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咲ききれなかった花
ハルモニたちの終わらない美術の時間
原書: 못다 핀 꽃
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年6月16日
- 書店発売日
- 2021年6月5日
- 登録日
- 2021年5月31日
- 最終更新日
- 2022年5月22日
書評掲載情報
2021-09-04 |
図書新聞
9月11日号/3511号 評者: 佐野正人 東北大学教授/日韓比較文学・比較文化 |
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紹介
涙なくしては読めない感動の美術の授業! 日本軍「慰安婦」被害者たちが、絵を描くことを通して自らの傷と向き合い解放されていく姿を、温かい視点で描いた本。彼女たちが描く心の叫びが聞こえてくる絵画はどのように描かれ、どのような意味があったのか。著者はハルモニたちに絵画で自己表現するきっかけを与えた美大を卒業したばかりの女性。「ナヌムの家」の門をくぐり、ハルモニたちの心の扉にノックし続け扉が少しずつ開けられていく過程を著者の絵とともに編んだ大変貴重なオールカラーの一冊。
目次
日本の読者の皆さまへ
はじめに
偶然
まなざし
震える手
お試し期間
ハルモニ美術クラス
孤独な情熱
隠された傷
やまない苦痛
新たな試み
赤い唇
ひたむきに
とまどい
変化
故郷
悪い手
後ろ姿
絵画謝罪事件
パンツ、はかせな
あの時、あの場所で
好奇心
供出
悪夢
ガラクタ
朴玉蓮姉さん
出会い
沐浴する娘たち
連れて行かれる
責任者を処罰せよ
絵画になった苦痛
最後の授業
鳥になった姜徳景ハルモニ
エピローグ 遅咲きの花
注釈
美術の時間」の背景
訳者あとがき 梁澄子
出版背景にあるもの 北原みのり
巻末付録 ハルモニたちの絵
前書きなど
はじめに
本書は、1993年から1997年までの間、日本軍性奴隷制被害者ハルモニたちと共に過ごした美術の時間の物語だ。ハルモニたちの絵の中の、たどたどしい線で描かれた花や、顔を手で覆って泣いている少女、ゆがんだ日本軍人たちの姿は、まるで子どもが描いた絵のように見えるかもしれない。しかし、そこに秘められた魂の震えとひとたび対面したら、容易には目を背けることができない。
私は、美術の先生としてハルモニたちと出会った。生まれて初めて筆を握ったハルモニたちも、美術の先生になった私も、「新米」であることに変わりはなかったから近道はなかったが、幸い美術の時間は日常のささやかな楽しみとなっていった。そして、ハルモニたちの癒やされない傷を目撃した時から、私はハルモニたちが絵を描くことを通して自身の傷と向き合ってくれることを願うようになった。しかしそれは、絵を趣味として楽しんでいたハルモニたちにとって、また別の苦しみとなった。その頃私は無謀にも、ハルモニたちのはかり知れない苦痛の底にあるため息と涙をほじくり返してしまったのだ。
日本軍による集団的性暴力の被害から心理的に回復することは、自身との孤独で厳しい闘いだ。不条理の極地とも言える経験をしたハルモニたちは、戸惑いや恐れをはねのけて、長い間秘めてきた傷を紙の上に取り出し始めた。その頃からだっただろうか。ハルモニたちは傷を吐き出して空いた空間に、何かを代わりに埋め込み始めているように見えた。それは、人生で初めて経験するときめき、興奮、満足感のような小さな希望たちだった。しかし言うまでもなく、苦痛を絵で描いたからといって傷を負う前に戻ることはできない。それでも私は、絵を描くことが、避けていた苦痛と対面し耐えうる力を育てる一つの方途になったことを、ハルモニたちとの美術の時間を通して確認することができた。ハルモニたちは、自身の傷を自ら治癒し、成長した者だけが手にできる自由を得たかのように明るく輝いていた。
私は本書を通して、傷だらけだったハルモニたちが日本軍性奴隷制被害者という苦痛を克服して新たな人生に挑戦し、人生を全うする最後の瞬間まで情熱を燃やし続けた一瞬一瞬を伝えたい。本書を手に取ってくださった方々が、ハルモニたちの勇気と最後の息づかいを活き活きと感じ取ってくださることを、ハルモニたちの苦痛を描いた絵が読者の人生を慰め、情熱をかき立ててくれることを願うばかりだ。
20年以上前の話を今になって書くことになったきっかけは、2015年に朴槿恵政権によって発表された「慰安婦」問題に関する「日韓合意」だった。これを聞いて堪えきれない怒りがこみ上げた。そんな気持ちで始めた作業ではあったが、ハルモニたちの絵を引っ張り出して文と絵を描き加える過程で、ハルモニたちと過ごした時間がよみがえり、うれしくもあり、泣きそうになったりもした。 そして、これまで感謝の気持ちを伝えることができなかった人々のことが思い浮かんだ。「『咲ききれなかった花』絵の会」のキム・スッチンさん、チェ・ウンジョンさん、イ・ジュヒさん、チャン・ユンジョンさん、美術授業に関心を持ってくださったナヌムの家と韓国挺てい身しん隊問題対策協議会の関係者の皆さま、日本で展示会を開催してくださった大韓民国国会挺身隊対策議員の会と旧日本軍による性的被害女性を支える会代表の宮西いづみさん他日本の諸団体の皆さま、画家のキム・ゴニさんをはじめとする民族美術協議会の方々、ならびに韓国の諸団体、ドイツ・ベルリンの展示会を企画してくださったキム・ジェヒ先生、遠く米国から応援してくださったキム・ビョンムン先生をはじめ、ハルモニの絵を紹介できるようお力添えくださった数多くの方々に感謝したい。また、長い間私の心の中に秘めていたハルモニたちとの感動と希望の時間を一冊の本にしてくれた、ヒューマニスト出版グループにも感謝する。何と言っても、最もありがたい方たちは、姜徳景、金順徳、李容女、李容洙の各ハルモニたちだ。とりわけ今は亡き姜徳景ハルモニに深い感謝の気持ちを伝えたい。ハルモニたちと共に過ごした美術の時間は、姜ハルモニの情熱に支えられて一歩一歩、前に進むことができた。最後に、姜徳景、金順徳、李容女ハルモニをはじめ亡くなったすべての日本軍性奴隷制被害者ハルモニたちのご冥福をお祈りする。
2 0 2 1年5月 イ・ギョンシン
版元から一言
1993年~1997年までのあいだ、日本軍性奴隷制被害者ハルモニたちに、絵を教えていた女性がいた。
美大を卒業したばかりの20代の女性が、ハングルを教えるボランティアとして、ハルモニたちが暮らす「ナヌムの家」を訪れた日から本書ははじまる。壮絶な性被害を体験した女性たちを前に、天気の話くらいしかできない自分、無力な自分に逃げるように帰宅したあと、「自分にできることはないか」と考え、「そうだ、絵なら教えられる」と思いついたことをきっかけに、ハルモニたちとの美術の時間がうまれた。
本書は、ハルモニたちの美術の先生として共に時を過ごしたイ・ギョンシンが2018年に記した美術の時間の物語だ。
はじめは身の回りにあるモノを実写していく時間だった。ある日、ナヌムの家に行くと、ハルモニたちの空気が怒りに満ちていた。日本政府が「慰安婦」問題について否定したニュースが流れたのだ。美術の先生は今日は絵の授業は無理かも・・・と思いながらも、ハルモニたちにある提案をする。
そしてその提案が思わぬ方向に、ハルモニたちを、そして著者であるイ・ギョンシンさんを導くことになる。
絵を描くことが、壮絶なトラウマを抱えた人たちにとってどのような力になるのか。性暴力でうけたトラウマを治療するという概念もない時代に、美術の時間を通して自らの過去を「描いた」ハルモニたちとの時間が丁寧に描かれる。
この時間を通して数多く残された絵の背景にあった物語、またハルモニたちの活き活きとした言葉や、涙、笑いが蘇る。
上記内容は本書刊行時のものです。