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うれしい体験のデザイン UXで笑顔を生み出す38のヒント
Designing Smile Experience
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年12月1日
- 書店発売日
- 2022年11月4日
- 登録日
- 2022年10月14日
- 最終更新日
- 2022年12月21日
紹介
インダストリアルデザインからサービスデザイン 、巨大企業からスタートアップ……。UX(ユーザー体験)デザインの第一人者として多方面で研究と共創を続けてきた実務家であり学究者である筆者が、これからのデザインを考えるすべての人々に伝える38のプロジェクト・ストーリー。常に”体験デザイン”という視点で、デザイン・教育・コミュニティ・コンサルティング・社会実験・社会実装など多様な領域で活動し、近年では社会や組織のバウンダリーを超えるプロジェクトでも体験という視点から数多くの取り組みに筆者は携わってきました。そんな筆者が移り変わる時代の変遷の中で長年、ビジョン・プロジェクト・プロダクト・デジタル・メディア・サービス・ブランド・教育・アプローチ・企画・政策・コミュニティにおける体験をデザインしてきた経験から、それぞれの体験デザインにおいて、“Smile Experience”という切り口で人々に笑顔を生み出すためにどう取り組んできたか? 実践的なプロジェクト・ストーリーを解き明かしていきながら、新たに視点を広げたいデザイナーや、ロジックに息詰まりを感じるマーケティング担当者など、UXの本質を探究したいあらゆる方々へ、そのヒントを届けます。
目次
エピローグ 「やってみるんだよ」
Experience01/サニタリーの体験 : システムサニタリー
Experience02/黒の体験 : フューチャーパソコン
Experience03/黒の体験 : 日本のノートパソコン
Experience04/黒の体験 : 世界のノートパソコン
Experience05/指先の体験 : トラックポイント
Experience06 /ウルトラの体験 : パームトップパソコン
Experience07/小さい体験 : チップカード
Experience08/ニュースの体験 : 未来の電子新聞
Experience09/宇宙の体験 : ポータブルCD-ROM
Experience10/宇宙の体験 : ポータブルDVD
Experience11/スマイルの体験 : スマイルプロジェクト
Experience12/ファッションの体験 : ウォッチパッド
Experience13/異色の体験 : トランスノート
Experience14/おまけの体験 : 充電器とハードディスク
Experience15/読書の体験 : IBM D esign from Japan
Experience16/ミュージアムの体験 : コンピューターミュージアム
Experience17/感性の体験 : 感性メール
Experience18/読書の体験 : 使いやすさのためのデザイン
Experience19/デジタルの体験 : 未来の洗面台
Experience20/デジタルの体験 : 未来のリビング
Experience21/読書の体験 : プロダクトデザイン
Experience22/読書の体験 : 情報デザインの教室
Experience23/空の体験 : デジタルタワー
Experience24/朝の体験 : スマートモーニング
Experience25/読書の体験 : エクスペリエンス・ビジョン
Experience26/安心の体験 : ガスターミナル
Experience27/動物園の体験 : ステインレズー
Experience28/すぎいとの体験 : すぎいとアクセサリー
Experience29/読書の体験 : 人間中心設計入門
Experience30/読書の体験 : IBM の思考とデザイン
Experience31/学びの体験 : Xデザイン学校
Experience32/子どもの体験 : VIVITAプロジェクト
Experience33/オノマトぺの体験 : オノマトペリエンス
Experience34/ひろまの体験 : キッチンの未来ビジョン
Experience35/館山の体験 : 食のまち館山
Experience36/安心の体験 : ネットワークカメラとセンサー
Experience37/文化の体験 : コ・ビジョン
Experience38/植物の体験 : プランティオ
プロローグ 「つくり続ける、学び続ける、つながり続ける」
前書きなど
やってみるんだよ
体験をデザインすることは、自分自身が経験することからスタートします。そのためには自分がまず新しい体験にチャレンジする、やってみる、するとうまくいかない、その連続。学生にも「やってみるんだよ」と言い続けています。もし、アイデアが二つあって、どちらがよいか迷ったら二つやってみる。もし、会社の仕事と自分のやりたいことがあって迷ったら、二つやってみる。やってみると、はじまるんです。やるかどうか迷っている時間はもったない、やってみて失敗すると、次につながるのです。
1979年に、僕が京都工芸繊維大学でデザインを学び、クリナップ社でデザイン活動を開始して、転職してIBM 社でデザイン活動をしながら、40歳すぎて社会人大学生として8年間、神戸芸術工科大学と東京大学で学びを続けました。僕の活動は、常に体験デザインという視点でデザイン、教育、コミュニティ、コンサル、社会実験、社会実装など多様な領域に渡ってきました。近年では社会や組織のバウンダリーを超えるプロジェクトでも体験という視点から数多くの研究と実践を推進しています。そこで、これからの体験デザインを考えるヒントとなることを願い、この本を出版することにしました。
ヒントは、新しい体験のデザインをチャレンジすることから学んだことです。新しいチャレンジをすると失敗することも多いです。その失敗から、学び、つくり続けています。つくるものは、ビジョン、プロジェクト、体験、プロダクト、デジタル、メディア、サービス、ブランド、教育、アプローチ、企画、政策、コミュニティ、などなどです。そして、プロジェクトで出会った多くの人から学んだことをヒントとしました。特に、クリナップで仕事をはじめた時は井上登社長から、IBM では、工業デザイナーのリチャード・サッパー、工業デザイナーのアキッレ・カスティリオーニ、グラフィックデザイナーのポール・ランドなどからの学びも深いです。
アキッレ・カスティリオーニは、1918年にミラノで生まれ、ミラノ工科大学の建築学科を卒業後、新しいテクノロジーと多様な素材を用いて家具や照明、展示設計、都市計画に至るまで、領域にこだわらず、さまざまな活動を続けました。カスティリオーニは「デザインというのは一つの専門分野であるというよりは、むしろ人文科学、テクノロジー、政治経済などにおける批判力を個人的に身に付けることから来るある態度のことです」と語っているように、イタリアのデザイナーの原点である「プロジェッティスタ」のように、デザインという仕事の役割を広くとらえていた。そして、工業デザインの父と呼ばれる活動をしました。僕がカスティリオーニと直接会うことができたのは数回ですが、彼の活動や作品から多くのことを学びました。
リチャード・サッパーは、1932年にミュンヘンで生まれ、ミュンヘン大学でビジネスを学び、卒業後にダイムラー・ベンツ社のデザイン部に就職したのですが一年で辞めて、ミラノで活動。建築家のマルコ・ザヌッソとコラボレーションを開始して、15年以上二人の協力関係は続きました。彼は、家電、電話機、照明、雑貨、家具などの工業デザインを続け、1981年にIBM社のコンサルタントになり、亡くなる2015年までIBMとの関係が続きました。僕は1983年に日本IBM に入社しサッパーと出会い、対話やデザイン活動を通して2008年まで25年、サッパーから多くのことを学ぶことができました。
ポール・ランドは、1914年にニューヨークで生まれ、プラット・インスティテュートやパーソンズ美術大学でデザインを学び、グラフィックデザイナーとしてさまざまな活動をしました。1956年にIBM 社のコンサルタントになり、ロゴ、パッケージ、ポスター、アニュアルレポートなどグラフィックデザイン分野の仕事をするとともに、こういった企業の仕事とは別に、絵本作家の妻のアンと一緒に絵本をつくったり、彼のデザインの思考を伝えるために数冊のデザイン書を出版しました。僕がポール・ランドと直接会うことができたのは数回ですが、彼の作品や本から多くのことを学びました。
3人から学んだ最も大切なことは「やってみる」と「やり続ける」ことです。この3人は、いつも新しいチャンレジをやってみる、そしてそのチャレンジを死ぬまでやり続けていました。アキッレ・カスティリオーニは80歳の時にニューヨーク近代美術館で大規模な個展を開きました。リチャード・サッパーも83歳で亡くなるまで現役のデザイナーとして活動していました。ポール・ランドも82歳の時にこれまでの研究と実践をまとめた本を出版しました。素敵ですね。
これまでに、大学や企業や社会で、本当に優秀な人や素晴らしい人たちに出会うことができました。そのたびに、自分は何ができるのか? と思ってしまいます。たぶん、僕は優秀な人のように、すぐに学んだり、すぐにつくったり、すぐに友人ができたりするのは、ちょっと難しいと思っています。そのかわりに、僕ができることは、僕の妄想に向かってやり続けることで、人より遅くても、人よりも時間がかかったとしても、僕らしいことができるだろうと信じています。そのヒントをくれたのも、リチャード・サッパーです。僕が大学院で学びはじめたのも40歳をすぎてから、大学の先生になったのも50歳をすぎてから、 自分の会社をつくったのも60歳をすぎてからです。でも、妄想に向かってやり続けているのです。
この本では、僕が大学を卒業して現在までの40年以上に渡って、新しい体験にチャレンジして、失敗した体験が、これからの体験デザインを考えるヒントとなることを願っています。実は、この本では二つのチャンレジをしています。一つは、体験のヒントにしてもらうために、作品と体験とヒントをセットにしています。これまでデザインの本は、デザイン手法のような文章の本か、作品紹介のために写真などを主体とした本のどちらかに分類されていましたが、この本では、どちらかではなく、どちらも掲載することで体験のヒントを伝えることができるのではないか? ということにチャレンジしています。もう一つのチャレンジは、この本を最初の本として出版する、出版社をつくったことです。誰もがデザインを学び、研究を楽しみ、出版する世界へのチャレンジです。
たぶん、この本は教科書や手法の本のように、すぐに役立つ本ではないと思います。でも、この本をめくってみて、気になることが生まれたら、あなたの出会いのはじまりです。そこで、僕の体験を少しだけ共有してみてください。そして、うれしい体験のヒントになればと願っています。
山﨑和彦 2022年10月
版元から一言
失われた30年の中で、既存のやり方や考え方が通じなくなっている日本。そんな停滞を打ち破る切り口の一つとして、UXやサービスデザインといった広義のデザインの力が注目されています。まだそんな言葉が生まれる前から、プロダクトをデザインするにも「体験」という視点で取り組んできた筆者のさまざまなプロジェクト・ストーリーには、さまざまに有用な示唆が詰まっています。モノからコトへと言われる時代に、体験のデザインによってユーザーの笑顔を生み出すべく多岐に渡るプロジェクトで共創と研究と探索を重ねてきた軌跡には、実践的なブレイクスルーを生み出すヒントが盛りだくさん。という意味においてこの本は、デザインの書であり、イノベーションの書であり、ビジネスの書であり、社会科学の書です。デザイナーはもちろんのこと、企業や自治体で自分の仕事は“デザイン”という言葉に縁遠いと思われている人にも、創造的なインスピレーションがきっと湧くことでしょう。それだけでなくサイドストーリーとしてこの本では、長年に渡る著者の歩みとともにデザインという概念の進化も楽しんでいただけることでしょう。世の中のそこかしこでもっとスマイルが生まれますように、という想いを込めて、私たちはこの本を世の中に届けます。
上記内容は本書刊行時のものです。