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neoコーキョー3 自宅の見えない力
あなたの自宅は、実際のところ、なにをしているのか?
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年7月31日
- 書店発売日
- 2025年7月18日
- 登録日
- 2025年5月8日
- 最終更新日
- 2025年7月18日
紹介
身の周りをフィールドワークするハンドブックシリーズ第3巻。
自宅がなにをしているか、具体的に考えたことはありますか?
――日々、あたりまえに過ごす「自宅」の見え方が変わる本。
“この本の制作を通して、ぼくは自宅のことを共に歩んでいく船のように感じるようになりました。漁師が信頼を込めて船を扱うように。SF映画の主人公が宇宙船に名をつけ、声をかけるように。”――(本文より)
・屋根はどのようにして雨水をはじき続けているのか?
・わたしたち水道ネイティブは、なにを失っているのか?
・自宅のない生活がはじまると「街」が自宅になる?
・自宅の内壁と外壁のあいだにはどのような空間がひろがっているのか?
・「トイレの水」は「キッチンの水」より汚いか?
多彩な連載陣による占い・漫画・絵巻物あり!
「自宅」にはわざわざ言葉にされない力がある。それはどのようなものか?
10本の記事で編んだドキュメント。
【目次】
はじめに|キッチンのピストル
対話
防水職人 杉田萌さんと話す
「屋根が受け止めているもの 屋根をメンテナンスする仕事」
寄稿
佐々木ののか|家がなくなり、街が家になった
インタビュー
建築家 山田伸彦さんに聞く
「建築家になる前と後で、住宅の見方はどう変わりましたか?」
エッセイ
編集部|インフラがあらわれた!
#1 二重の家
#2 水道ネイティブな私たち
#3 未明の屋根
#4 ガスが自動で止まる世界で
#5 家から離れていくこと
対話
美容室dollsと語る「美容室はインフラか?」
寄稿
新島汐里|靴を履く動物
創作
辻本達也|蛇の口先
コラージュ
hcy|いし、へび、まくら
マンガ
鮎川奈央子「ここ草っぱらキック」 第3話 猿に憧れている。かっこいいのだ。
占い&コラム
SUGAR「失われた世間を求めて」 第3回 ろくでなし
絵巻物
林丈二「ボクは林丈二の思考です」 第3回 ボタモチがどこから落ちてくるのか探っているときのアタマのなか
Booklink
目次
【目次】
はじめに|キッチンのピストル
対話
防水職人 杉田萌さんと話す
「屋根が受け止めているもの・屋根をメンテナンスする仕事」
寄稿
佐々木ののか|家がなくなり、街が家になった
インタビュー
建築家 山田伸彦さんに聞く
「建築家になる前と後で、住宅の見方はどう変わりましたか?」
エッセイ
編集部|インフラがあらわれた!
#1 二重の家
#2 水道ネイティブな私たち
#3 未明の屋根
#4 ガスが自動で止まる世界で
#5 家から離れていくこと
対話
美容室dollsと語る「美容室はインフラか?」
寄稿
新島汐里|靴を履く動物
創作
辻本達也|蛇の口先
コラージュ
hcy|いし、へび、まくら
マンガ
鮎川奈央子「ここ草っぱらキック」 第3話 猿に憧れている。かっこいいのだ。
占い&コラム
SUGAR「失われた世間を求めて」 第3回 ろくでなし
絵巻物
林丈二「ボクは林丈二の思考です」 第3回 ボタモチがどこから落ちてくるのか探っているときのアタマのなか
Booklink
前書きなど
キッチンのピストル
『neoコーキョー3 自宅の見えない力』を手に取っていただきありがとうございます。この本はタイトルの通り、見えにくくなっている「自宅の働き」を再発見していく本です。具体的な内容については、目次を眺めていただけたらきっと掴んでもらえるはずです。なので、唐突にはなりますがここでぼくが最も身の危険を感じた自宅のトラブルについて紹介します。
二〇二三年二月四日、ぼくは朝ごはんのために食卓に座っていた。犬が吠えていた。ぼくの背中側には食器棚があり、その向こうにキッチンがあるのだが、そちらに向かって吠えている。ご飯はまだかと言っているらしい。向かいでパートナが食パンをかじっている。いつもの朝のように、ぼくらはYouTubeでなんの動画をみるか話しているところだった。
バチィン! なにかを鋭く弾いたような、金属と金属が激しくぶつかったような音がした。反射的に、ぼくらは机の下に潜っていた。無意識に頭を手でかかえていた。何かに攻撃されているのではないかと思ったのだ。二人とも同じ姿勢で丸くなり、周りを警戒していた。
――何が起きた?
音がしたのはキッチンのほうだ。そろそろと机から出ていくと水が噴き出ていた。シンクから滝のように水が吐き出されている。勢いがすごすぎて水がどこから出ているのかわからない。水の噴出は弧を描き、シンクの正面にある食器棚まで届いていた。ぼくはそこにあったまな板を手に取って水をシンクまで押しもどした。食器棚はもう中まで濡れていたし、床は当然びしゃびしゃだ。
「外に行って家全体のバルブをしめてきて! いつも水道局のひとが見てるところにある!」
やってみる。そう叫んでパートナは玄関に走った。
ぼくはまな板をつかんだままだ。水は止まらない。まな板に当たって、とめどなくシンクに落ちていく。圧はずっと一定で弱まる気配がなかった。ただそんななか水の出どころらしき部分が水飛沫のなかで見えた。どうやら蛇口の根元のようだ。しかし、なぜ――。
「バルブまわしてきたけどどう?」
「まだ出てる!」
首だけでふりむいてそう返答しているうちに少しずつ水は弱まり、しばらくしてちょろちょろと漏れ出るだけになった。
蛇口が根元から外れていた。蛇口の二本ある脚のうち、右のほうが抜けていたのだ。それでぽっかりと、上水道の出口があきっぱなしになったらしい。しかし蛇口がなければ水はあんなにも強く噴き出てくるのか。ぼくは驚いた。それはつまり、キッチンの蛇口も、洗面所の蛇口も、風呂場の蛇口も、あれだけの水の圧力に耐え続けているということだ。どの蛇口も踏ん張っている。家のなかに、どこにも利用されることのないエネルギーが溜まっているところを想像した。
のちに原因が分かった。ネジの経年劣化だ。蛇口の根元を締めていたネジが劣化して水圧に耐えられなくなくなり、根元を手放してしまった。それであんな金属音がしたのだ。
いまでも食器棚の扉には、あのときかかった水の跡が残っている。
版元から一言
「考えたことなかった!」がここにある
『先入観をくつがえすハンドブックシリーズ』 neoコーキョー第3号です
上記内容は本書刊行時のものです。