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量子力学 Ⅰ
行列力学入門
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年12月17日
- 書店発売日
- 2023年12月17日
- 登録日
- 2023年10月27日
- 最終更新日
- 2024年10月19日
紹介
この1冊で、量子力学がいかに建設されたのかが、わかる
20世紀物理学の最大の成果とよばれている量子力学。多くの研究者が未踏の分野に手探り状態で挑戦した。そして、ハイゼンベルクらの発想によって一条の光がさす。それが行列力学であった。
いまでは、量子力学は波動力学で記述され、行列力学を扱う教科書もほとんどなくなった。しかし、行列力学で培われた概念は、現在も脈々と生きている。
本書は、その内容を知ることができる貴重な一冊である。
目次
はじめに ·········································· 3
第1 章 量子の波動性 神の方程式 ···················· 9
1. 1. 量子の世界の式 9
1. 2. オイラーの公式 11
1. 3. オイラーの公式の導出 12
1. 4. 複素平面と極形式 15
1. 5. 回転運動と波動性 17
1. 6. 周回積分 21
1. 7. 複素フーリエ級数展開 23
補遺1-1 電子波とexp{i (kx-ωt)} 27
補遺1-2 級数展開 30
補遺1-3 フーリエ級数展開 33
第2 章 原子の構造と電子軌道 ······················· 37
2. 1. 線スペクトル 39
2. 2. ボーアの原子モデル 43
2. 3. ボーアの量子条件 46
2. 4. 電子の2 面性 51
補遺2-1 角運動量 54
補遺2-2 ゾンマーフェルトの量子条件 59
第3 章 電子の運動 古典論から量子論へ ·············· 63
3. 1. 円運動と単振動 64
3. 2. 古典論による電子の運動解析 68
3. 3. 量子論への第一歩 77
3. 4. 位相空間と作用変数 79
第4 章 行列力学の夜明け ··························· 85
4. 1. 電子軌道と遷移 86
4. 2. 電子波の関数 88
4. 3. 行列 90
4. 4. 行列力学 93
4. 5. エルミート行列 96
4. 6. 量子条件 100
4. 7. 正準交換関係の導出 105
4. 8. まとめ 110
第5 章 行列力学の建設 ···························· 112
5. 1. 行列演算 112
5. 2. 交換子 114
5. 3. ハミルトンの正準方程式 117
5. 4. ハイゼンベルクの運動方程式 123
5. 5. 行列力学の正当性 125
5. 5. 1. エネルギー保存の法則 125
5. 5. 2. ハミルトニアンに対応した行列 126
5. 5. 3. ボーアの振動数関係 127
5. 6. まとめ 129
第6 章 行列力学の成功 調和振動子の行列力学 ······· 130
6. 1. 単振動に対応した行列 130
6. 2. 正準交換関係 135
6. 3. エネルギーに対応した行列 145
6. 4. まとめ 149
第7 章 固有値問題 ································ 151
7. 1. 行列力学の手法 151
7. 2. 汎用性の高い手法 155
7. 3. エルミート行列の対角化 158
7. 4. 行列力学におけるユニタリー変換 165
7. 5. 固有ベクトルと固有値 167
7. 6. 単振動における固有ベクトル 170
7. 7. 物理量と固有値 172
7. 8. 行列の非可換性 172
7. 9. 波動力学への系譜 174
第8 章 水素原子への挑戦 ハイゼンベルクの挫折 ····· 175
8. 1. エネルギー行列 175
8. 2. 位置行列 176
8. 3. 運動量行列 178
8. 4. 水素原子の行列力学 178
8. 5. 行列力学を越えて 180
8. 6. ハイゼンベルク表示とシュレーディンガー表示 182
おわりに ········································· 185
前書きなど
はじめに
20 世紀初頭、ラザフォードらの功績により原子の構造が明らかとなった。中
心に正に帯電した原子核が存在し、その周りを負に帯電した電子が、電子軌道を
回っているという構造である。しかし、電磁気学によれば、円運動している電子
(正式には加速度運動している電荷)は、電磁波を発生して次第にエネルギーを
失い、原子核に沈むはずである。ミクロの世界である原子内の電子の運動では、
この法則が破綻しているようなのだ。かくして、人類は新しい電子の動力学を構
築する必要に迫られたのである。
その過程で、多くの奇妙なことが明らかとなっていった。ひとつは、粒子と考
えられている電子に波の性質があることである。そして、安定な電子軌道は、電
子波の波長の整数倍の長さを持つことなども明らかとなった。これらは大きな成
果であったが、電子の運動の本質は謎のままである。
そして、多くの研究者が、電子の正体も含め、原子内の電子の運動の解明に挑
戦するのである。それは、まさにゼロからのスタートであり、苦難の道であった
が、それが21 世紀最大の成果と呼ばれる量子力学の建設につながったのである。
ハイゼンベルクとボルンらは、原子から発生する光のスペクトルをヒントに、
その運動を記述する方程式を提案する。しかし、それは、物理量が行列になると
いう奇妙なものであった。それでも、解析力学の形式を基礎としながら、物理量
が行列からなる行列力学を構築していくのである。その過程は、未踏分野に挑戦
する研究者たちの記録としても興味深い。
そして、ハイゼンベルクらが構築した行列力学は、単振動の解析において大き
な成功を収める。これに自信を深めた彼らは、水素原子の電子軌道の解明にとり
かかるのである。しかし、それは困難を極めた。
そこへ、シュレーディンガーによる波動力学が登場する。そして、電子の運動
を記述するシュレーディンガー方程式によって、水素原子内の電子軌道が、いと
も簡単に解明されてしまったのである。やがて、行列に基礎を置いた量子の行列
力学は、すべて波動力学に書き換えられていったのである。
いまでは、行列力学を扱う教科書は見かけなくなったが、ハイゼンベルクやボ
ルンたちの挑戦は、量子力学の夜明けを飾る金字塔である。本書では、その歴史
を振り返る。いまや、量子力学の主流はシュレーディンガー方程式であるが、行
列力学で培われた量子の世界の描像は、示唆に富んだものであり、波動力学にも
重要な影響を与えており、行列力学の理解なくして量子力学の理解はないという
ことを付記しておきたい。
2023 年 冬
著者 村上雅人、飯田和昌、小林忍
版元から一言
この1冊で、量子力学がいかに建設されたのかが、わかる
式の導出過程をいっさい省略しない
高度な数学手法を使う場合には、詳しい補遺を付記
読者をじっくりと理解へ導く
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。