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保育原理
実践を支える保育のこころ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年7月7日
- 書店発売日
- 2024年7月10日
- 登録日
- 2024年7月30日
- 最終更新日
- 2024年8月6日
紹介
保育士養成機関の教科書として立ち上げた『NEW ERA シリーズ』の第一巻目として刊行。「保育への思い」を全巻を通じたキーワードを設定し、刻々変容する保育ニーズに対応すべく,書籍の形態では十分に記述できない内容を二次元コードを利用した電子媒体によって理解を深められるような斬新な工夫を随所に取り入れるなど,新しい時代の担い手となる学生の皆さんに自在に活用していただけることを第一の目標に掲げました。
プロローグ ― 保育のこころと哲学 ―
第1章 保育のこころと保育原理
第2章 保育の思想と歴史的変遷
第3章 保育に関連する法令および制度
第4章 保育所保育指針における保育の基本
第5章 保育の社会的役割と責任
第6章 多様化する保育ニーズと保育原理
エピローグ ― 新時代の保育原理 ―
目次
プロローグ ― 保育のこころと哲学 ―
第1章 保育のこころと保育原理
第1講 保育の意義と子どもの最善の利益
1.保育の理念―保育とは何か
2.保育という言葉の由来について
3.子どもの最善の利益と保育
4.子どもの権利宣言の歩み
第2講 保育の本質と目的
1.保育における養護と教育
2.児童福祉法における保育士・保育所の役割
3.保育者と保護者との信頼関係
4.幼稚園における保育と教育基本法
5.保育所保育指針,幼稚園教育要領,幼保連携型認定
こども園教育・保育要領における改訂(改定)の方向性
1 乳児保育における3つのねらい及び内容
2 幼児教育の積極的位置づけ
第3講 児童観と保育観の確立に
1.児童(子ども)とは
2.児童観(子ども観)・保育観の変遷
3.再び,子どもの権利条約について
1 子どもの意見表明権(第12条)
2 休息・余暇・遊び,文化的・芸術的生活への参加
(第31条)
4.保育実践と子どもの権利条約
5.未来社会への子ども観・保育観を深めるために
6.終わりに 「手は身近なところから」「目は世界へ」
=think globally, act locally
第2章 保育の思想と歴史的変遷
第4講 諸外国の保育の思想と歴史
1.保育の思想と歴史を学ぶ意義
2.日本とヨーロッパの文化の違い
3.日本とヨーロッパの宗教観の違い
4.日本とヨーロッパの風土・気候・自然の違い
5.保育・教育に影響を与えた思想家たち
➊ デジデリウス・エラスムス
➋ ミシェル・エケム・ド・モンテーニュ
➌ ヨハネス・アモス・コメニウス
➍ ジャン=ジャック・ルソー
➎ ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ
➏ フリードリッヒ・フレーベル
➐ ヨハン・フリードリヒ・オーベルリーン
➑ ロバート・オウエン
➒ エレン・ケイ
➓ ジョン・デューイ
⓫ ルドルフ・シュタイナー
⓬ マリア・モンテッソーリ
⓭ ヤヌシュ・コルチャック
⓮ アレクサンダー・サザーランド・ニイル
⓯ ホーマー・レイン
⓱ ワシリ・アレクサンドロヴィチ・スホムリンスキー
⓲ ローリス・マラグッツィ
第5講 日本の保育の思想と歴史
➊ 忍 性
➋ 貝原益軒
➌ 関 信三
➍ 松野クララ
➎ 豊田芙雄
➏ 野口幽香
➐ 中村五六
➑ 和田 實
➒ 倉橋惣三
➓ 長田 新
⓫ まとめ
第3章 保育に関連する法令および制度
第6講 子ども・子育て支援新制度
1.子ども・子育て支援新制度の主旨
2.子ども・子育て支援新制度の概要
第7講 保育に関連する法令と実施体系
1.子ども子育て支援給付
2.教育・保育給付の利用
1 認定区分
2 保育を必要とする理由
3 保育の必要量
4 保育・教育給付費のしくみと無償化
3.教育・保育給付
1 施設型給付の対象施設
2 保育所
3 認定こども園
4 幼稚園
第4章 保育所保育指針における保育の基本
第8講 子どもの成長・発達と保育
1.子どもの発達過程に応じた保育
1 発達過程と保育
2 発達を理解すること
3 発達を理解する視点の例
2.保育者の倫理観と専門性
1 保育所職員の専門性
2 保育士の専門性
3 専門性の向上
4 保育者の倫理観
3.保護者との緊密な連携
1 家庭との連携の必要性
2 保護者への援助・支援
3 地域の子育て家庭への支援
第9講 養護と教育の一体性
1.子どもの「育ちと学び」を支える養護と教育
1 乳幼児期の子どもの「育ちと学び」
2 0歳からの子どもの権利
2.「養護」と「教育」
1 養護と教育
2 養護―生命の保持と情緒の安定
3 教育―発達の援助
3.「養護」と「教育」の一体性
4.保育実践における養護と教育
1 保育の内容
2 乳児保育と保育内容5領域の考え方
5.養護と教育による支援の拡大
1 親への支援
2 多様な人のつながりによる養護と教育
第10講 子どもの環境と保育
1.子どもを取り巻く環境
2.人的環境と物的環境
3.社会環境・地域環境
4.自然環境
5.園舎と園庭の遊具,設備,用具
第11講 子どもの生活と遊び
1.子どもの生活と養護
2.乳幼児にとっての教育
1 学びと教育
2 学びの領域
3.育みたい資質・能力
1 これからの時代に求められる能力
2 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿
3 遊びの発達
4.子どもの生活
5.環境を通した保育と遊び
6.生活や遊びを通しての総合的な保育
1 自発的な遊びの中で子どもは学ぶ
2 好奇心を耕す
3 探究心を培う
4 表現する
5 協同性を育む
6 子どもの遊びと保育者の役割
第12講 子ども理解に基づく保育の過程
1.計画・実践・記録・評価・改善の過程の循環
1 保育の過程とは
2 子ども理解から計画へ
3 計画から実践へ
4 実践から記録へ
5 記録から評価へ
6 評価から改善へ
2.保育における個と集団への配慮
1 個と集団の関係
2 年齢ごとの配慮点
3 「個と集団」としての職員のあり方
第5章 保育の社会的役割と責任
第13講 事例で見る家庭・地域との連携
1.家庭・地域との連携の重要性
2.園と家庭との連携
1 園と保護者とのつながり
2 保護者同士のつながり
3.園と地域社会との連携
1 小・中学校との連携
2 地域社会との連携
第14講 保育における子どもの安全
1.保育における子どもの安全とは
2.子どもの発達と安全
1 子どもは発達するからケガをする
2 保育所保育指針「養護」から考える子どもの健康と安全
3 「一人一人」の考え方
4 「自ら健康で安全な生活をつくり出す」をどう考えるか
3.保育におけるリスクマネジメント
1 事故予防の基礎知識
2 睡眠中の事故を防ぐために
3 食事中の事故を防ぐために
4 プール活動・水遊び中の事故を防ぐために
4.園での防災
1 地震・津波にどう対応するか
2 大雨による洪水にどう対応するか
5.まとめ
第15講 子ども家庭福祉と保育
1.子どもの権利
1 保育者と子どもの権利
2 子どもの権利をめぐる国際的動向
3 児童の権利に関する条約
4 子どもの権利を守る日本の制度
5 子どもの権利の日本における状況
2.子ども家庭福祉
1 子ども家庭福祉
2 子ども・子育て支援新制度
3 地域子ども・子育て支援事業
4 保育所における子育て支援の役割
3.児童虐待
1 児童虐待とは
2 児童虐待の現状
3 児童虐待防止に関する保育所の役割
第6章 多様化する保育ニーズと保育原理
第16講 特別なニーズを持った子どもの保育
1.サマランカ声明と特別なニーズをもつ子どもの保育
2.インクルーシブ保育の重要性
1 「障害児保育」の現在
2 インクルーシブ保育とは
3 保育者とインクルーシブ保育
第17講 ノーマライゼーションと多様性の受容
1.差別と偏見
1 差別と偏見を考える
2 差別の再生産
3 差別を学習するステップ
2.ノーマライゼーションについて
1 ノーマライゼーションとは
2 ノーマライゼーションの8つの原則
3.多様性の受容
1 多様性とは
2 多様性を相互に認め合う社会へ向けて
第18講 子どもの健全育成とサスティナブルな未来を創造する
1.子どもの健全育成
2.エシカルでサスティナブルな未来を創造する
3.保育における食農・食育
エピローグ ― 新時代の保育原理 ―
さくいん
著者紹介
(エピローグ)
前書きなど
【保育のこころと哲学】― 近藤 幹生 ―
保育や子育ての実際は
保育という営み,あるいは子育て(子どもを育てること)は,いつの時代も行われてきた。では,保育や子育てにおいて,肝心なことは何かと問われたとき,どのように応えるかを考えてほしい。
保育するとは,専門家である保育者により子どもを預かる行為である。しかし,預かればよいのかというと,そう簡単ではない。保育者には,一人一人の子どもの成長・発達を保障することが求められる。では,成長・発達を保障するとは,どのようなことだろうか。保育の場において,子どもたちは,仲間たちと遊び,生活をしていく。そして,食事・排泄・衣服の着脱など,基本的な生活習慣の自立を獲得していく。心身が育っていくことであり,保育者により,年齢に応じた発達が促されていくことである。こうして,乳幼児期において,心と体が形成されていき,一人一人,人間としての基礎が築かれていくのである。保育の営みは,生涯の土台になっていくのである。
また,保育者が子どもを預かることにより,親は就労することができる。したがって,保育とは,親が就労するためには,不可欠な行為である。保育する時間は,原則8時間だが,不足する場合がある。実際には,11~12時間開所されていて,長時間の保育が行われている。親の勤め先への通勤時間なども加味しなければならないからである。このように,保育という営みは,保育の対象である子ども,そして親の就労状況の課題を視野におき行われることは理解できただろうか。
では,主として家庭における営みとして,子育てということを考えた場合,どのような課題があるのだろうか。両親が,共に労働に従事している時間は,保育者による保育に委ねているが,家庭においても,子どもの日常生活が行われている。もちろん,保育の場に預けずに,家庭で子育てをしている方々もいる。自治体や保育施設により,子育て支援の取り組みなどが,多彩に実施され,親子が利用している。子育て支援の内容には,育児不安への相談対応,遊びの場の開催,育児サークルなど多彩である。また,家庭環境には,さまざまな状況がある。母子家庭,父子家庭もあるが,懸命に奮闘している親たちも少なくない。そして,家庭の経済状況についても,子どもの貧困と言われる深刻な問題もある。近年,外国籍の家庭や日本語を母語としない乳幼児,親子も増加してきている。こうしたケースに対応する子育て支援の課題は,複雑・多岐にわたっている。
大まかに,保育や子育ての実情や課題を取り上げてみた。では,その際,保育するにあたって,肝心なことは何か。どのように考えられるだろうか。
保育をめぐる人間関係 ―保育のこころ,哲学を考えるために―
保育には,さまざまな人間関係がある。保育者と子ども,親と子ども,子ども同士,保育者と親,親同士,地域の大人たち同士,子どもと地域の人たちなど,保育をめぐっては,いくつもの人間関係が存在している。
ここで考えてほしいのは,人間関係をつないでいるのが,子どもであるということである。同時に,保育や子育ての対象は,一人一人の子ども・人間だということである。その子ども・人間をどのように考えているのか。この基本的視点を「保育のこころ」,あるいは「哲学」という言葉で表現していきたい。どのような保育の心が大事になるのだろうか。そして,子ども・人間を,どのように観るべきなのか。こうした問いに向き合い,ゆっくりと思考を重ねてほしいのである。
日本の保育を見つめようとするとき,一人の保育学者・倉橋惣三を紹介しておきたい。倉橋は,戦後に発足した日本保育学会の初代会長であるが,著書『育ての心』において,次のように書いている。
「子どもらが帰った後」
子どもが帰った後,その日の保育が済んで,まずほっとするのはひと時。大切なのはそれからである。
子どもといっしょにいる間は,自分のしていることを反省したり,考えたりする暇はない。子どもの中に入り込みきって,心に一寸の隙間も残らない。ただ一心不乱。
子どもが帰った後で,朝からのいろいろのことが思いかえされる。われながら,はっと顔の赤くなることもある。しまったと急に冷汗の流れ出ることもある。ああ済まないことをしたと,その子の顔が見えてくることもある。―― 一体保育は…。一体私は …。とまで思い込まれることも屡々である。
大切なのは此の時である。此の反省を重ねている人だけが,真の保育者になれる。翌日は一歩進んだ保育者として,再び子どもの方へ入り込んで行けるから。
さあ,どうだろうか。保育者として,子どもに向き合うとき,この記録に見られるように,自らを振り返る行為に注目すべきであるという。つまり「此の反省を重ねている人だけが,真の保育者になれる。翌日は一歩進んだ保育者として,再び子どもの方に入り込んで行けるから」という。このことを,あなたは,どのように考えるだろうか。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威のなかで
さて,21世紀もすでに20年間を経過してきた。2020年はじめ,私たちは未曾有の経験をすることになった。新型コロナウイルス感染症との遭遇である。保育の場・教育の場では,どのような事態がおこったのだろうか。たとえば,以前より注目されてきたが,子どもの虐待や貧困問題などが,さらに浮き彫りにされた面がある。
そして,この4年間,保育の場では,感染拡大による臨時休園が繰り返された。また,日常的にも,保育実践の場では,さまざまな感染対策が求められてきている。家庭での子育ての日々においても,保育の休止により,親たちの就労は,大きな影響を受けたのである。就労先の状況の急変により経済的困難に見舞われた家庭もある。
保育の対象である乳幼児にとっては,新型コロナウイルス感染症に罹患した子ども,感染が広がったことをはじめ,他にも課題は山積しており,未だ収束してはいない。こうした中でも,保育者たちは,懸命に職務に向かっているのである。
以上,ごく一部をふれてきたに過ぎないが,子どもの保育や子育てにおいて,肝心なことは何か。この問いを続ける作業を,保育のこころと哲学と表現してみた。本書で学びを深めながら自ら積極的にチャレンジしてほしい。
【新時代の保育原理】― 倉田 新 ―
「保育」は有史以来の営みであり,人として普遍的な営みであると同時に,保育の問題や課題は時代によって変化をしていくものでもある。この教科書に「NEW ERA」〈新時代〉保育原理と名付けたのは,普遍的な保育原理を学びながらも,その原理を現代に活かしてこそ意味があるのであって,保育が常に実践の科学であり哲学であることを忘れてはならないからである。保育士には認知を超えたメタ認知能力が必要である。
保育という営みは人生百年時代の大切な基礎を作る仕事でもある。神社仏閣を建築する宮大工の世界では「魂をいれ少なくても三百年生きる建物をつくる」という言葉がある。たとえばいい加減な大工が,いい加減な仕事をして家を建てた。大きな地震が来たらどうなるだろう。震災の時もしっかりした基礎が出来ている家は倒壊しなかった。保育士も魂をいれ百年生き続ける人間を作る仕事である。建物の基礎も,人間の基礎も同じ,建物は倒れたら建て替えればよいが人間はそう簡単ではない。保育者の子どもに対する影響力は極めて大きいのである。保育者は心と技が一体となって保育の専門性が発揮される。
保育内容については現在様々な保育が展開されている。かつて広島大学の長田新先生が1955年に「フレーベルに還れ」と言ってから70年を迎えようとしている。エレン・ケイが1900年に「児童の世紀」で幼児教育の形骸化を批判してから120年を超えている。しかしながら,現代でも子どもの体性や自主性を踏みにじるような形骸化された保育・教育現場は存在する。それは保育の歴史や原理を真剣に学ばない者たちが少なからず存在しているからである。問題は解決するためにある。解決するためにはそれぞれが保育の原理を深く学び,自らも実践していくことである。学生の皆さんたちは本物を見抜く力が必要である。そのためにも自ら古典を師として読み学ぶ必要がある。保育原理,保育者論を徹底的に学ぶ必要があるのである。
また近年不適切な保育と言われる虐待等も問題となっている。保育や教育には児童観や保育観が重要であり,人間性や教養,そして使命感が不可欠なのである。それは保育養成の質の問題でもある。保育者に常に求められているのは人間性である。同じように大学で保育養成に関わる教員に求められているのも人間性だということを改めて認識する必要がある。大学の教員は権威ではなくその人間性で選ぶ必要がある。現場を知らない教員が机上の理論を並べるだけでは学生は育たない。保育者養成の教員に必要なのは理論と実践力である。大学でも現場でも未だ古く権威的で時代錯誤で差別的な教育者や保育者も少なからず存在する。そうした教育者に育てられた学生が保育者になり子どもたちの命を大切にする心を育てたり,自己肯定感を育んだりすることなどできる訳がない。自己肯定感の無さが命を粗末にする若者を増加させているのである。
昔から現場では「今ここ保育」という言葉がある。子どもたちは今の時代と環境の中を生きている。時代や環境が無味乾燥で砂漠化していくならば,子どもたちが生きていくために必要なのは潤いや生きる力を取り戻すオアシスである。世の中が憎悪と破壊に満ちているならば,愛と再生に満ちた教育が必要である。子どもたちは愛されるだけではなく愛することも学ばなくてはならない。日本の15~39歳の各世代の死因の第1位は自殺(厚生労働省「2020年版自殺対策白書」より)であり,先進国7か国の中では15~34歳の年代で死因の1位が自殺なのは日本だけである。その責任は子どもにはない。すべてが大人にある。差別は再生産される。つまり大人から子どもへ伝えられる。それは親であり教師でありマスメディアである。子どもから子どもへも伝わるがそのもとは大人である。先輩から後輩へ。大人たちが普段なにげなく交わす会話。そのなかにある陰口や噂,へつらい,傲慢さ,暴力,態度を子どもは見逃さない。そこから子どもは差別を無意識に学習し意識化し,いじめなどの問題行動を起こす。だからこそ子どもたちを育てる親,教師,保育者の責任は重大である。
また同時に,生きる力を育てることを大切にしなかった大人にある。命を大切にする心を育てるということが,現代日本の保育・教育において最も崇高な根本原理ではないだろうか。子どもの発達に必要な体験とは,身近な生活の中で命とふれあい命を育てることに他ならない。命を大切にする心の発達は,命とのふれあいの質と量に比例していくのである。命は命からしか学べない。命の環境を幼児教育の中で整備するのは現代の保育において極めて重要な課題であり責務である。
また保育士の処遇,日本の保育行政の貧困も大きな問題である。保育の環境も最低基準等,いまだ劣等処遇の原則から発展していない。保育に従事する保育者に対しての処遇に対しても市区町村で大きな格差がある。これらは確実に保育士不足に直結してる。国は現場の守備範囲を広げる一方で,その現場に対して処遇の向上のための十分な補助をしないどころか,予算を削減する行政もある。こうした制度や社会の問題は大きな問題である。早急に解決していかなくては日本の保育は崩壊するであろう。それは日本の経済にも大きな影響を及ぼす。子どもは未来の宝である。幼児期における豊かな直接体験が未来の創造的な社会を生み出していくのである。
また世界に目を向けると,現在も地球のいたるところで内戦や戦争が起きている。そして多くの子どもたちが犠牲になっている。唯一の被爆国として日本は平和な社会を次世代にも繋げていかなくてはならない。ひとたび戦争が起きると自主性や主体性,そして自由が奪われる。現在保育で大切にしているものがすべて失われる。愛する子どもたちを戦場へ送らないために,彼らが兵士となり殺したり殺されたりしないように,保育者は声を上げなくてはならない。国民主体の民主的な社会を維持発展させなければ,今まで積み上げてきた豊かな保育の文化が根底から崩れてしまうということに気づかなくてはならない。
そして世界的な感染症,異常気象,気候変動の問題も,子どもたちの日々の生活に大きな影響を与えている。生まれた時からマスクをした大人しか見たことがない子ども。アタッチメントやコミュニケーションの研究からどのような影響があるのか。また感染症や異常気象の影響で園庭やプールで自由に遊べない子どもたち。持続可能な開発目標(SDGs)から保育は何を学び実践するのか,こうしたことも含めて子どもを中心にして,保育を家庭を社会を環境を新しくデザインしてイノベーションしていく力が保育者には必要になると考える。
こうした様々な課題を,新時代の保育の重要な課題として,解決の糸口を探しながら学び実践していくことがすべての子どもに関わる大人たちに強く求められるのである。そのためにも本書が現代の保育の新しい在り方に少なからず影響を与えることができればと願っている。
版元から一言
ななみ書房では,幼児教育・保育関係テキストラインアップの新機軸として,幼稚園教諭・保育士を目指す学生の方々を主な対象とした新シリーズ『NEW ERA シリーズ』を立ち上げました。
小社創業以来20 年間にわたり取り組んでまいりました出版活動の経験をもとに,「保育への思い」を全巻を通じたキーワードとして設定するとともに,刻々変容する保育ニーズに対応すべく,書籍の形態では十分に記述できない内容を二次元コードを利用した電子媒体によって理解を深められるような斬新な工夫を随所に取り入れるなど,新しい時代の担い手となる学生の皆さんに自在に活用していただけることを第一の目標に掲げました。
上記内容は本書刊行時のものです。