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専門職として成長し続ける教師になるために
―教職詳説―
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年12月15日
- 書店発売日
- 2023年12月5日
- 登録日
- 2023年10月13日
- 最終更新日
- 2024年1月5日
書評掲載情報
2024-09-03 | 全私学新聞 |
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紹介
昨今,学校・教職は「ブラックな職場・労働」であるかのようなイメージばかりが膨らんで,教職志望者数の減少と若者の「教職離れ」が生じている。
しかし,たんに子どもが好きであるとか,恩師との楽しい思い出の世界に惹かれてとか,安定した給与と身分保障があるなどといった次元を超えて,次第に厳しくなる労働環境の現状をしっかりと認識したうえで,それでもなお状況改善を志向しつつ,子どもの成長にかかわり,子どもの成長を支え促していく仕事にやりがいと生きがいを感じ,自らもまた教育専門職者として,人間として成長していくことを追求したいと考えている若い「未来の教師」たちがいる。
本書は,かれらが養成・採用・研修と続く40年余りにわたって,教育専門職者にふさわしい発達と力量形成を遂げていくための教育学的な知見と展望を提示する。
《大学での教職課程テキストの最新版として最適!!》
目次
はじめに―教職をめざす人のために〈本書の学び方〉
■第1部 専門職としての教師になる
1 公教育のなかの教師
1 現代日本の公教育は,どのような理念のもとで営まれているのか?
2 公教育には,構造的にどのような問題があるのだろうか?
3 公教育のなかで教師には何ができるのか?
2 令和の高度専門職としての教師―聖職者論,労働者論を超えて
1 教師であるあなたは聖職者か,それとも労働者か?
2 教師に求められる専門職性とは?
3 教師には専門職としてどのように判断することが求められるのか?
3 教員養成制度と教師をめざす人の学び
1 戦後教員養成制度における戦後とは何か?
2 「大学における教員養成」は訓練なのか教育なのか?
3 教師をめざす人の学びを支える制度とは?
4 教師のキャリア形成と「学び続ける教師」―40年間を通した教師の発達
1 教師として備えるべき専門的能力とはなんだろうか?
2 教師としてあなたはどのように学んでいくのだろうか?
3 「学び続ける教師」としてあなたは何を大切にするのか?
■第2部 教師に期待されていること
5 教師の日常
1 教職の業務はどういった内容なのか?
2 教師の仕事の特徴はなんだろうか?
3 教師はいつ学ぶのか?
6 教える教師の課題
1 多様性の時代に知と教育をどう捉えるか?
2 学習の多様性とは?
3 学習環境をどのようにデザインするか?
7 キャリア教育をふまえた生徒指導の展開と教師
1 教師は教科指導だけすれば十分なのか?
2 社会で生き抜く力を身につけさせるために教師が行う指導とは?
3 教師が児童生徒に寄り添うとはどういうことか?
8 教育格差に向き合う教員たち-教育の公正のための教職論
1 教員格差とは何か―教育格差と教員の役割?
2 〈しんどい学校〉とは―教育格差に向き合う教員たち?
3 教育の公正をめざす教員の専門性とは何か?
9 Society 5.0における学校と教師
1 ICTの導入により学校や子どもの学びはどのように変わるのか?
2 これからの社会を生きる子どもに求められる情報活用能力とは?
3 Society 5.0に向けて求められる教師の資質・能力や役割とは?
10 地域・保護者とコラボレートする教師
1 学校で教育を行うのは教師だけか?
2 身近なモノとヒトとが学びになるとは?
3 誰とコラボレートするのか?
■第3部 理想の教育を実現するために
11 「教職に就く」ということの基本―教職の本質と組織のなかの教師
1「教職に就く」ということは何を担うことを意味するのか?
2 教職の信頼はどのように確立されているのか?
3 教職にはどんな危険性があり,どのような学びが必要になるのか?
12 教育実践の更新―反省的実践家としての教師
1 「教育実践の更新」はいかに進められるのか?
2 「教育実践の更新」の何がむずかしいのか?
3 「教育実践の更新」においてほかの教師との協働がなぜ必要か?
13 問われる献身性と働き方の再構築
1 教職の魅力と教員の献身性をどのように捉えるか?
2 献身性をめぐる現代的課題とは?
3 教員の「献身性」とその背後にあるものは何か?
14 教師による教育研究
1 研究能力は教師に必要な専門的能力か?
2 なぜ教師が教育研究をしなければならないのか?
3 教師に期待される教育研究はどんなものだろうか?
15 未来に開かれた教師の仕事と発達
1 教職は,国内外においていかなる職業として合意形成されているのか?
2 教師はどのようなことを契機として発達を遂げていくのか?
3 教師としての発達と力量形成を支え促していくためには,どのような条件・環境整備が必要なのか?
おわりに―教師の言葉に学ぶ
前書きなど
はじめに―教職をめざす人のために
本テキストは,21世紀の日本社会を担う主権者を育てる教職という仕事について,その実際と課題をわかりやすく解説することを目的としている。
その21世紀も,はや四半世紀近くとなった。そしてその四半世紀近くの年月は,いま教職について学んでいる大学生たちの誕生から今日までの成育の舞台でもある。同時にその年月は,国内外の老若男女を問わず,すべての人々の生活にとって,歴史的な大波にさらされた激動の時代でもあったし,今後もなおいっそうその激しさを増していくことが予測される。
第二次世界大戦後の国際社会を支配してきた「東西冷戦(社会主義国と資本主義国の対立)構造」は1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連邦崩壊によって幕を閉じ,戦後日本の国内政治を支配してきた「55年体制(1955年以来続いてきた自民党と社会党いう2大政党による政治体制)」もまた1993年に細川連立内閣誕生によって崩壊する。そうした1990年代における大きな変化を契機に,以後2000年代に入ってからはさらなる大きな激動が起こっている。国際社会は民族・宗教にかかわっての地域紛争とテロ行為が,日本社会では多様な政党が離合集散を繰り返しながら国際情勢に引きずられる形で軍備増強・憲法改正への動きが,それぞれ激しくなってきているのである。
そうしたいわば人間界における変化だけでなく,自然界においてもさまざまな事象が発生し,私たちの生活と生命を脅かすまでになってきている。しかもそれらはたんに自然災害というよりは,人間界における営みが大きくかかわり,生み出してきてしまった人災ともいうべき出来事である。たとえば,地球温暖化と異常気象,地震や津波や豪雨とそれに誘発された事件・事故,原発事故による地域汚染と生活破壊などはその象徴ともいえる出来事である。
そして,上述のような人間界と自然界に生じた出来事において,いつも被害者となるのは,社会的弱者であり,子どもたちである。
教育政策としては,学習指導要領上の方針として,1960年代を中心とした高度成長期のいわゆる「教育の現代化」路線から,それらの諸政策が生み出してきた「公害」や「受験競争」の激化,子どもたちのなかの「非行」や「落ちこぼれ」の増加といったことを背景として,社会全体の「低成長」期への移行とともに教育もまた1977―78年学習指導要領改訂によっていわゆる「ゆとり教育」
路線への転換がはかられ,その後1989年改訂,1998―99年改訂によって同路線はいっそう強化されつつ約30年間続けられていった。
それが再び大きく転換されることになったのが2008―09年改訂であり,いわゆる「脱・ゆとり教育」路線の登場である。学習量や学習時間が減った「ゆとり教育」路線の下で学校教育を受けてきた世代が「ゆとり世代」と揶揄されたのに対して,現在の大学生の多くは「脱・ゆとり教育」路線下の学校教育を受け育ってきた「脱・ゆとり世代」となる。変化が激しく,複雑で多様な要因が絡んだ社会的問題が生じてくる時代を迎えているとの認識から,学習量や学習時間の増加と同時に,たんに多くの知識を獲得することだけではなく,学習した知識をもとにした「応用力活用力」までも獲得することが求められるようになった。学校において獲得した知識は急速に日々更新されていき,かつ問題解決策として何が正解かということも一義的に確定しがたくなってきている時代状況に対応するためには,「リテラシー」や「コンピテンシー」といった国際的な学力調査(たとえば,PISA やTIMSS)において国際標準化が図られている「21世紀型学力」なるものの育成,そのために「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業が必要であると喧伝されてきているのである。しかしその一方で,家庭の経済的文化的背景要因に規定された「学力格差」「学力の二極化」が子どもたちのなかで進行し拡大しきている。
くわえて,産業界などから教育界に向けて盛んに発せられる「Society5.0」未来社会構想と「未来の教室」論議が進んでいる。さまざまなデジタル機器やAI(人工知能)を活用した新しい学習活動形態が提唱され,教科書ひとつとってもデジタル教科書はすでに(2019年度から)使用可能となっており,タブレットPC の貸与による教室・自宅でのオンライン学習などもまたコロナ禍のなかで準備も不十分なまま政策的に前倒しされ急速に推進されてきている。
そのような学習指導面での改革が進む一方で,生徒指導面・心の育成面でも1つの傾向が次第に色濃くなってきている。それは,敗戦後,日本国憲法施行の1947年に公布された教育基本法がおよそ60年の時を経て2006年に初めて「改正」され,それに伴って学校教育法もまた「改正」されたことである。その「改正」教育基本法には「第2条(教育の目標)」が新規追加され,そこに「態度目標」的性格の5項目が明記された。とりわけその第5項目は,「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,…」との文言であり,それと連動させて学校教育法においても「第21条義務教育の目標」の見直しが行われ,「…我が国と郷土を愛する態度を養うとともに,…」といった文言が明記されたのである。さまざまな日常生活経験のなかで自然に多様に自己形成されていくべき心の内面が,法律によって規定され,国家・公教育という学校学習経験のなかでその達成程度の評価を伴って意図的促進的に育成されるもの,となったのである。敗戦後の日本の学校教育では,戦前の修身科の反省から国家・公教育による教科書や評価を伴っての子どもたちの心の内面に対する直接指導は廃止されたが,1958年学習指導要領改訂における「特設道徳」時間としての復活から,およそ半世紀を経て,2015年同上一部改訂による「特別の教科道徳」の登場にまで回帰してきたのである。同時に,道徳教育の強化ばかりでなく,教科学習の内容にも変化をもたらしていった。たとえば,国語科は古典に関する指導が,家庭科は和楽器を含めた日本の伝統的な音楽や歌唱の指導が,それぞれ強化され,体育科(中学)は武道(柔道・剣道・相撲・なぎなた等種目)の男女必修化が行われたのである。
しかしその一方で,子どもたちのなかでの「いじめ」「不登校」「発達障害等」,家庭における「(相対的)貧困」「児童虐待」などのさまざまな問題が増加・深刻化してきている。市場原理重視の「新自由主義的改革」推進の下で,学校・教師に対する保護者・地域住民たちの視線・態度も,「教育=サービス産業」論が喧伝されるなかで,互いに協力・協同して子どもたちの育成に当たるというよりは,あたかもサービス提供者=学校・教師に対する消費者=保護者・地域住民であるかのような関係の下で,一方的で個人主義的な要求とそれへの対応を迫り,ときには理不尽さを伴う無理難題要求さえも突きつけるというような方向へと変化してきている。「モンスターペアレント」といった用語に象徴されるような現象が生み出されてくる。
こうした学習指導と生徒指導の両面で,次々と迫りきて対応が求められる,教育政策の激しい変化と,子どもたちや保護者・地域住民における深刻かつ多あえ様な変化の状況下で,学校・教師たちもまた喘いでいる。
教師に対する管理政策も進み,2000年代に入ると,「児童又は生徒に対する指導が不適切」であり,研修等必要な措置が講じられたとしても「指導を適切に行うことができないと認められる」場合,教員以外の職種に配置転換できることや,「指導改善研修」の実施を義務づけ,それでも改善がされない教員に対しては「免職その他の必要な措置を講ずる」ことができるような法改正(2001年地方教育行政法や2007年教育公務員特例法の一部改正)が実施された。
また教員評価制度も全国的に導入が進められてきている。多くの教員評価制度は,評価の目的として「職務遂行能力の開発」と「職務業績の評価」という2つがあげられているが,後者の目的が前面に出て,評価結果を賃金や昇進など待遇条件の決定にまで結びつけようとする傾向が強まってきている。そこでは,教員の仕事を評価する基準や手段(評価者の評価能力も含む)の客観性と評価する過程や結果の透明性とが問題となっている。さらに,2009年度から施行された教員免許更新制は2022年には「教員不足」状況の発生・悪化を背景として廃止されることになったが,それに代わって,2023年度からは「研修等に関する記録」の作成や毎年度の期首・期末における管理職との面談などが義務化されることになった。生涯にわたっての現職研修もまた,教育専門職者として自己形成していくための「権利としての研修」から各自治体等が定める「教員育成指標」に即した「義務としての研修」へと性格が変わりつつある。
学校現場の「長時間過密労働」問題と教員の「メンタルヘルス(精神疾患等による病気休職者の増加)」問題が社会問題化し,マスコミなどからは「学校はブラック職場」などといった言葉さえも投げつけられている。
「長時間過密労働」問題については,直近の2022年度実施(2023年4月28日速報値公表)の結果によれば,「働き方」改革の一環としての取り組みが動き出しているものの,「依然として長時間勤務の教師が多い状況」であると報告されている。現在,「働き方」改革として,「業務の見直し」や「一年単位の変形労働時間制」の実施,さらには教育労働の特殊性に鑑み残業手当ではなく一律4%の手当支給(「教職調整額」)という給与システム自体の見直し議論(しかし行政府や政権政党における議論はシステムの撤廃という方向ではなくシステムを維持したうえでの増額という方向での見直し議論)も始まっている。「メンタルヘルス」問題については,2023年7月に公表された学校教員統計調査の中間報告(速報値)の結果によれば,2021年度に精神疾患を理由として退職した公立小・中・高校教員の数は統計を取り始めた2009年度以降で最多を更新した。
以上のように時代の変化を捉えていくと,マスコミなどが盛んに強調するように,学校・教職は「ブラックな職場・労働」であるかのようなイメージばかりが膨らんでいく。そして教職課程履修学生数や教員採用選考試験受験者数の減少という若者の「教職離れ」も生まれはじめている。しかし,それでも教職を選択する若者は多い。それは,たんに子どもが好きであるとか,恩師との楽しい思い出の世界に惹かれてとか,あるいはほかの職業よりも安定した給与と身分保障があるから等々といった次元を超えて,次第に厳しくなる管理・統制や次第に複雑さ・多様さを増している学校・教師・子どもの現状をしっかりと認識したうえで,それでもなおそれらの状況改善を志向しつつ,子どもの成長にかかわり,子どもの成長を支え促していく仕事にやりがいと生きがいを感じ,そうした仕事に従事するなかで自らもまた教育専門職者として,人間として成長していくことを追求したいと考えているからである。
本書は,そうした教育実践遂行上のたくましさとしなやかさとを有した若い「未来の教師」たちが,養成・採用・研修と続く40年余りにわたって,教育専門職者にふさわしい発達と力量形成を遂げていくために,教育学的な知見と展望を提示し,学習の一助となることを切望している。 2023年10月 編者 山﨑準二・紅林伸幸
上記内容は本書刊行時のものです。