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地理教育論社会科教育論の多角的探究 山口 幸男(著者) - 人言洞
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地理教育論社会科教育論の多角的探究 (チリキョウイクロンシャカイカキョウイクロン ノ タカクテキタンキュウ) ―4人の考え方― (ヨニン ノ カンガエカタ)

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発行:人言洞
A5判
縦210mm 横148mm 厚さ16mm
重さ 380g
232ページ
価格 2,800円+税
ISBN
978-4-910917-06-1   COPY
ISBN 13
9784910917061   COPY
ISBN 10h
4-910917-06-3   COPY
ISBN 10
4910917063   COPY
出版者記号
910917   COPY
Cコード
C3037  
3:専門 0:単行本 37:教育
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年6月30日
書店発売日
登録日
2023年4月5日
最終更新日
2023年6月28日
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紹介

 本書は、地理教育・社会科教育の研究・実践を積み重ね探究しつづける4人の研究者が、それぞれの研究テーマを中心に取り上げながら、地理教育論社会科教育論について今日的な状況を鋭く捉えて論考する。
 いずれの論考も4節構成で多角的に展開し、研究における基礎的な理論及び学術論争等を取り上げつつ探究するとともに、今後に向けた課題や展望までを提示している。
 地理教育・社会科教育を志すものにとって、欠くことのできない基本知識・情報を修得すると共に、自身の考えを広げ、さらに深めるための貴重な視座に満ちた好著である。

目次

 はしがき―4人の論考についての解説を含めて―
第1章 領土,ソ連解体,地政学[山口幸男]
 第1節 わが国における領土教育論に関する考察―「領土軽視・否定論」批判―
 第2節 ソ連解体と地理教科書記述の変化―イデオロギーの転換と教育指導のあり方―
 第3節 戦後における地理教育と地政学
 第4節 私の地理教育論―草原和博の地理教育論の問題点―
第2章 地球的課題克服への「地理教育の役割」を考える[西岡尚也]
 第1節 「核兵器禁止条約(TPNW)」の地理教材化の試み
 第2節 「脱亜論」からスタートする世界地誌の実践
 第3節 新教科「地理総合」で地球的課題はどう教えればよいのか―新学習指導要領の「大観し理解する」の考察―
 第4節 私の考える社会科教育論―何のために社会科を教えるのか―
第3章 道徳教科化時代の社会科教育と道徳教育[伊藤裕康]
 第1節 道徳授業の質的転換への社会科教育の役割
 第2節 質的転換を図る道徳授業実現のための教科書教材の批判的検討
 第3節 道徳教育の問題点の解決と社会科における価値教育の歩み
 第4節 私の社会科教育(社会系教科教育)論―価値観形成を図り合理的意志決定を行う教育を!―
第4章 小学校社会科カリキュラム論の探究[佐藤浩樹]
 第1節 小学校社会科カリキュラムにおける地理の基盤性―F. W パーカーのカリキュラム論の検討を通して―
 第2節 小学校社会科カリキュラムにおける「日本の歴史」の内容構成と位置づけ
 第3節 児童期の身近な地域における場所体験の人間形成的意味
 第4節 私の地理教育論―地域イメージ,社会参画―

前書きなど

はしがき―4人の論考についての解説を含めて―
 本書『地理教育論社会科教育論の多角的探究―4人の考え方―』は,4人の著者によるそれぞれが50~60頁程度の論考を集成した単行本である。単行本の最も一般的な形態は1人の著者が全編を執筆する単著であり,著者の考え方を深く理解することができる。いっぽう,10数人の著者がそれぞれ短い論考を執筆し,それらを集成した論文集的なものもかなり出版されている。そこでは,各著者の考え方を深く知ることはできないものの,多くの著者を比較検討し,多面的に考えることができるという長所がある。本書は,両者の中間に位置している。1人の執筆分量が長いので,著者の考え方をある程度深く知ることができる,また,著者4人の比較を通して地理教育論社会科教育論を多面的に考察することができる,という長所がある。本書の執筆者は地理教育論に関心をもつ者であるが,社会科教育論にも関心をもち,本書の内容にも地理教育論に収まりきらないものが入っている。内容的には現代社会の諸課題や理論的観点が考慮されている。各章の最後の節(第4節)には,各著者の考え方を一層理解してもらえるように「私の地理教育論社会科教育論」という類いの補論的な論考を共通的に取り上げた。以上のように本書は,著者4人がそれぞれの考え方のもとに「地理教育論社会科教育論」を探究したものである。そこで,本書の書名を『地理教育論社会科教育論の多角的探究―4人の考え方―』とした。
 本書刊行にあたって,私(山口)が各論考の特徴を解説することになったが,各論考を的確公平に解説することは容易なことではなく,主観的なものが入ることは避けられない。それを回避するには,各論者がそれぞれに各論考を比較論評する小論を同時掲載するのがよいのだが,これも現実的にはむずかしかった。そこで,主観が入ることもやむを得ないという前提のもとに,以下,各論考の特徴について私なりに解説してみたい。その際,各論考の内容のすべてを取り上げるのは困難である。そこで,「価値・思想・イデオロギー」という観点に焦点をおいて解説することにした。「価値・思想・イデオロギー」は,各論考に通底するキーワードであると判断したからである。
 西岡尚也(第2章)は,地理教育の第一目標は「正しい世界観(世界認識)」の形成であり,21世紀の地理教育では過去の「誤った世界観」を「改善」する必要があると述べる。そして,今日最も必要な世界認識は,国家(国益)を超えた「地球市民意識」(地球益)の形成であるとして,「核兵器」「脱亜論」「宇宙からの視点」を取り上げて論じている。大学生に「核兵器禁止条約」に賛成か反対かの調査をしたところ,多い意見は,「当事者である核兵器保有国(9カ国)がいずれも批准していないので,条約には実効性がない」というものであった。にもかかわらず,西岡は,「私たちはこの条約のもつ人道的かつ人類的な側面への理解をさらに深め,支持を拡大するための行動をスタートしなけ
ればならない。それが世界で唯一の戦争被爆国の社会科教員の役割であると私は考えている」と述べている。ここでいう地球市民意識とは平和という普遍的価値の意識というものであろう。今の大学生の実態がそのようではなくても,その意識を育成していく教育をしていかなければならないという強い信念が西岡にはあると思われる。「地球市民」の育成という考え方は,今日流行し多くの論考があるが,そのなかで,西岡のいう「平和を目指す地球市民」はどのように位置づけられるだろうか。
 西岡が,目指す人間像として国家を超えた地球市民意識の育成を掲げたのに対し,山口幸男(第1章)は国家・国民,ナショナリズムが最も重要な思想・イデオロギーであるとする。「地球市民」というのは,その制度的基盤・組織的基盤を欠いた現実には存在しないいわば夢想的な人間像であるのに対し,国家・国民,ナショナリズムは,人々が安全に安定的に暮らすことができる最も重要な現実的枠組みであり,自己の存在意義,アイデンティティが実感できる思想・イテオロギーであると述べる。その上に立って,領土問題,ソ連解体,地政学を取り上げ考察している。西岡と山口の違いは,グローバリズム(コスモポリタニズム)とナショナリズムの違いともいえよう。国家・国民,ナショナリズムという思想,イデオロギーは,戦後のわが国においては忌避されタブー視されてきたものであった。山口論考はそのタブーを打ち破ろうとする論考といえよう。
 伊藤裕康(第3章)は,社会科教育における価値・価値観の重要性を強調する。同時に,ある特定の価値・価値観の注入になってはならず,価値・価値観を多面的・多角的に考察することが大事であると述べる。子どもの価値観はさまざまであり,そのことを大切にしなければならないという考え方によるものであろう。伊藤が,「社会科の初志の会」「提案する社会科」を高く評価しているのはその現れといえよう。他方で伊藤は,自由,平等,正義,人権などの普遍的な価値があるともいっている。また,子どもがある価値観に偏している場合は,その価値観を移動させるような指導をすべきだともいう。このことは,教師の頭のなかに特定の価値観が存在していることを示すものであり,多様な価値観の尊重とどのように整合しうるのだろうか。伊藤は,その解決のために「合理的意志決定」が大事であると考えているようである。伊藤はまた,「すでにあるもの」という捉えから,「つくりだすもの」でもあるという捉えへ拡張すべきとする。それは「自分自身も社会に参画し,役割を担っていくべき立場にあることを意識させることである」と述べている。そして,「すでにあるもの」は「国民」という観点であり,「つくりだすもの」は「市民」という観点であると述べている。この点では西岡の「地球市民」にも結びつくといえる。
 佐藤浩樹(第4章)の論考は,小学校社会科カリキュラムの構成原理を探究するもので,空間(地理)的な枠組みを基盤におくことによって,同心円的拡大主義を小学校社会科カリキュラムの原理として再評価しようとしている。そのなかで,歴史的内容をどう位置づけるべきかについても論じている(第2節)。「価値・思想・イデオロギー」とは無関係のようにみえるが,同心円的拡大カリキュラムを,地域社会(身近な地域),国家社会,世界という空間的な枠組みの統合性を重視する地理的空間的な価値観であると捉えるならば,自由,平等,平和などの普遍的価値の重視という価値観とは異なるものといえよう。もっとも,佐藤論考自体はそのようなことまで論及しているわけではない。また,佐藤は第3節で,現在(大学生)の自分らしさには小学校時代の場所体験が少なからぬ影響を及ぼしていることを実証的に明らかにした。これは,人間形成における「身近な地域」「場所」「郷土」「真正な社会」などのもつ重要性,すなわち教育的意義を指摘したものとして注目できよう。その上に立って,「地理学習の最終目標は地域に対する主体的関与の態度であり」,学習論的には「社会参画的地理学習」であると述べている(第4節)。社会参画学習の重要性は伊藤も論じたところである。
 以上のほかに,「価値・思想・イデオロギー」を排除しようとする社会科教育論がある。一見,価値中立的にみえるものの,「価値・思想・イデオロギー」
の排除自体が,自然科学主義・科学主義という「価値・思想・イデオロギー」を内包している。本書では残念ながらこれについては取り上げることはできなかったが,第3章の伊藤論考は多少関係し,第1章山口の第2・4節で少し触れられている。また,社会科教育実践者の多くは学習指導要領を基盤としていて,「価値・思想・イデオロギー」とは関係がないようにみえる。しかし,突き詰めていくと,教師は何らかの「価値・思想・イデオロギー」的基盤をもって指導にあたっているはずであり,そのことを自覚することが大事なのではなかろうか。
 以上,本書の各論考の特徴を私なりに解説した。すでに述べたとおり,私の主観が入ったものになったが,あくまで1つの参考としてお読みいただければ幸いである。読者各位が,著者4人の考え方について比較考察され,地理教育論社会科教育論の根底に存する価値・思想・理論・内容等の多様性に思いを致してくれるならば,本書刊行の意図は果たせたことになる。そのようななかから,わが国の地理教育論社会科教育論が一層発展していくことを願うものである。
 最後に,本書の出版編集に当たっては人言洞会社代表の二村和樹氏にお世話になった。ここに記して感謝御礼申し上げます。
 令和5年3月  山口幸男

著者プロフィール

山口 幸男  (ヤマグチ ユキオ)  (著者

群馬大学名誉教授。1946年,茨城県生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程社会科教育専攻修了。教育学修士。主要著書:『社会科地理教育論』(単著,古今書院2002)。『地理思想と地理教育論』(単著,学文社2009)。『地理教育の本質―日本の主体的社会科地理教育論を目指して』(単著,古今書院2022)。

伊藤 裕康  (イトウ ヒロヤス)  (著者

文教大学教育学部教授,香川大学名誉教授。1957年,愛知県生まれ。兵庫教育大学大学院教育学研究科教科・領域教育専攻社会系コース修了。博士(文学),教育学修士。主要著書:『社会科教育のリバイバルへの途―社会への扉を拓く「地域」教材開発』(編著,学術図書出版2022)。『憧れ力を育む授業の構想―とびだせ生活科!地域へ!未来へ!総合的な学習へ!』(単著,溪水社2001)。『「提案する社会科」の授業5 出力型授業づくりへの挑戦』(単著,明治図書1997)。

西岡 尚也  (ニシオカ ナオヤ)  (著者

大阪商業大学公共学部公共学科教授。1958年,京都府生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業,佛教大学大学院教育学研究科修士課程修了,関西大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学,教育学修士。京都府立高等学校教諭,琉球大学教育学部教授を経て現職。主要著書:『開発教育のすすめ―南北共生時代の国際理解教育』(単著,かもがわ出版1996)『子どもたちへの開発教育』(単著,ナカニシヤ出版2007)ほか。

佐藤 浩樹  (サトウ ヒロキ)  (著者

神戸女子大学文学部教育学科教授。1963年,群馬県生まれ。上越教育大学大学院学校教育専攻科教科・領域教育専攻社会系コース修了。教育学修士。主要著書:『地域の未来を考え提案する社会科学習』(単著,学芸図書2006)。『小学校社会科カリキュラムの新構想―地理を基盤とした小学校社会科カリキュラムの提案―』(単著,学文社2019),『テキスト初等社会科』(共編著,学文社2019)。

上記内容は本書刊行時のものです。