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かみさまののみもの
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2024年7月30日
- 登録日
- 2024年6月11日
- 最終更新日
- 2024年6月26日
紹介
ささやかな願い、祈りを描いた7編の短編・掌編小説を収録した短編小説集。
アルコール依存症の父親とその息子を描いた表題作「かみさまののみもの」。
3つの掌編小説。
神話・歴史上の女性をめぐる連作「ヒュパティア」「ハトシェプスト」「クリュムタイムネストラ」。
2023年10月に私家版として文学フリマで刊行した書籍を2024年6月から商業出版として刊行。商業出版版から、帯に書き下ろし短編『はんしんのおみず』を収録。
目次
かみさまののみもの 02
掌編
毛玉から南極へ 10
レースのカーテン 12
ナメクジ 15
ヒュパティア 24
ハトシェプスト 33
クリュムタイムネストラ 45
あとがき 66
前書きなど
あとがき
なぜ小説・物語というフォーマットで文章を綴る習慣が自分にあるのか、あまり理由を考えたことがなかった。幼いころから読書を楽しむこととあわせてゴッコ遊びのときはストーリーを考えたかったし、自然と「うそっこばなし」、物語を書きつけることはお気に入りの行為で、習慣だった。その代わり、私は気が付いたら踊る、とか、気が付いたらサッカーをしている、ということはなかった。趣味嗜好は人それぞれだ。
一方で、作家という職業があることは知っていたけれど、すべてのサッカー少年がプロ選手を目指すわけではないように、書くことは趣味の範囲だった。しかし、物語を書く、ということは趣味としてはあまりメジャーではなく、一方で職業は知られているせいか「作家を目指しているのか/目指さないのか」ということを頻繁に聞かれるため、いつしか、この趣味はあまり人に話さなくなった。私の趣味がカバディだったら日本では「プロを目指しているのか」とは聞かれなかっただろうから、ある行為が社会的にどのように位置づけられているかということに過ぎない。私は私のためだけに書いていた。基本的には何か着想を得ると物語やキャラクターが勝手に湧いてくる感覚があり、それをスケッチするような気持ちで書き留めている。言語化することに手間取ることはあるが、発想ありきなので、アイデアが詰まるということはなく、一方でアイデアがない時は特に書きたいとは思わないし、無理して書くことはなかった(このあたりもプロを指向しなかった要因)。
しかし、ここ数年、「何か書いてほしい」という依頼を受けることや発表の機会があり、その際に少しずつ作品を発表していた。しかし「何か」と言いつつおそらく多くはエッセイ的なものが求められていて、「小説を書いてください」という依頼にこたえたわけではなく、「何か」だったら小説でもよいか、と依頼者に甘えて発表したものだ。
初出はそれぞれ次の通り。
「かみさまののみもの」(『ミスドスーパーラブ』トーキョーブンミャク、2022年、「ダブルチョコレート×ホットチョコレート」を改題)
「毛玉から南極へ」(『マルジナリア通信』vol.1、マルジナリア書店、2022年)
「レースのカーテン」(『マルジナリア通信』vol.5、2022年)
「なめくじ」(『マルジナリア通信』vol.2、2022年)
「ヒュパティア」(『わきまえない女たち』森田三枝子さん刊行のZINE、2021年)
「ハトシェプスト」(『反「女性差別カルチャー」読本』タバブックス、2022年)
「クリュムタイムネストラ」書き下ろし
「かみさまののみもの」はトーキョーブンミャクの西川タイジさんが「ミスドのZINEをつくりたい」という主旨のツイートをされた瞬間に物語が生まれた。「毛玉から南極へ」はその続きの断片であり、「かみさまののみもの」はどちらかという前日譚にあたり、その後のキャラクターたちによる長編が1本ある。
「レースのカーテン」は自宅のカーテンを猫に破られたときに生まれた。シロとシマはそのままうちの猫の当て書きだ。
「なめくじ」はさまざまな生物と民話、現代の人間の生活を絡めた連作長編の一部を独立させている。
「ヒュパティア」「ハトシェプスト」はフェミニズムのテーマを頂き、それをうけて今回書き下ろしの「クリュムタイムネストラ」とあわせて3作を一連のものとして、初稿を2021年にまとめて書いた。
今はなき渋谷の東急のプラネタリウムが好きで、子どものころから神話の本をよく読んでいた。おそらく『聖闘士星矢』も流行していた時代だったので、子供向けの読みやすい関連本も入手しやすかったのではないだろうか。残念ながら『聖闘士星矢』自体はあまり印象に残っておらず、立原えりかさんの書かれた子供向けのギリシャ神話などが印象に残っている。そこから次第に興味の範囲が時代や国を越えて、山岸凉子さん作品、氷室冴子さんの『なんてステキにジャパネスク』などで、神話や歴史を現代的なテーマを織り込んで書く、ということを学んだ。
あとから言い訳がましく恐縮だが、神話や歴史についてはあくまで創作の題材として扱っているため、ある程度は古典や研究書などを調べて記述しているが、神話の内容や歴史的状況、人々の考え方やふるまいを忠実に再現したものではないことはお許し頂きたい。その上で稚拙な部分は私の文責によるものである。
「クリュムタイムネストラ」は、もう少しじっくり中編・長編で書くか、あくまで戯曲的に書くか、表現に迷って何度か書き直している。正直に告白すると、このバージョンも決してこれで完璧とはあまり思っていない。まだ未熟さを痛感しているところだが、ほかの書きたい作品をすでに書き出していて、本作はお蔵入りか寝かせるつもりだったが、「ヒュパティア」「ハトシェプスト」「クリュムタイムネストラ」は3つあわせて発想されたものなので、この機会に発表することとした。
いまは子どもの物語を書いている。ミャンマーのクーデターからは2年が過ぎ、ウクライナ、パレスチナ、スーダン、世界情勢が不安定な中、直接的にも間接的にも子どもの犠牲がやまない。日本でも児童虐待や性加害のニュースが後を絶たない。支援活動は可能な限り携わっている。私が子どもの物語を書くことは、直接的に子どもたちを救うわけではないけれど、子どもについて書かなければいけないという想いがやまない。機会があれば、いつかどこかで、また皆さんのお目にかけることもあるかもしれない。
2刷からの追記 表題作「かみさまののみもの」はギャンブル依存症について扱っている。当事者側からの視点で描いているが、依存症は取り返しがつかないままで良いとは思わないし、問題は個人の弱さではなく、個人の弱さにつけこむ仕組みや救済のなさだ。依存症を産まない、依存になった場合に早期救済される社会であることを望む。
上記内容は本書刊行時のものです。