。一つひとつ違う固有の声に耳を傾ける場として、そんな声について共に考えや試みを重ねる場として、実際に幾度となく筆者たちが訪れた町。人が少ないからこそ建前や虚栄の必要もなく、海・山・川と自然豊かな風土が育んだ一人ひとり違う声が気さくに本音で語られる、ナラティヴを探索するのに楽しい土地です。第2章「すさみの物語」では、そんな楽しさに共鳴するメンバーが町を訪ねて実践した色とりどりの探求を言葉へと昇華させ形にしています。前章の4人はデザインや人類学をフィールドとする探究者としてある意味近しいですが、当章にはバックグラウンドが多彩に異なる、価値観も視点も違った20人を超えるさまざまな個性が、言葉をともしびに集まっています。みな解釈も実践も違うからこそ、その軌跡は読み通していくほどに多彩な光で象られ、ナラティヴというものの実像がありありと浮かび上がってきます。第3章「世界は漂う」は、この本の物語がどのように生まれ、そしてどう世界は漂うことになるのだろう、という問いに答えるべく、4人の識者による対話が語られます。読み終えた時には、きっとこんな想いと出会うことでしょう。世界は単純でも一様でもなく、瑠璃色のようにさまざまな輝きに満ちた美しさを持っているからこそ、その一つひとつの輝きを大切に受け止め、素直な眼差しで見つめることが大事なのだ、と。
目次
はじめに
第一章 ひとしずくの物語
句読点を打つ、/石井挙之
1 ナラティヴのはじまり、大きな物語から小さな物語へ
2 やりながら知るしかない、ナラティヴとデザインの実践
3 自分までもが変容していく、ナラティヴ・アプローチ
4 ナラティヴって、結局何なんだろう
やまちゃんとすさみの物語/山﨑和彦
1 やまちゃんの物語
2 すさみ町と森さんとの出会いと変容へ
3 紀州備長炭の出会いと詩作へ
4 ナラティヴの可能性が広がる
⾃分の旗を⽴てよう ウルトラローカルシリーズから起こること/上平崇仁
1 はじめに
2 局所から始めよ―ウルトラローカルシリーズの試み
3 すさみ町で「即興茶屋」を立ち上げる
4 「即興茶屋」で起こったこと
5 そして自分との対話はつづく
血のかようもの/牛丸維人
1 太郎之助の物語
2 目の見えない者たちの共同体
3 マルチモーダルなフィールドワーク
4 血のかようナラティヴ
第二章 すさみの物語
語られた言葉が、行動を連れてくる/岩﨑友彦
ケチャップ・ナラティヴ ~循環アクション~/江夏恵理子
すさみラブストーリー ~すさみの中2に転生したら~/大道あゆみ
語りかけてくれる場所へようこそ/大湯麻衣子
岩田家の孫、時々孫/吉良栞
外国人留学生と心を通わせるには?/河野泉
モノ語り ~もし、すさみの家電たちが語るなら~/古賀由希子
すさみジョーク民話/小林つぶら
都市のプロジェクトと、すさみ町の「境界線」/齊藤恭子
語らぬ香りとぼくの変化/坂部佑磨
おかみさんがいる町/杉本博子
為後道標(のちのためのみちしるべ)/善利光雅
声を、継ぐ/徳田彩
リサーチ・スルー・車中泊/富田誠
会いたい町に、理由はいらない~わたしが還る場所~/中原采音
写真と笑顔で、通りの記憶を探す/西村正一
私と息子の波/原聡司
静けさの中にあるもの/原口高志
私にとって非日常な「海」の存在/平間久美子
構成主義者、すさみ町で学ぶ/本條晴一郎
カツオとすさみと父/満島弘
旅が語りなおされる町/鷲谷佳宣
第三章 世界は漂う
前書きなど
森の中のひとしずくが、小さな川の波紋のようにひろがり、世界の海のなかでゆるやかに漂う。
世界は、ひとつの大きな物語では語りきれない。
私たちはそれぞれの場所で、異なる時間を生き、
声にならない想いを抱えながら、日々を編んでいる。
その語りたち――名もなき日常のひとしずくが、
気づかぬうちに世界のかたちをそっと揺らしている。
小さな物語は波紋のように広がり、
誰かの記憶や、別の語りと出会いながら、
世界という海のなかでゆるやかに漂っている。
この本は、そうしたひとしずくの語りの力を見つめなおすための、和歌山県すさみ町を中心とした、小さな旅の記録である。
物語は、誰か一人のものではない。出会いのなかで生まれ、流れ、重なり、やがて見えないところで広がっていく。この本の物語たちが、あなたの中の記憶や思いと出会い、新たな波紋を生むことを、静かに願っている。
版元から一言
日に日に複雑化する世の中で、効率やロジックが最適解と限らない局面が増えています。プロトタイプやアブダクションを是とするデザインの力に光が当たる昨今、人間中心設計、UX、サービスデザインと「人」のために進化してきたデザインは人類学とも近接を見せています。そこで探究者たちが耳を傾けているのが、ナラティヴ。人を、社会を、世界を、より深く実直に捉えるため、自らの探究にアクションリサーチを駆使してナラティヴなアプローチで迫ることで、今まで見えなかったものが見えてくる。本書ではその可能性を多様な著者たちが模索する軌跡を重ね合わせることで、未だかつてない角度でナラティヴの核心に迫っていきます。その舞台となるのは、和歌山県すさみ町という課題先進地の小さな町。豊穣な自然と人々が共生してきたバックカントリーでのびのびと色とりどりに展開される軌跡は、現代社会を拡大してきた都市のコモンセンスから離れることで自由となる思考と試行があることも示唆しています。一冊を通して何が語られているのか、読書の旅路をぜひ楽しんでみてください。
上記内容は本書刊行時のものです。





