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ケアのプロフェッショナルの空間
フランスと日本
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年12月20日
- 書店発売日
- 2022年1月15日
- 登録日
- 2021年12月28日
- 最終更新日
- 2022年2月9日
紹介
本書『ケアのプロフェッショナルの空間』は,ケアのプロフェッショナルのコーディネーションを中心として,フランスと日本の社会的コンテクストにおいて国際比較を行なった結果である。本書の国際比較は,21世紀はじめから10年以上にわたって日仏の研究者の協働により実施された調査に依拠し,フランスと日本の6名の研究者の協働の作業を,山下りえ子(東洋大学法学部教授)が編集した。
フランスでは,キュアとケアの病院中心主義(hospitalo-centrisme)が問われてきた。それゆえにこそ,訪問看護師の活動は,日本より顕著である,といえる。一例として,南フランスのニースを中心とする地域では,キュアとケアとの境界をとりはずし,医師,看護師,介護士のプロフェッショナルの協働を試みている。
今日,COVID-19への対応において,病床不足とその解消が課題となっている。現場での知見の蓄積を今後も収取分析しながら,私たちに新しい発想での提案は可能だろうか?
目次
はじめに 山下りえ子
プロローグ パリ公立病院での実験 マリーズ・ブーロンニュ=ガルサン
継続教育から管理のチームへ/1988年=ケアする人々の承認の年/ニューヨーク市の貧困,エイズの感染,そして高齢化/クリニカル・ナースの役割/ニューヨークからパリへ/痛みのエキスパート/大学による研修の承認/看護師のコンサルテーション/「ポール」の形成
序論 どのように「ケア」を促進するか コリーヌ・グルニエ
閉ざされた医療システムに対する「いっそうのケア」:多様なプロフェッショナル,多様な組織間のコーディネーションの必要性/「いっそうのケア」のためのイノベーション:2つの事例/展望:コーディネーション
第1章 組織のコーディネーション
1.キュアとケアの再統合―多様なケアの組織化をめぐって 原山 哲,山下りえ子
近年のフランスにおける政策の鍵「ケアの社会」/ヘルスケアシステムの転換/病者を受け入れる―ストラウスとコービンの提案/多様な医療(キュアとケア)からなる組織の必要性/キュアとケアの実践に求められるコーディネーター/高度実践看護師について/
2.医療における資源とニーズをめぐって―フランスの地域医療計画から 山下りえ子,原山 哲
「医療崩壊」と公共の行動/際限のない医療ニーズへどう対応するのか/フランスにおける地域医療/病院のグループ化のプロジェクト/医療プロフェッショナル間の境界を超える連携へ
第2章 ケアのフェミニズム 原山 哲
1.関係と組織
遅れて来たケアのフェミニズム/「聞く」こと,「話す」こと/地域でのケアする人々の組織形成
2.北フランスのケアのネットワーク(1)医療費抑制策
地平線の集落/1か月未満の在宅ケア/「おひとりさま」の在宅ケア
3.北フランスのケアのネットワーク(2)在宅ケアのコーディネート
在宅ケアの組織化/コーディネーターの役割
4.女性の社会活動
修道会の女性たち/コミュノーテからアソシアシオンへ/第3セクターとしてのケアの活動
第3章 看護師のキャリア 離脱と発言の妥協をめぐって マリーズ・ブーロンニュ=ガルサン,コリーヌ・グルニエ,フィリップ・モッセ,原山 哲,川崎つま子,山下りえ子
2つの日仏比較調査/フランスの看護師:退出に対する救済としての発言/日本の看護師:やむをえない退出,受容される忠誠/社会的コンテクスト:プロフェッションから家族への退出は,なお問われているか
第4章 高度実践看護とは? マリーズ・ブーロンニュ= ガルサン,コリーヌ・グルニエ,フィリップ・モッセ,原山 哲,川崎つま子,山下りえ子
高度実践看護師の現状とサンプリング/家族生活との両立と継続教育/フランスと日本におけるキュアとケア/フランスと日本における不確実な空間への投企/プロフェッショナルの空間
第5章 ケアのメゾ経済社会 フィリップ・モッセ
1.評価の文化の生成
フランスと日本の医療システム/マクロ経済社会の視点からの施策:ケアの質,アクセスの公平性,費用の抑制/効率性のミクロ経済の視点
2.ジェンダーの境界からの解放
看護師のキャリアと実践の多様性/キュアとケアの統合―役割拡大,ネットワーク/メゾ経済の効率性
3.高度実践看護師の発展の条件
結論にかえて-フランスと日本におけるケアの境界 原山 哲
あとがき 山下りえ子
前書きなど
「はじめに」より
本書『ケアのプロフェッショナルの空間―フランスと日本』は,その大部分が,同じ著者らによる英語での著書を基礎とし,高度実践看護について法社会学,福祉社会学,社会経済学,看護学といった学際的視野から考察しようとしたものである。そして,医療における高度実践の看護とは何か,また,どうあるべきなのか,について,社会学の視野・方法を基軸に,社会的現実の多様性を考察しようとした。そのための方法は,フランスと日本の国際比較であり,「ケア care」にかかわる当事者である看護師へのインタヴュー,質問票による質的方法である。国際比較という異なる社会的コンテクストにおける調査研究においては,調査協力者とのラポール(関係)を重視できる質的方法が有効であると考えた。
今日の高齢社会においては,個別の疾患にかかわるキュアだけでなく,「人 persons」としての全体像にかかわるケア,すなわち他者への配慮は,さまざまな医療プロフェッショナルによる協働を不可欠とする。高度実践の看護 advanced practice nursing とは,キュアとケアとの再統合(すなわち,これまで以上の統合)であり,医師をはじめとするさまざまなプロフェッショナルの間の調整=コーディネーションcoordination を重視する活動にほかならない。フランスとの比較が,日本の高度実践看護師(ここでは専門看護師はむろん,認定看護師も含めて考えたい)のこれからの課題について考える機会となればと思う。
上記内容は本書刊行時のものです。