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ここちよい近さがまちを変える/ケアとデジタルによる近接のデザイン
原書: LIVABLE PROXIMITY : Ideas for the City That Cares
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2023年11月1日
- 書店発売日
- 2023年11月3日
- 登録日
- 2023年10月6日
- 最終更新日
- 2024年4月12日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2024-05-01 |
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5ヶ月で初版完売!著者エツィオ・マンズィーニ氏、6月に来日記念講演決定!ぜひこの機会に! |
紹介
パンデミックによって現代の暮らしに生じた、大きな変化。オンラインサービスやリモートワークの普及で自分の家に閉じこもる生活スタイルも一般的になりましたが、“ふれあうこと”や“近くにいること”の大事さに世界中の誰もが気付かされました。そのアプローチとして大きな示唆を持つのが、「Livable proximity=ここちよい近さ(近接)」。イタリアのデザイン研究者でありソーシャルイノベーションとサスティナビリティデザインに関する第一人者エツィオ・マンズィーニが著してくれるこの視点は、国のボーダーを超えてこれからの時代の“まち、地域、都市、ケア、コミュニティ、デジタル、経済、デザイン”への見方を変えてゆくと考えてやみません。本書は彼が記した「Livable proximity -- ideas for the city that cares」の翻訳書として、ポストコロナにこそ意味を放つこの視点・考え方・アプローチを我が国に広く伝えることを目的に、日本版オリジナルコンテンツとして当文脈における意義深い日本の事例や解説も追加されています。人類が“今までの生き方で良かったのか?”問われているとも言えるこの時代に、新たなる希望の一歩を踏み出すためのマイルストーンともなりえる一冊です。
目次
はじめに
第1章 近接とは何か?
1.1 近接とは何か?
1.2 機能的近接と関係的近接
1.3 多様化した近接と専門化した近接
1.4 技術イノベーションとハイブリッドな近接
1.5 ソーシャルイノベーションと関係的近接
1.6 文化のイノベーションと「人間以上(モア・ザン・ヒューマン)の」近接
1.7 住みよい近接
第2章 近接の都市
2.1 コモンズとしての都市
2.2 距離の都市とその危機
2.3 競合するシナリオ
2.4 すべてを15分以内で、しかしそれだけではない
2.5 機能的近接と「最小生態学的ユニット」
2.6 関係的近接、ローカルネットワーク、コスモポリティズム
2.7 機能的近接と関係的近接の双方向のつながり
2.8 出会い、出会う場所、都市の微細な次元
2.9 ローカルコミュニティ、多様化した近接、レジリエンス
2.10 街路、広場、コモンズ、そして近接
第3章 ケアする都市
3.1 ケアと近接、ケアは近接である
3.2 ケアはケアワークでもある
3.3 ケアなき都市
3.4 コラボレーションを支えるサービス
3.5 ケアのコミュニティ
3.6 ケアする近接
3.7 ケア、コミュニティ、ハイブリッドな近接
3.8 ケアワークの再分配
3.9 新たな時間のエコロジー
3.10 密度と近接の経済
第4章 近づけるためのデザイン
4.1 機会のプラットフォームとしての技術的インフラと社会的インフラ
4.2 距離の都市から近接の都市へ
4.3 社会的会話の刺激とアトラクター
4.4 プロジェクトの織り成すコミュニティ
4.5 構築と再生
4.6 英雄的段階から変容する通常性へ
4.7 近接のデザインと近接のためのデザイン
4.8 コミュニティ、近接、プロジェクト
付録1 目の前に近づいている未来、近接の都市とデジタルプラットフォーム
(イヴァナ・パイス 著)
付録1.1 デジタルプラットフォームの概念を定義する
付録1.2 住みよい近接のプラットフォームとガバナンスへの問い
付録1.3 デジタルプラットフォームの関係的な(ただし、それだけではない)側面
付録1.4 都市型プラットフォームとローカルルーツ
付録1.5 目の前に近づいている未来:新たな「地域コモンズ」としてのプラットフォーム?
付録2 日本語版解説と日本での事例
(安西洋之、本條晴一郎、澤谷由里子、森一貴、山﨑和彦、山縣正幸 著)
付録2.1 欧州のまちづくりの参考のしかた
付録2.2 複雑系としてのコミュニティとケアの倫理
付録2.3 近接の都市が描く世界
付録2.4 豊かな一時的近接からはじまるうねり。産業観光イベントRENEWの事例
付録2.5 近づけるためのデザイン(近接のデザイン)とすさみ町の事例
付録2.6 協同とそれを可能にする組織形態と八尾市の事例
著者、寄稿者、翻訳者、協力者
前書きなど
この本を手にとってくださった方たちへ
パンデミックによって、私たちの生活に大きな変化がありました。オンラインサービスの充実やリモートワークの普及によって、自分の家にとじこもる生活スタイルも一般的になったのも、そのひとつです。
さて、これからの私たちの生活を考えてみると、「ふれあうこと」や「近くにいること」が大事なことに気づきます。そのようなアプローチの基本となるのが「ここちよい近さ(近接)」です。この視点は、まち、地域、都市、ケア、コミュニティ、デジタル、経済、デザインへの見方を変えてゆくでしょう。
本書の著者、エツィオ・マンズィーニはイタリアのデザイン研究者であり、ソーシャルイノベーションとサステナビリティのためのデザインに関するリーダー的存在です。彼の著「Livable proximity -- ideas for the city that cares」は、これからのソーシャルイノベーションに重要な示唆を与えてくれます。その日本語版は、マンズィーニのソーシャルイノベーションへの考え方と「ここちよい近さ(近接)」という視点を日本に適用することを目的としています。日本では、都市だけでなく、地域も含めて、広い意味で「まち」という観点が欠かせないので、本文では「都市」としていますが、本書のタイトルでは「まち」としています。
ここで、マンズィーニの本を理解するに助けとなることを書いておきましょう。彼自身の考えに影響を与えた4つのことです。
まず、1968年、世界の先進国の若者の間で広がった価値観の転換を目指した運動に彼自身が関わり、そこから「グリーン革命」に目を向け、一貫して環境問題に関心を持ち続けてきました。2つ目、イタリアのトリエステの精神科医であるフランコ・バザーリアが隔離された精神病棟の廃止を政府に働きかけ、1978年、それが法制化に至ります。誰が精神異常で誰が正常であるかは誰も決められない。この認識のもと、誰もが同じ空間で生きられるようにしたのです。3つ目が1989年にピエモンテ州でスタートしたスローフード運動です。量ではなく質を重視するあり方と、この運動の進め方が世界を変えていく新しいデザインのあり方を示していることにも感銘を受けます。4つ目は、ノーベル経済学賞も受賞したアマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ」です。誰もがそれぞれに能力をもち、人が何かをしやすい環境をつくるのがデザインの役割であるとマンズィーニは気づきます。
個人の潜在能力に対する見方、その活かし方、そのときのデザインの役割、これらを世界が気候変動と経済格差で騒然としている今の時代にどう適用するか、と本書のテーマが繋がっています。その彼が、本書について、次のように語ります。「本書はできるだけ多くの人に読んで欲しいです。しかし、哲学的な対話ですから、読者にそれなりの素養を求めざるをえないのはわかってください」 その意図するところは、腑に落ちるには時間がかかる、ということです。しかし、誰もが理解できる日がくるはずです。
この本は、まち、地域や都市に関心がある人、これからのソーシャルイノベーションの実践に関心がある人、広い文脈でのケアに関心がある人、次世代のデザイン思考やデザイン文化に関心がある人、デジタルやプラットフォームに関心あるエンジニア、都市やデザインの研究者などには、ぜひ読んでもらいたい本です。
本書は、4つの章で構成していますが、1章は「近接とは何か?」という哲学的な内容、2章は都市と事例、3章ではケアと事例、4章はデザインと事例に関して掲載しています。付録1はイヴァナ・パイス著のデジタルプラットフォームに関する文章です。そして付録2は日本語版解説と日本における事例になっています。もし1章を読んで難しいと感じたら、2章や付録2から読み始めてみるとよいと思います。そして最後に1章を読むと、この本の全体像が把握できると思います。
最後に繰り返しますが、この本には難しい概念もあります。しかし、後半の事例なども参考にしながら読み進んでいただけると、マンズィーニの考え方の素晴らしさにじわじわと気づいていただけるはずです。
翻訳者を代表して、安西洋之、山﨑和彦
2023年11月1日
版元から一言
人間は進化していく現代生活において利便性を追求していく中で、どんどん個人化してきました。エゴや欲求が果てしなく肥大する一方で、地球や環境が“このままではもたない”という明確なシグナルを発するようになったこの時代に全世界に等しく出現した、パンデミックという空白。突如人類に訪れたゆるぎようのない孤独は、“私たちがどう未来をつくっていくべきか?”という問いにも大きな示唆を与えてくれました。デジタルで乗り越えられた重大インシデントもたくさんありましたが、重要なのは「人は、人と生きていきたい」という人間が持つ根源的な情動に世界中の誰もが否応なく気付かされたこと。本書は、イタリアのソーシャルイノベーションの識者がそのためにどう個人を超えて「人と人」になっていくとよいのか、繋がりや近さ、関わりや結び付きを軸に、ケアやコミュニティ、デジタルや経済という視点で、これからの時代を彩るべき人間らしい生き方のデザインについて、豊富な事例とともに考察を深めています。人間にとって幸せとは何か……?ページをめくれば、都市にも地域にも通じる普遍的な答えが垣間見えることでしょう。
上記内容は本書刊行時のものです。